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キライナオンナ

味がしない。アイスコーヒーがただの冷たい水のように私の体の中に流れていく。

〝でね、この間さぁ健人の部屋に行ったんだけどね、冷蔵庫開けたらビールと梅干ししか入ってないんだよぉ?これで何作れってのぉ、もう!〟

キャピキャピ楽しそうに話す紗也は入学したころからの友達。一応、今は…

〝大変だね。あ、そろそろ行くね。用事あるんだ。〟
〝え?今から健人も来るのに?!〟
〝うん。ごめん、またね。〟


膨れっ面している紗也を無視して店を出た。
会いたくない。紗也にも健人にも。


あれは、学生生活も半分以上を過ぎた頃だった。
〝ねぇ、ずっと思ってたんだけどさぁ。もしかして健人のこと好きなんじゃない?〟
〝えっ…〟
〝あ、やっぱりぃ!私そういうの分かっちゃうんだよねぇ!いつもこの時間よくここにいるよね~
…あ、ほら!健人ー!〟
〝おぉ、何?〟
〝呼んだだけ!〟
〝なんだよそれ〟

その日をきっかけに、同じ時間、同じ場所に私達は集まるようになった。
いつも他愛もない話をしていた。
会えるのも話せるのも素直に嬉しかったし、紗也は私を応援してくれている、しばらくはそう思っていた。

その日も、いつもと同じ場所、同じ時間のはずだったのに。なんだか歯車がずれるような、嫌な感じがした。
〝あ!健人、そのグッズ私も自分の同じの持ってる!!〟紗也が言う。
〝ファンなんだぁ!え?同じのってことは同じ時に観に行ってたとか?!〟

普段からテンション高めの紗也が、よりテンション上がっている。
ひとしきり喋り終えると次の用があるからと紗也は去っていった。〝あとはお2人で~〟なんて言いながら。
私は胸の奥がモヤモヤして、せっかく2人きりになれたのにテンション下がりまくって会話が楽しめなかった。

その日を境に私のモヤモヤはどんどん増していった。
気にしすぎかもしれない、偶然かもしれない、
何でもないのかもしれない。でも…
SNSを見る度に、紗也が健人の投稿にテンション
高めのリアクションを繰り返すようになっていた。
今まではそんなこと無かったはずなのに。

猜疑心と不安と、色んな種類の負の感情に飲み込まれながら数ヶ月過ぎて冬休みの頃。

思い詰めた顔の紗也が目の前にいる。
〝あのね、怒んないで聞いてほしいんだ。実は健人に付き合おうって何回も何回も言われてて。ずっと断ってたんだよ?健人のこと好きな友達がいるからって。でも、断りきれなくなっちゃって…私、妊娠しちゃったの…実はもう5ヶ月なんだ…。
許してくれる?応援してくれる?私達…友達、だよね?〟

〝わかった〟

別に許した訳じゃない。真っ白の頭の中から絞り出された言葉はそれだけだった。
それしか出なかった

紗也は許してくれたんだと受け取ったらしく、ほっとしたような笑顔を浮かべていた。



アイスコーヒー飲んで味がしない、なんて末期だよね私。なんて思いながら川沿いの道を歩いている。
3月の空気はまだまだひんやりする。

今年はいつになく桜の開花が早いらしい。
心なしか蕾が膨らんでいるように見える。

桜が咲く頃には、私は新たな土地にいる。
紗也と健人は、ママとパパになる。

その前に卒業式か。
卒業したら、SNSを全部辞めよう
もう2人に会うことはない。永遠に。

きっと毎年桜が咲くのを見る度に、
嫌いな女を思い出すんだろうな。
蕾を眺めながらそう思った。


咲いたら、桜に願いをかけよう
いつか笑い話にできますように、と。













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