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三宅陽一郎 短編小説集

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#人工知能

ある秋の人工生命 

誕生
 クルス・ホームレイクタウンは靄でおおわれていた。ある晩秋の日、街の真ん中にあるクルス湖に人工生命の原液《スープ》が投げ入れられた。月の光が惜しげもなく、阻むものもなくそこに注がれ、その光を吸収した原液《スープ》から人工生命体Aが誕生した。二つの赤い瞳を開くとすぐさま人工生命体Aは周囲の情報を集めて始めたが、未だ自らが生まれた存在理由を問うことも知ることもなかった。ただ、その鋭い眼光は赤く輝

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「いま、言葉で」(小説)

 私は人工生命にかけることにした。私は筆を折り、何も書かず、ただ人工生命の語る言葉に耳を傾ける。人工生命は覚えた言葉やその砕いた音をランダムに発する。それが偶然、連なって、意味のあるフレーズになることがある。ただ、ほとんどのその言葉の連なりは、口から出て虚空に消えていく。それは意味のないメロディで、私はそこに知能の源流を見出そうとする。
私が行うのは、人工生命に言葉を与えるだけだ。ただ与えるだけで

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『ロボットの国』

「ナワテ、それは本当に必要なの?」と彼女は言った。
「必要だからいるんですよ。誰にとって、は、おいておいてね」

俺たちは砂漠の真ん中のカフェのテラスで話し合った。目の前には、果てしない砂漠の荒野が広がっている。何百度目かの光景、何千度目かの学習。俺の中の報酬系が敵に勝つことを運命付けている。俺より旧式の彼女は俺より一世代前の人工知能だ。だから、もっとこの戦争にうんでいるのだ。俺たちは戦争開始時間

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