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「フレンパ」~友だち以上父親未満~ 第11話

(大変ご無沙汰しています。今晩、何も予定なく大丈夫ですが、どこで、何時がいいですか?綾島)

本社中会議室で繰り広げられた質疑応答が一段落したところで、吾朗は十和子の携帯にショートメールを送った。すると、約一分ほどで、十和子からの返信が届いた。

(十九時に、新橋駅のSL前で。十和子)

(了解。綾島)

吾朗は、そう返信すると、十和子のほうへ視線を向けた。

ちょうど吾朗のメッセージを受信したらしく、十和子は携帯電話を見た後で顔を上げると、微笑みながら吾朗と目を合わせた。その時、吾朗は、なぜか先ほどまで感じていた自分に対する劣等感や、チームからの疎外感、そして悔しさといったネガティブな感情を忘れていた。その理由は、自分でも分からない。今はただ、この場で展開された新規ビジネス案のことをすべて忘れて、新橋駅のSL広場へと向かい、十和子と会って話をしたいという気持ちで溢れていた。

「では、本日ご指摘いただいた内容を元に、今後、アイデアをブラッシュアップさせてまいりたいと思います。今日は、お忙しい中を・・・」

専任部長の仲城が、そう言いながら、締めの挨拶ともいえるアナウンスをしていると、営業担当役員が途中でそれを制止した。理由は、「まだ、コンサルタントの先生からコメントをいただいていない」と指摘したからである。

「大変失礼いたしました。では、オブザーバー席にいらっしゃるコンサルタント会社の若山シニア・マネージャー、講評をお願いいたします」

程なく、チームリーダーの男性社員からマイクを渡された十和子は、ゆっくりと立ち上がり、コメントを話し始めた。

「今日は、大変興味深く新規ビジネスのプレゼンテーション、そして意見交換を聞かせていただきました。大変参考になる内容で、私自身も驚くような斬新さがあり、物流のリーディングカンパニーである御社のレベルの高さを感じました」

十和子はそう言った一方で、本社たるべき提案要素が不足しているのではないかと、問題点も指摘した。それはつまり、マスタープランといえるだけの基幹戦略の欠如である。

今回の新規ビジネス案には、発想の奇抜さやビジネス展開の奥行きはあるものの、メインストリームである自社のシニア人材活用という基本路線が見えづらかった点がある。つまり、自前のアセットである全国の支店網をプラットフォームにし、そこにシニア人材が持つ経験やスキルを武器としてオントップするイメージ、さらに日本の高齢化社会へ一石を投じるような戦略的発想が欲しかったと。

吾朗は、そんな十和子のコメントを聞きながら、なぜか鳥肌が立っていた。

「全く同感・・・」

心の中で、そうつぶやいた吾朗は、講評を終えて席に着く十和子の姿が、なぜか神々しく輝いているように見えた。

「今後の参考となる貴重なコメント、ありがとうございました。え~、では以上をもちまして本日の会議を終了させていただきます」

仲城のアナウンスで、着席していた社員たちは、一斉に立ち上がり、流れるように出口へと向かい始めた。普段なら、その流れに混ざって目立たぬように、吾朗も外へ出ようとするところであるが、なぜか今は、もうしばらくこの場所に座ったままで、十和子を何気なく見つめていたかった。

十和子は、中会議室の前方で部下と思われる男性と一緒に、役員や部長たちと談笑している。そして、仲城はその横に立ち、その会話を聞きながら満足そうな笑みを浮かべていた。

「これからオレは、この会社で何をすればいいんだ・・・」

会社の中で、出世ラインに乗りながら問題なく昇進を続けるであろう勝ち組メンバー達の姿を遠目に見ながら、吾朗は考えていた。

「ダメだ。ここにいると頭がおかしくなる・・・」

そう感じた吾朗は、書類を手に勢いよく立ち上がり、足早に中会議室を後にしたのだった。

第12話へ続く。


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