見出し画像

ナチス式敬礼をするイスラエル極右と、シオニズムを批判するユダヤ系アメリカ人のセレブたち

10月3日、イスラエルの極右の男性がナチス式敬礼をし、イスラエルの司法改革に反対する人々がナチスのガス室で殺されなかったのは残念だと発言する動画が中東専門サイトMiddle East Monitorに掲載された。

 この動画は、極右はどこの国、地域でも同根だということを表し、悲しいことにこうした人物の発言に教育的背景を感ずることはあまりない。日本でも自分の考えと合わない人々を「反日」「売国」というラベルを貼る勢力がいる。

 イスラエル人のナチス的敬礼で思い出すのは、ユダヤ系の科学者アインシュタイン(1879~1955年)や哲学者ハンナ・アーレント(1906~1975年)らがニューヨーク・タイムズに1948年に出した意見広告だ。

アインシュタイン

 アインシュタインたちは、1948年にユダヤ人極右の武装集団「イルグン(現在のリクードの母体)」や「シュテルン・ギャング」がデイル・ヤシンというパレスチナのアラブ人村で虐殺事件を起こすと、「ニューヨーク・タイムズ」紙に意見広告を出し、これらの組織のことを「ファシスト」と形容し、ナチス・ドイツがユダヤ人に対して行ったことと同様なことを、これらの極右組織は行ったと厳しく非難した。アインシュタインは、ユダヤ人が国境をもたずにアラブ人と共存していくのが本来のユダヤ教のあり方であり、ユダヤ教の本来のヒューマンな教えが狭量なナショナリズムによって損なわれていくことを懸念した。

 アインシュタインは、2019年10月から11月にかけて競売に出された文書の中でも次のように述べている。

「アラブ人との直接的な協力だけが、理にかなった安全な共存をつくり出す(Only direct cooperation with the Arabs can create a worthy and secure existence.)」

「もしユダヤ人がこれを認識しなければ、アラブ地域におけるユダヤ人の地位は徐々に、完全に維持できなくなるだろう(If the Jews do not recognize this, the entire Jewish position in the Arab region will gradually become completely untenable.)」

 アーレントはアラブ人との合意なしにパレスチナのユダヤ人国家は生存できないと考え、シオニスト勢力への批判を強めていった。アーレントは、パレスチナへの植民を進めるハイム・ワイツマン(初代イスラエル大統領となった人物)はイギリス帝国主義の下僕であり、ユダヤ人の領域から異民族を徹底的に排除することを考える修正主義者たちを「ファシスト」と見なすようになった。

全体主義が求めるのは事実と虚構、真実とウソの区別ができない人間である ーハンナ・アーレント

 第二次世界大戦以前、アメリカではシオニズムがユダヤ人の間で主流のイデオロギーになることはなかった。シオニズムはアメリカとは異なる国家への「忠誠」をユダヤ人の間に求めることになるからだ。アーレントも第二次世界大戦が終結すると、シオニストの指導者たちは植民地主義を追求していると考え、またシオニズムを「血(兵士)」と「土(領土)」によるナショナリズムと断言するようになった。

 今年8月21日にピュー・リサーチセンターによるユダヤ系アメリカ人に対する世論調査でネタニヤフ首相に信頼があるかという問いに対して、「まったくない」「少しはある」という否定的な見解が42%、「幾分もっている」「大変ある」という肯定的な見解が32%で、26%が知らないと回答した。リベラル層になるとネタニヤフ首相に対する否定的見解が70%、肯定的見解が10%、「聞いたことがない」が10%だった。

ジュディス・バトラー 私は選択の余地がなかったので、生まれながらにしてシオニストだった。私の家庭生活の精髄とも言えるものだった。しかし、シオニズムに疑問を呈すれば呈するほど、それとの愛着を断ち切った。それは人々の破壊を見たいというわけではなく、民主主義の基本的原理を体現する国家構造を目にしたいからだ。 https://www.azquotes.com/quote/1556587

 現在のアメリカのユダヤ系セレブでは、リベラルなダスティン・ホフマンは、イスラエルが2010年5月末にガザに向かっていた支援船を拿捕し、トルコ人をはじめとする9人を殺害し、630人を拘束すると、その直後に予定されていたエルサレム映画祭をメグ・ライアンとともに欠席(ボイコット)した。やはりリベラルな考えをする女優のナタリー・ポートマンはイスラエルが2018年に「ユダヤ国家法」を制定し、イスラエル国家はユダヤ人だけによって構成されることを法的に定めると、これを人種主義だと否定し、イスラエルの「ノーベル賞」とされる「ジェネシス賞」の授与式への出席をボイコットするなどシオニズムというナショナリズムに強い拒否感を示すようになった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?