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モハメド・アリのヒューマニズム ―伝説のボクサーはイスラエルの占領の下に置かれるパレスチナ人に強く同情した

 6月3日は、アメリカのボクサー・モハメド・アリの命日だった。アメリカのイスラムのイマーム(導師)オマル・スレイマンは昨年末、インスタグラムへの投稿の中で、「ベトナムからガザへ。戦争マシーンに対する批判は容易ではない。しかし、偉大であるということは、真実のために多大な犠牲を払うことを意味する。モハメド・アリはその瞬間を決して逃さなかった、だからこそ彼はパレスチナのためにも戦ったのだ。人道のためにあなたも声を上げようではないか。」と語った。(Middle East Monitor, June 3, 2024)

モハメド・アリ、パレスチナ人の少年と https://x.com/21WIRE


 イスラムに改宗してから3年後の1974年、モハメド・アリはレバノン・ベイルートを訪問し、「米国はシオニズムと帝国主義の牙城である」と発言した。このベイルート訪問では、「私の名前において、また米国のムスリムを代表して、故地を解放し、シオニストの侵入者を駆逐するパレスチナ人の闘争を支持することを宣言する」と述べた。

 1985年にはイスラエルに乗り込んで、アトリト刑務所に収監される700人のシーア派ムスリムの釈放を呼びかけた。イスラエルはこの呼びかけを拒絶したが、アリはロニー・ミロ外務副大臣などイスラエル高官と交渉を行った。

 1988年1月、パレスチナでイスラエルの占領に抗議し、投石や商店閉鎖などで抵抗の意思を示す第一次インティファーダ(蜂起)が開始された直後に、シカゴのパレスチナ支援集会にかけつけて、イスラエルの占領を痛烈に批判した。

 カシアス・クレイが「モハメド・アリ」としてイスラムに改宗するきっかけとなったのは、白人が黒人奴隷を殴り、キリストに祈りを強制することを描いた漫画だった。この漫画は、キリスト教の信仰は白人支配層によって黒人に強制されたものであることを表すものであったが、アリには強い衝撃となった。この漫画でアリは、キリスト教は自らが主体的に信仰する宗教ではないことをあらためて知ることになった。また「カシアス・クレイ」という名前も白人から強制されたものであると考えるようになった。現在の自分の宗教や名前を維持することは人種主義の文化や伝統の中で生きることではないかと思いをめぐらせていく。

Muhammad Ali at a Vietnam war protest in Los Angeles June 23, 1967. https://www.facebook.com/santamonicahistorymuseum/photos/a.182150548462376/5728516460492396/?type=3&paipv=0&eav=Afa_AteoJubjMFyIe2b3TIqx7i-BRwWcmbZFJYfxx8_NvCyKOQGeuw-61TZbM7jAPyI&_rdr


 イスラエルやその基盤となるイデオロギーであるシオニズムを激しく批判したものの、アリにはユダヤ教自体を非難する考えはなかった。アリの娘のハリーファは、ユダヤ人と結婚し、「ユダヤ人の中には良き生活を送る人がいる。彼らは死ねば天国に行くだろう。宗教は問題ではない。善良な人間ならば神から祝福され、ムスリムもクリスチャンもユダヤ教徒も同じ神に奉仕する。神への仕え方が異なるだけなのだ。一つの神を信じる者は誰でも家族の一員なのだ。神は我々をおつくりになり、そして我々は仲良くやっていかなければならない。」と述べている。

 モハメド・アリは、神が「モハメド・アリ」という人物について最も関心があるのは、彼が善良な人間で、真の信仰者として生活しているかどうかだと語るようになった。モハメド・アリは米国の内外で、困窮する人々を助け、ジェンダー、経済、また人種的な平等を説いて回った。世界の戦争や暴力の前提になるのは食べ物や医薬品の不足、また宗教の名の下に人々が不寛容になるからだと考えた。

アイルランドとアイルランド人を称賛 https://ireland-calling.com/muhammed-ali-praises-ireland/#google_vignette


 パレスチナ人たちは国家によって守られるべき法律すら存在しない。彼らは自らの国家もなく、イスラエルはパレスチナ人国家を一向に認めようとしない。パレスチナ人にはパスポートもなく、イスラエルによって渡航文書が発行されるのみだ。イスラエルの裁判所は入植者の訴えに応じてパレスチナ人の土地の収奪も認めるが、土地・家屋の接収についてパレスチナ人の裁判所には何の権限もない。このように、イスラエルの裁判所は国際法に違反することすら「正当」であるという判断を下している。

 シオニズムに対するアリの反発は、こうしたパレスチナ人に対する不正義がまかり通り、現在ガザで多くの市民が犠牲になるように、正当な理由もなくパレスチナ人たちが殺害されるなどイスラエルが人道に反する行為を継続するからだ。


兵役拒否で5年の懲役と1万ドルの罰金 https://1960sdaysofrage.wordpress.com/2018/03/02/clay-v-united-states/

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