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「火事場泥棒」のようなイスラエル軍のシリア攻撃 ―イスラエルの国際法違反は実にもどかしい

 12月8日のアサド政権の崩壊に伴い、イスラエル軍はシリアから占領するゴラン高原の緩衝地帯に進駐するようになり、イスラエル軍は昨日までに480回の空爆を行い、うち350回は有人機によるものだと主張している(BBC)。

イスラエルはアル・バイダとラタキアの港湾を攻撃し、15隻のシリア海軍艦艇を破壊したか、あるいは大幅に損傷を与えたと報告されている。数十発の海対海ミサイルも破壊されたと報じられている。少なくとも5つの空軍基地への攻撃で、シリアの全MiG-29戦闘機部隊と、備蓄されていた弾薬を含む数十機のヘリコプターと飛行機が全滅したと報じられた。また、ダマスカスではシリアの化学兵器製造を担ったとされる化学者が暗殺されたが、モサドの関与が指摘されている。

シリア国民はアサド政権の崩壊を喜んだが・・・ https://x.com/rallaf/status/1768713956825161998/photo/1

イスラエルによるこれらの攻撃は国際法に違反するものであることは言うまでない。アサド体制の崩壊と、その後のイスラエル軍の好き勝手とも言える対シリア攻撃は、ロシアがシリアへの駐留を継続しているだけに、大国としてのロシアの権威の失墜を表すものでもある。シリア反政府勢力とイスラエルの連携も疑われるようになった。

2017年12月フメイミン空軍基地を歩くプーチン。アサドは並んで歩くことをロシア兵よって遮られた。 https://x.com/rallaf/status/1866784736540233785/photo/1

 イスラエルのネタニヤフ首相は、90日ぶりの記者会見で、ゴラン高原の主権をイスラエルに認めたドナルド・トランプ米次期大統領に感謝の意を表した。ネタニヤフ首相はイスラエルが1967年のシリアとの戦争中に占領し、それ以来占領している地域であるゴラン高原は「永遠にイスラエルの一部」になることを強調した。

 米国のトランプ政権は、イスラエルの要求を満たすかのように、イスラエルがシリアから占領するゴラン高原にイスラエルの主権を認め、やはり占領地であるエルサレムに米大使館を置き、エルサレムがイスラエルの首都であることを認めた。国連憲章では、武力による土地併合は認められないのに、安保理の常任理事国である米国が武力による領土併合を認めた。これでは米国にはロシアによるウクライナのクリミア半島や東部地域併合を非難する資格などない。日本は、米国と同調してロシアのウクライナ侵攻を非難しているが、イスラエルのシリア侵攻を非難しなければ公平ではない。

イスラエルの国際法違反の行為が国際社会からの批判がないままに行われていると声がアラブ・イスラム世界から上がるようになっている。シリアの作家で政治評論家のリメ・アッラーフは、Xに、イスラエルの行動は「文字通り違法で不道徳な他国の領土への侵入であり、シリア人の防衛する権利を奪い、怪物的な政権が倒れるやいなやイスラエルによってシリア軍は壊滅された」と投稿した。

 しかし、イスラエルのシリア攻撃はイスラエル国際社会における孤立をいっそう深めるもので、シリア社会が分裂すれば、イスラエルの安全保障に否定的影響を及ぼす可能性がある。

 2003年2月20日、ブッシュ政権がイラク戦争の準備を着々と進めていた時期にエドワード・サイードはカリフォルニア大学バークレー校で「米国、イスラム世界、パレスチナ問題(The United States, the Islamic World, and the Question of Palestine)と題する講演をした。パレスチナ人に対するイスラエルの不正義がなくならない限り中東には平和が訪れることはない、米国はイスラエルへの支持やイスラエルによる人権侵害を検討すべきだと説いた。

1970年代後半、パレスチナ世界で最初に、我々にとっても彼らにとっても軍事的選択肢はない、と言った人の一人が私であり、そして私は間違いなく、こうしたことを書いている唯一の有名なアラブ人であり、私がここで言っていることと全く同じことをアラブの報道機関に書いている人である。 https://philiphowarth.wordpress.com/edward-said/

 イスラエルは、拷問、暗殺、市民への軍事攻撃、領土併合、大量殺戮、通行の自由の禁止や妨害、医療支援の阻害、水の強奪などを行っているが、こうしたイスラエルの行為は米国の承認があって行われている。イスラエルを支持することによって、米国は国内のパレスチナ系市民に対しても人種的な不要な監視、拘束をしている。同様に、サイードはアラブ諸国政府のパレスチナ人に対する扱いにも非難の矛先を向け、40万人ものパレスチナ人が難民キャンプの外に移住することはできないなど人権が蹂躙されている。

 サイードはかつてのヨーロッパ社会のユダヤ人に対する扱いに同情を示しつつも、しかし過去の不正を考慮することは、イスラエルがパレスチナ人に対して行っていることを正当化するものではない。イスラエルのユダヤ人たちは建国以来、自らがかつてされた人権侵害をパレスチナ人たちに対して行っている。

サイードの言葉 Remember the solidarity shown to Palestine and everywhere Becouse it is a just cause, a noble idearl, a moral quest for equality and human rights. パレスチナやあらゆる場所で示された連帯感を思い出してください。それは正当な大義であり、崇高な理想であり、平等と人権を求める道徳的な探求だからです。 https://medium.com/@Prof.hatembazian/saids-trilogy-orientalism-the-question-of-palestine-and-covering-islam-ff1445b734b0

 山口淑子『誰も書かなかったアラブ』(1974年)の中には

「四次にわたる『中東戦争』の中で、『パレスチナをめぐる問題』が何か一つでも解決されたことがあっただろうか。

 イスラエル軍は国連決議を無視して『占領』を続けるし、アラブ・ゲリラは、その報復と『奪還』をめざして一層過激な行動に出ている。

 ときたまもたらされる大国間の申し合わせによる『中東和平』は、その戦いのたまさかの休みであり、真の『解決』にはいつも至らない。」と書かれてある。

 同書の中で山口さんは「戦争の災禍をもろにかぶるのは弱い人々なのだ」と述べているが、パレスチナ問題、イスラエルの国際法違反は山口さんが見た1970年代、またサイードが語った2000年代初から何も変わっていないことが本当にもどかしい。

日本の古本屋より

表紙の画像はイスラエル軍によって破壊されたラタキア港のシリア艦隊
https://www.bbc.co.uk/news/articles/cqx808q7lrno

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