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【だれかのじかん】森裕介さんの巻

今回は、愛知でシネコンを運営する中日本興業・森裕介さんのお話です。
名古屋の映画好きにはシネマスコーレ・坪井篤史さんとの長年のタッグでもおなじみの方。「ゴミ映画に光あれ」と、映画を2人で語り尽くす「アメカル映画祭」を共に企画されています。
名古屋空港に隣接するシネコン「ミッドランドシネマ名古屋空港」で番組編成を担当する、森さんの2020年春のお話。

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― お仕事は「ミッドランドシネマ名古屋空港」のご担当ですよね。

基本的に空港の専属です。番組編成という立場ですね。空港はうちの唯一の直営館ですから。

― 名古屋駅前の「ミッドランドスクエアシネマ」は、直営館ではないんですね。

名古屋駅前の方は、うちと松竹さんの共同事業体です。今はなき豊田ビルと毎日ビルが再開発になる際、もともと入ってた劇場が共同で新しく劇場を始めました。運営が中日本、番組は松竹が担当することになってます。

― 空港の方は直営だから、プログラムも自由度が高いわけですね。

そうです。やりたい放題(笑)というと語弊があるけど、まあそういうことです。

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― コロナの期間は、リモートワークだったんですか?

そうです。4月14日から6月半ばまで丸2ヵ月、在宅勤務でした。

― 真面目に自粛してました?

はい(笑)。劇場が開いた5月22日からは、様子を見に行ってました。空港や他の劇場を視察しながら、普通に映画を見てたんですが(笑)。
テレワークなんてできるのかと最初は思ったけど、配給元は東京大阪にあるし、こういう状況だったから何とか成立したのかなと。その後も「これでできるじゃん」という思いは少なからずあります。

― 皆ちょっと気づいちゃいましたよね。「意外と在宅勤務でやれるぞ」と。

ですね(笑)。とはいえ、我々の場合は劇場が紐づいてるから気になるし、お客さんの動向も数値だけでは見えない。行くと意外に人出はある。空港なんかショッピングモールはすごく混んでて、映画館はガラガラ。

― ミニシアターは「ミニシアター・エイド」とかもあり、ファンも助けなくちゃという共通認識がありましたが、シネコンは「まあ大丈夫だろう」と。ホントに大丈夫なのかなと思ってましたが。

実際は、すっごく厳しいです。大赤字。そりゃあ真っ赤っ赤です。

― それでも倒れることはない?

まあ、会社の体力、財政状況にある程度の担保はあるので、補償は受けつつ従業員雇用はとにかく守っていこうというのが前提ですね。この状況がいつまで続くのかは不安ですが。
6月11日まで「ミッド2」は休館してましたが、新作も少ないからクローズすることで経費を詰めて、何とか雇用は確保しようというところですね。

― シネコンも、再開後はかなり厳しそうですね。

正直これでもまだスクエアと空港はましな方ですよ。県下では一番二番だと思う。でも、やっぱり作品によるのかなと。自粛期間中はテレビのスポットCM、バラエティ番組に俳優が出演するようなパブリシティもなかった。そういうのは、やっぱり大きいのかも。
ネットではミニシアター・エイド、リモート制作とかの映画情報は多くて、家にいてできることは映画なのかなという気はしましたが。

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― 森さんは、家でも映画を見てたんですか?

もっぱら家にあるDVDを見直してました。大林宣彦監督の追悼で一人上映会もしました。当初GW明けには再開できるかもという話もあり、自分の劇場でできる作品はないかなと見直してました。
あとは「アメカル映画祭」の予習をしてました(笑)。

― 企画を考えてたんですか?

4月の開催予定が流れたの。「しくじり俳優大学」という企画でした。

― 問題を起こした俳優の特集ですか?

いや(笑)、問題というか、以前はスターだったけど今はDVDスルーで劇場公開作品が少ない人。例えばニコラス・ケイジ、トラボルタとか。

― なるほど、外国映画ですね。ビックリしました(笑)。

日本人はさすがにね(笑)。アル・パチーノとかデ・ニーロ、ジョン・キューザックとか。DVDはどんどんリリースされてるんですよ。その辺を掘り起こしつつ、彼らを紹介する企画を考えてたので、ニコラス・ケイジのB級映画を見てたりしてました(笑)。

― じゃ、結構楽しく過ごしてたんですね。

うーん、でも人と会う機会が家族以外ないし、散歩がてら近所のゲオやブックオフに行く毎日でした。意外にお客さんが少なくて「みんなやっぱり配信なのかなあ」と。昭和天皇崩御の時とかはレンタル屋が混んでたけど。
休んでる間に季節が変わったことにはビックリしました。自粛を始めた頃は暖房器具が出てたのに、夏仕様になった。こういう仕事をしてるから、今までは映画で季節を感じてたんですよね。春はドラえもん、GWはコナン。春休みが終わって客足がしぼんで「あ、学校が始まったんだ」と。自然の寒さ暑さ、雨や桜とかで感じることがなかったんです。

― 新鮮ですね。人間らしさを取り戻したと(笑)。

新鮮だったけど、違和感でした(笑)。「やっぱり自分の感じ方はコレじゃない」って。
あとは基本、ずーっと番組編成予定表とにらめっこしてました、本当に。

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― プログラムを組むって、映画好きからすると一番の憧れポジションですよね。

そうですね、その意味では恵まれてると思います。
予定を組む上で、何を一番気にしてるかというと、回数です。朝から晩まで、決まった営業時間に映画が1日何回上映できるか。
空港の場合は12スクリーンが回る回数の合計。1日平均65回前後に収まる中で本数を調整する。それを常に先までシミュレーションし「ここならアレが入るな」と考えていく組み方をしてます。
メジャー作品もある程度は封切で上映できるので、それ以外の単館系作品を自分でお願いしたり、配給からお願いされる。そこでその回数をシミュレーションしながら「コレよりこっちがいいな」と選ぶわけです。
休業期間はそれが0回になりました。3月頃から、本来あった映画がどんどん消えていった。あれが消え、これが消え、12スクリーンが余ってしまう。何とかフォローしなきゃと、いわゆるセカンド、二番手でやれる映画を考えていきました。
3月に「4月、5月にやろう」と決めていた映画は休館になったからできず、それを5月22日からスタートしました。空港周辺ではやってない映画、自分が見て面白かった映画を集めたつもりです。
だから当初やろうと思ってた映画を再開することで、それほど「急いで集めなくちゃ!」とはならなかった。よそのシネコンの中には急場しのぎで集めた感じのところもありましたね。僕は何でもいいとはしたくなかった。自分なりの意志をちゃんと持って番組編成をしたいと思ったんです。

― 今は、空港では『仁義なき戦い』とか、東映の旧作を特集上映中ですよね。オリジナルのラインナップなんですか?

完全オリジナルです。これだけまとまってやるのは、多分うちだけ。ちょうど『仁義なき戦い』シリーズや『県警対組織暴力』が初めてデジタル化したから、それを交えてやってみようと思って。

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― かける映画がないという時に、独自性が強いミニシアターは自分で工夫して組めるけど、シネコンの場合は大きな映画が飛ぶとどうしようもない。森さんのところは、その中間みたいな感じなんですね。

そうですね(笑)。どうしようもないから「何でもいい」とするのは違う。選ぶ基準は、近くでやっていない映画やスクエアでやってない映画、自分が見て面白かった映画。「こういう時だからこそ楽しめるものを」という観点で選んでるつもりです。
今は、延期した映画が今後どこに来るのかの匙加減が一番難しいところですね。消えた映画が戻ってくる可能性もあるから、むやみに入れられない。今後のコロナの状況も分からない。だから少し抑え気味にはしてます。

― じゃあ、今は森さんにとっては腕の見せ所なんですね。

そうですね。そういう意味では、すごくやりがいがあるんです。

― 新作の予定がガタガタに狂ってしまって、シネコンはどうやって組み直すんだろう、大変だなあと思ってました。でも、逆にやりがいの時期でもあるんですね。

そうですね。そこで「自分だからこそ」という思いがある。意思の伝わるプログラムを組みたいんです。「何でもかんでもどうぞ」じゃない選び方がある。劇場ごとの特性や地域性、得意な客層もあると思うんで、それを踏まえてね。

― コロナ以前、私は「新作映画が多すぎじゃない?」とも思ってたんです。次々に新作が出て、飽和状態。本当にこんなに必要なのか。今回いろいろ立ち止まる機会にもなるのかなと思ってました。

映画寿命が短いということですよね。上映回数がどんどん減って、気付いたら朝1回しかやってない。本当はそうしたくないけど、せざるを得ない状況です。その中で僕らがやれることは何だ? というジレンマは常々ありますよ。
今回、僕が組んだものの中にも、あっという間に終わっちゃった映画を入れてます。そういうのを救ってあげたい思いもあったんですよね。面白いのに勿体ない。
昔みたいに1スクリーンで朝から晩まで皆が映画を見てた時代とは違い、維持できないから今のシネコンシステムになってしまった。それは分かるけど、本来じっくり見るべきであろう単館系の作品も、2週3週で終わってしまうと見られない。

― いい位置にいますね、空港の映画館は。

まあね(笑)。だから今回は「まだまだ見に来てくれる人たちはいるんだ」と思いました。良い映画の延命措置が少しでもできたらいいなと思う。
せっかくのこの機会にいろいろ挑戦して、改めていろいろ感じることができてますよ。

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コロナが感染拡大を始めた3月頃から、窮状に陥ったミニシアターのインタビュー記事を何本もここで書いてきました。現在、再開した映画館に足を運ぶと、どんな状況でも映画を見に来る映画ファンを抱えたミニシアターより、むしろシネコンの客足の悪さが個人的には気にかかります。
シネコンとひと口にいっても、全国さまざまな状況があることでしょう。
多様な映画館が、多様な形で、この先も続いていってくれたらなあと。



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