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「ミニシアター、今どうなってますか?」シネマスコーレ・坪井さんの話 その8

2020年3月末、緊急事態宣言直前あたりから、ミニシアターレポートとしてシネマスコーレ・坪井篤史副支配人のインタビューを続けています。
前回の記事は9月。あれから日本はコロナ第3波という状況になり、現在もさらに感染拡大は続いています。
現在の愛知県では全域12/18~1/11まで「お酒を出す飲食店営業は夜21時まで」と時短要請が出ています。
シネマスコーレではどんな状況なのか、坪井さんに伺いました。
(取材日:12月30日)

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― 年末年始、お客さんは劇場に戻ってきていますか?

皆さんが休みに入ったので、平日でも土日みたいな感じにはなってきました。平日なら10人くらいのところが20人ほどの入りになってきた。スーツケースをガラガラ引いてそのまま映画を見ていくような、移動してきている人はいません。12/26から始まった『無頼』の客層は、ほぼおじさん。中高年が見たいものがシネコンにないんですよね。井筒監督の、日本の『ゴッドファーザー』みたいな映画におじさんたちが来てくれています。

― 任侠映画だし、お正月らしいですよね。

はい。ヤクザ映画を映画館で見られることは少なく、そういう意味ではおじさんたちのおかげ。あと『タイトル、拒絶』は、若い人と映画ファンの両方が来ています。勿体ないのが『ベター・ウォッチ・アウト』。開始が20時半過ぎなので、本来入るべきお客が半分くらいになってしまってます。来週は夕方の上映回になるので期待していますが、夜はもう12月中旬から全然ダメです。

― この近隣も、夜は真っ暗ですね。

19時-20時頃から周囲の店が閉まり始め、うちはそこからまだ2本上映。その時しか見られない企画モノは、何とか動員2桁。本当は5-6人のところが年末なので10人は来る。でもコロナでなければ20人くらい来ていたと思うと辛いです。夜は本当に損しちゃってますね。

― 通常の年末と比べると、どのくらいの割合ですか?

昼は8割、夜は6割くらいに落ち込んでいます。全体に7-8割くらい。

― 今は第3波といわれていますが、それ以前には盛り返しましたか?

6.7.8.9月と上がってきて、10月でまた落ちた。波の過ぎた後に落ちるんです。第3波の11.12月でまた数字が上がってきたけど、12月は夜がアウトになってしまいました。8月の2波の時より、入りは悪いです。今は、昼間はわりと来てくれますが夜は外へ出るなの状態になっている。12月は24時間営業のデニーズも21時で閉店し、完全に真っ暗です。

― 上映時間の見直しも考えていますか?

1月スケジュールはもう出した後ですが、木全支配人とも話してます。1日6本を5本にし、早めに閉めた方がいいんじゃないかと。でもそこはかなり正念場で、2波の時にも考えなかった問題。夜は行っちゃいけない空気がこんなにも流れると…。夜については年明けの課題の一つです。僕自身も昼と夜に同じ映画がやっていたら、昼に行くと思う。
でも昼だけで数字が足りないなら、夜もやらなきゃいけない。シネコンの場合は上映回数が多く昼に稼げますが、夜をどうするか考えるのは、名古屋では我々や名古屋シネマテークくらいだと思います。ひとコマひとコマが命綱で、ライフラインがそれしかない。一つ削るのは命の一つを削ること。だから迷うんです。夜もやるのはスタッフ的にはあまり抵抗ないけど、客がいないのに開けている状況は苦しいですね。10人が見ている電気代と1人が見ている電気代を考えると、難しいところです。

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― 11月には、映写機が壊れたそうですが。

11/2に壊れ、11/6の工事で11/7には新台でした。15年使えると思っていたのが10年でダメになった。使い方もあるし仕方ないですが、昨年ならまだ良かった。コロナの年に負債を作るなんてね…。客足も戻ってないのに600万。すごいことですよ。

― 外部に加え、内側からの危機ですね。

そうです。心肺停止でどれだけやっても無理だった。9月末から前兆はありましたが、お金がないからその状態でやるしかなかった。クルマでいうとタイヤ3個で走ってる状態。9月は2個になった。前輪がないのではなく、前後1個ずつで均衡を保って走ってた感じ(笑)。
機械を立ち上げた時に立ち上がらず、でもどこか触ると立ち上がる。もう電源を切らない方がいいとなり、電源を入れっぱなしで帰ったりしていました。11月までは年内いけそうだと思ってた。年明けには入れ替えを考えていたんですが、早まった。11/2昼に電源が落ちました。

― 上映中に?

はい。それがまた奇跡的なんです。恥ずかしい話ですがお客0人の回で、別の映画のテスト上映をしていた時でした。通常バックアップとして、何かあった時のためにブルーレイで上映できる準備をしていますが、たまたまその映画だけそれがなく、上映中止にしました。僕は35mm映写機が死ぬ瞬間を2回見ていますが、35mmは部分的に取り換えたり、業者を呼ばなくても自分たちで直したりできるんです。

― アナログはやはり強いんですね。

そうなんです。DCPが壊れる瞬間は初めてでした。すぐ切り替える話を進めましたが、600万なんて支配人も出せるわけがないから、借りたと思います。とにかく入れなくてはとその夜から工事。映写機を一台入れるのは映画館を立ち上げるのと同じで、数時間と聞いてた工事が全然終わらず、朝7時まで付き合いました。映画館が明日もやれるという喜びはあっても、新しい映写機でワーイと喜べる気持ちはゼロでしたね。

― 1日も休業しなかったんですね。でもこの状況で負債を抱えるのはシャレにならない。

映像は綺麗になり、作り手側は喜んでくれましたが、こんなに客が戻らない状況で借金を背負ってやっていく重さ。監督たちの喜びは受け止められるんですが自分たちが喜べない。そのうち第3波がやってきた。11/7以降は酷い精神状態でした。フル動員できてもキツイのに、8割しかない状態で、本当にもう毎日が完全に絶望。
唯一、映画を映すストレスはなくなりました。例えば画が暗いとか、本来の色と違うとか。どこの映画館もある問題ですが、それがなくなったのは良かった。

― コロナは皆が共通の悩みですが、映写機は内側の悩みですよね。クラウドファンディングをついに考える、ということは?

うーん、それは考えました。4月の緊急事態宣言の時は踏み切れなかった。映画もやっていないのにお金をくださいとは言えなかった。今回は映画はやっているので言えるんですが、プライドもある。僕はもう映画で返すのは無理だと思っています。映画館は続けつつ、別の一手があるといいとは思う。今は営業できる程度にはお客がいますが、それに加えてお金が必要で、1.5倍、2倍にしなきゃいけない。

― 個人的には、もはや支援を募ってもいいのではと思いますが。

4月の時は断固やらないと思ってたけど「映写機補填上映」とか銘打った支援上映みたいなことならいいのかなと。2000円で半分は映画代、半分は劇場支援になるとか。支援上映なら映画館が自給自足で頑張る気持ちになれ、お客も出したお金に対してすぐギフトがもらえる。クラウド支援もやれば集まるかもしれませんが、その重みがまたのしかかる気がします。もらったは良いが、どう返すか。支援上映ならその場で返せる。2/19がちょうど開館記念日だし、ピカピカの映写機で見られます。
でも難しいのは、休館の時の流れがなければ言いやすいと思うんですが「映画館はどこも支援がないとやっていけません」という状況がさらに悪化すること。

― 確かにそうかもしれません。「ミニシアターはいつもそうだ」と思われてしまう懸念も分かります。

そう、「ブラックだろ?」と。ただでさえミニシアターの印象は良くない。
休館から半年、紆余曲折がありましたが、大きな問題は映写機。それと、今までなかったお客さん同士のトラブル。「あの人、マスクしてません」「あの人が飲食してます」とかの苦情対応の苦労が増えました。そんな中でやってます。

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これは僕の問題ですが、10月まではどうにかやれた。大きな問題は映写機の負債。2つ目は担当作品の失敗で、見込んだ映画が思うように動員できなかった。コロナ対応の仕事が増えて神経を注ぐ半面、配信舞台挨拶などのイベント量は戻ってきてしまい、仕事量だけは倍増しました。
次の4月でスコーレ勤務20年ですが、辞めようと思いました。限界を感じ、もう無理かなと。4月までに状況を改善し、改善したら辞めようと思いました。今は考えを変え、4月以降もまだいるつもりではいます。
辞めたいと家族に相談したら「別に良いんじゃない」と。「人の関係性があるから難しいと思うけど、自己判断でどうぞ」。館でつながった人の関係性は4月までには処理し切れないし、その人たちが今後どうしていいか分からなくなるだろうと。確かにそう。昔から知っている人たちは「投げておけば後はスコーレがうまくやってくれる」となっています。
何人かに相談し「そこまでやることではない。辞めていい」という人もいたし、「仕事の見直しをして環境を変えろ」という人も多かったです。

― 見直しや改善とは、簡単にいくのでしょうか?

今は一日中劇場で仕事してますが、誰かがやれる仕事もあるんじゃないかと。4月になってもまだいようと思えた一つの綱は、コロナ禍で手伝ってくれているインターンの存在です。劇場に彼らが残るかどうかは別として、作業的には楽になりました。彼らの助けがあるのは大きい。切っても切れない関係がこの劇場には自分を介して存在していて、その人たちがいるからやれていたのもある。その絆だけを守っていくやり方ができればいいのかなと。一般業務を切り離し、その人たちと密にやっていく方がいいのかなという考えになりました。そうすればだいぶ楽になる。

― 人に任せられることは任せようということですね。

はい。インターンの中でも自発的にここでやりたいという子が何人かいて、きっかけになりました。4月までとするのは一度止め、それまでに何とかしたい。今までやっていた仕事を切り分け、その子たちを育て上げる。それでずいぶん楽になる。

― バイトでもなく、インターンというところが不安ではありますが。

「スコーレでやりたいんです」と特にやる気を見せている人がいて、彼が救いになっています。ほぼ毎日来ていて「ここで仕事したい」と。

― ゆくゆくはきちんと働ける状況が来たら正規採用すると。

はい。今まで自分が引くことは考えてこなかったけど、スコーレに殺される気がしました。マイナス事業ばかりになりもう心のバランスがギリギリで、止まってしまったらもっと最悪だと思ってやっていた。環境を変えてダメだったら、もう一度考え直します。みんな年齢も上がり、支配人も昔ほどは血気盛んになれない。なれよというのは酷だし、負担を増やしてしまう。
3ヵ月で自分が辞められる道を作ろうと思ったけど無理だなと思っていたところに、インターンの希望が差したので、1年間で環境を変えたいです。
出勤時間のシフトもコロナ禍で関係なくなってきています。自分がそうしたくてしているから良いんですが、夜の上映以降に打ち合わせが始まれば結局深夜。翌朝は8時出勤。それならそういうフリー体制にしたい。休日にはスコーレから電話が来るし。それも環境改善の一つです。

― 仕事の電話が休みに掛かってくるともう休めなくなる気持ちは分かります。

「現場で解決してよ」と思うような電話。休み前には問題が発生しないようにしていくのに。内部からも外部からもお客さんからも、いつでもいると思われている。あまり良くないです。

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― 働き方改革ですね。

そうです。20年かかって気づきました。自分からはそういうサインが出ないんですよね。不可抗力というのはすごい。コロナの不可抗力、映写機から、映画からの不可抗力。自分の限界に気づかず限界突破でやってきましたが、サインが出た。「ここまで見せつけないとお前は気づかない」と。そこは本当に映画って、映画館ってすごいなと。
僕は20年ほぼここで過ごし、いろいろあったけど今回は究極にどうしようもない状態。ちょうど20年というのも伏線でした。おそらく壊れるまでやっていたでしょう。「壊れた時は壊れたと言え」と外的な力で教わった。

― 再起不能になる前に気づけたと。

はい。体調的に壊れる前に映画や映画館からサインが来たのは助かったと思います。
職場的な問題はどこの劇場にも乗っかってきていることは間違いなく、その色も変えていかなくては。それが今の働き方改革かも。うちは圧力とかはないけど、このまま行ってしまっていたら、倒れた時に理由を問われ支配人が「ここまでスタッフにやらせる劇場なんだろう」という目で見られる。今回、そこも映画館を救ってくれたのかなと思います。変えていかないと。

― 坪井さんは特に「映画のためなら死ねる」みたいな人ですよね。激動の年でしたね。

好きなことで働くことの限界と対処を体験できたのは貴重でした。映画のためならとやってきましたが、それが揺らぎました。壊れたら壊れたまま終わるのが普通です。職場をブラックにしないための働き方改革。20年も働き方改革なんてしようと思わなかったのに、このタイミングとは。
映画館にいたいのにいたくないという気持ちにさせられた数ヵ月でした。数々の出来事に直面したのは「もう一度映画館に戻してあげるよ」ということ。本来ならトークショーとか楽しいことをすると皆が喜んでくれ、自分も辛いことは忘れ、それで「映画館、最高!」となるんだけど、そうじゃなくなった。働き方改革をし、帰れる時は帰る。僕にとってはタイミングが良かったのかも。壊れる証拠が明確になりました。

― そういう話は内部的にもしていますか?

勿論しています。改善できることは全部しましょうと。この1ヵ月「皆がとにかく負担なくやろう」と。特にコロナ以降、負担しかないところでやっていたから、考え直さないとダメだと。2020年、自分でもよく保ったと思います。2021年は、環境を変えていきます。

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今回は一部を有料記事にし、シネマスコーレへの支援に回すことにします。この下には「坪井さんが2020年にもっとも楽しんだ映画タイトルと理由」が書いてあります。とある日本映画です。
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「ミニシアター、今どうなってますか?」シネマスコーレ・坪井さんの話 その8

miyabi yamaguchi

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編集・ライティング業。映画情報誌の取材・編集をしています。ハマジムというAVメーカーでコラムを連載させてもらっています。 https://t.co/RPKh68gatO