見出し画像

日々のこと 0527

電車ではほとんどの人がスマホに目を落としている。私もスマホを見る。ふと顔を上げると「車両全員スマホを見ている」という光景が、結構ある。

電車には当然ながらさまざまな人が乗っていて、目的地もばらばら。これからデートの人も、ぐったり帰宅する人も、同じ車両に揺られている。大事件ではなくても、電車の中では案外いろんなことが起きている。
でも誰も気づかない。みんなうつむいて一心不乱に手元を見ている。
お邪魔にならない程度に一人一人の行動を眺めていると面白い。みんなの営みの中にいろんなものが垣間見える。
些細でありきたりで小さな映画が、誰も知らないところで上映されている気分になる。観客は私ひとり。いっぱいいるけど、私だけ。

今日の地下鉄で見た、80代くらいのご夫婦。
空席は二つ。私の隣と、通路を挟んだその向かい。夫婦は分かれて座った。次の駅でご主人の隣が空くと、彼は自分の隣にできたスペースをパン!と叩き「こっちへ来い」と呼んだ。「いいわ、ここで」と奥さんは動かない。ダンナは怒った様子で何か言いかけ、黙り込んだ。
そのまま怒った表情で奥さんを睨みつけているダンナ。一方、奥さんは涼しい顔で車内吊りを見たりしている。
目的の駅に着くと、ダンナは素早く奥さんに寄り添い、人ごみから守るように彼女の腰に手を回し、くっついて降りていった。
(なんだ、仲良しじゃん!)と思った。

電車を乗り換え、別の路線へ。
ドア付近に若い男性が立っていた。オシャレとは言いにくいもっさりした人で、その向こうに女子高生三人組が座っていた。男性を見ては何かひそひそ囁き、クスクス笑っていた。
私は心の中で(あーそれね。集団で笑われると無意味に傷つくよ。女子高生って無敵だから仕方ないか~)と思っていた。
駅に着き、開いた扉から小さい蝶々が入り込んだ。扉はそのまま閉まり、蝶々は電車に乗ってしまった。動き出す電車、彼の周りをヒラヒラ飛ぶ蝶々。彼はかぶっていたキャップを脱ぎ、蝶々をつかまえようとした。女子高生が笑うのをやめて、彼と蝶を見守った。私も見守った。
蝶は結局つかまらず、隣の車両へと飛んで行ってしまった。
もしもキャップの中に蝶を入れ、外へ放してあげることができたなら、女子高生は彼の評価を上げたかもしれない。でも世の中そんなに甘くなかった。何事もなかったかのようなふりで帽子をかぶり直す彼。女子高生たちは顔を見合わせ、さらに笑い合った。
(んー、残念だったねドンマイだ!)と思ったところで、目的の駅に着いたので、私は電車を降りました。それだけのお話。

電車の中では毎日、誰も知らない映画が上映されています。見れても、どってことないけどね。


記事を気に入ってくださったら。どうぞよろしくお願いします。次の記事作成に活用します。