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「ミニシアター、今どうなってますか?」その7 シネマスコーレ・坪井さんの話

再開から3ヵ月経った、名古屋のシネマスコーレ。
今はどんな状況になっているのか、坪井篤史副支配人に現状を伺いました。

このnoteでやった坪井さんのインタビューをきっかけにミニシアターエイドなど奇跡の支援活動も起きましたが、愛知県では、8月6日に緊急事態宣言が再び出され、先週24日に解除。
現在、同館では席数半分の26。入替ごとの場内滅菌や換気、入場時には消毒液を持ったスタッフが一人ずつ来場者の手指にスプレーするなどの予防対策が取られています。そんな中での、坪井さんのお話です。
(取材日:2020/8/30)

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― 最近は、どんな状況ですか?

5月23日に再開し、お客さんは毎月増えてきてます。8月の動員は6月の2倍になりました。新作ばかりになったのもあり、ようやくというところです。
それまでは休館前の続きの作品や、独自プログラムの特集を上映していました。どうすればお客様が戻ってきてくれるか分からず、7月は1日5本ずつ。支援金があったおかげで7月までは休館してもやれてきましたが、そのお金が徐々になくなり、ついに8月は自給自足。今月は新作をめいっぱい詰め、朝から夜まで12時間やってます。

― 時間的には元通りということですね。

そうです。ようやく「よかったね」という感じの動員状態になりました。その間に世間ではコロナ第2波が来た。いろいろあったわりには、よく頑張っていると思います。

― 8月は再び緊急事態宣言が出ましたが。

はい。今回は補償も休業要請もなく「営業はご自由に。でも外出は控えてね」というものでした。本来もっと入る映画をこんなにやっているのに、宣言が出ちゃった。仕方ないと諦めていました。
そこで不思議な現象があったんです。また客が減っていくのかと思ったら、あまり関係なかった。何人かのお客さんに言われたのが「シネコンにあんまり見る映画がない」と。
今、シネコンでは外国映画がない。「映画でも行こうと思っても何もない」と言うんです。
内藤瑛亮監督の『許された子どもたち』は、名古屋ではうちだけでやらせてもらっていたんですが、コロナ禍に負けず新聞がずいぶん記事にしてくれた。読んだ一般の人が、探してここへ来てくれたんです。緊急事態宣言中に4週やっても数字は落ちず、逆に上がっていく感じでした。
城定秀夫監督の『アルプススタンドのはしの方』も、結局お盆も減らなかった。今年は夏の戦争映画をどこもやらない中、『おかあさんの被爆ピアノ』『日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人』は、大々的にテレビや新聞で取り上げられ、最も動きにくいといわれたシニア層が動き出しました。ミニシアターへ人がたくさん来るようになったんです。

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― 感染対策もあれこれと。映画1本ごとにスタッフが場内を消毒して回られてますね。

はい、今はもちろん消毒や換気をしてるわけですが、ある日「しっかり対策してるんですね」と、お客さんに言われました。初めてミニシアターに来た方で、入れ替えの休憩中に僕らが座席を消毒する姿を見ていたと。
ミニシアターって狭いから、興行協会がいくら「三密じゃないです」とか言っても、初めて来る人には不安なわけです。うちはスタッフも少人数で、券を売った人が場内掃除も映写も物販もやる。つまり固定スタッフで顔が見える人間が徹底して作業していることが、すごく安心したというんです。
そして「シネコンは怖いです」と。いろんなスタッフがいて、置かれた消毒液は使う人も、使わず入る人もいる。僕らはスプレーを1人ずつ直接かけちゃう。
「見たい映画がない中で頑張って劇場へ行った先に、人の顔が見えない。サーモグラフィがあっても、本当に機能しているのか? 鳴ったら本当に止めるのか? その不安がミニシアターにはない」と言われた。
僕らはそうしないと経営できないと思って普通にやってたことが、意外に功を奏していた。初めて来た人が「こんなに安心できる映画館なら」と、また別の映画に来てくれました。
シネコンが悪いわけではない。ただ防御の強いお客さんもいるんです。僕らは1スクリーンしかないし、それを守るためにやっている。「51席しかないけど、半分で営業させてもらえるなら」と。

― ミニシアターは物理的に距離が近いですよね。シネコンでは場内消毒する様子を見ることはないけど、スコーレはロビーが狭くて中の様子も見える。

たまたまその人も映画を待つ間に見たらしい。「まだ入れないのかな」と思ったら「そういうことか」と。
支配人の木全も「除菌だけは開場が遅れてもいいから絶対やれ」と言っていて、お客さんには待っててもらわないといけないけど、それを意外と見てる。同じようなことを何人かに言われました。「模範の映画館の代表になってください」とか言われた。数ヵ月前には、つぶれそうな映画館の代表だったのに(笑)。

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― 今は、やっぱり常連のお客さんが大半ですか?

それがお盆あたりは、ほぼ初めて来た人たちなんです。
劇場ファンでなく純粋に映画を見に来た人。新聞記事とかを見て、常連ではない一般客の老若男女が来ています。

― 意外ですね。初めての人はこういう映画館はちょっと緊張しますよね。

シネコンはクリーンなイメージだけど、こんな掘立小屋みたいなところですから敷居が高い(笑)。でも意外と掘立小屋には顔が見えるスタッフがいて、支配人なんてすごい勢いで消毒液をかけている。パフォーマンスじゃなく普通にやっていたことがお客さんから評価され、次の映画にも来てくれたのはすごく驚きました。そうなればいいなと思っていたことが起きてます。

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― 舞台挨拶もリモートを導入されました。始めたのはいつ頃ですか?

7月の終わりです。僕は対面の方がいいと思っていたので、うーん…と思っていましたが、新作を始めても結局ゲストが来れないし、映画上映だけの日々が続いていた。時々ゲストもいましたが、マスクしたり以前とはいろいろ違ってました。
7月末の『許された~』では内藤監督の対面トークが決まっていたので、僕もそこに向けて盛り上げようとしていたところに、中止したいと連絡が来ました。感染拡大中の東京から移動してきてどう思われるか、内藤さんの思いもあり、リモートの提案をしました。それが第一弾。4回やって4回ともほぼ完売の満席でした。
そこでも、お客さんが初めて来た人ばかりだったんです。彼らが「こんな小さな映画館でシネコンみたいなことやれるんだ」と驚いていた。
今のシネマスコーレの初見率の高さはスゴイ。自分の見たい映画を、楽しんで帰ってくれてます。
お客さんがスクリーンに拍手でゲストを迎え、「重い映画を見た後に生中継で監督の話が聞けるなんて面白い」というSNSの反応もあった。そんなふうに受け取るんだなと。リモートなんてつまらないと思っていたのに、お客さんは違った。
8月の舞台挨拶は対面とリモートが並行する時期でしたが、だんだん対面の方が客足が悪い現象が起き始めたんです。たまたまかと思ったら、お客さんに「対面は不安」と言われてしまった。「リモートの方が安心感がある」と。
僕は18年ずっと対面トークをやってきましたが、今は新規客がリモートを見ている状況。初めて来た方に「以前もいろんな監督が来ていたのは知ってるけど、行きづらかった。ただでさえ行きづらいミニシアターで、固定客とその世界観に圧を感じてしまっていた」と言われたんです。

― リモートになったことで、逆にフラットな状況が生まれたと。

そうなんです。「リモートは監督と直接話せなくて寂しい」「サイン会がなくて残念」とかのセオリーも、初めて来た人には関係ない。「こんな小さいところで映画の後に監督の話が聞けただけで十分」とすごく喜んでくれました。
スクリーンの女優さんに手を振ってる人もいた。そんなに距離がなくなるとは。スクリーンに向かって写真を撮るなんて結構な笑い話だけど、すごくいい時間なんだと。

― 東京と違い、もともと地方では大人数の舞台挨拶は経費がかかる。その点もリモートだとたくさん出てもらえますよね。

そう、せいぜい主演と監督。今は俳優たちも出てくれる。8月だけで11回、すっかりリモート映画館になってます。映画の付録感覚で出演者も多彩。経費も安くて気楽。縁が薄くなるかと思ったらそんなこともない。コロナのおかげです(笑)。
僕の中で、対面とリモートの垣根が取れました。お客さんに作り手の言葉は届くし、新しい人がこんなに来てくれて、今にピタッとはまった。本当に「ミニシアターの新しい生活様式」になってきたのを、この8月に実感しました。こんなところに映画館があると知った人がドッとやってきて、映画館の安全性と、見たい映画がやってることに気づいてくれた。本当に驚きました。

― 不幸中の幸いみたいなことがいろいろと起きている。

全部、予想してなかったことです。席も半分で、リモートなんてやりたくないと思ってた。
「マスクだけして来てくれれば後はこちらでやります、ただ座って映画を見てくださるだけでいいです」という道程を作っていたら、初めての人にはそれが良かった。僕らが普通にやっていたことで、大規模な劇場よりこっちがいいと認識してもらえたのは意外でした。

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― 今後は、どうなっていくんでしょうか。

今のような安全面やリモート挨拶の人気状態がまさかお客さん側から起きるとは思っていなかった。今までは自分たちで「僕らはミニシアターです、皆さんが来てくれないとやっていけません、頑張っています、認めてください」と、全部こちら側の発信だったんですよね。それが日々のコロナと共に映画館を続ける作業に追われ、そういうことを忘れていたんです。

― 必死で、アピールどころじゃなかったと。

はい。それが初めて来た人に好評だった。
新規の人が認めてくれたのは本当に嬉しかったです。ずっと続けるのが次につながると分かったので、今後はそこから何ができるか。新しくついてくれたお客さんが楽しめることを考えようと思います。

― 目の前のことをやっていくことが意外なところから評価され、意外な方向に転がったと。

そうですね。基本ですが、映画館としてお客さんに映画を見せる作業をしていきますよ!

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いつまで続くのか先が見えない座席制限など、映画館運営にとっては長期にわたる生殺し状態が継続中です。
実際いろいろな映画館へ行くと、多少なりとも観客は戻りつつあるような、ないような、なんとも曖昧な状態だなと感じます。
それでもこのインタビューは、コロナの始まりから何度かやってきた坪井さんのお話の中では、一番明るいものになりました。実際にはまだまだ苦しいことに違いないわけですが、前向きに、前向きに。



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