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本屋の話

本屋の棚を眺めていて、たまに息苦しくなる。
「私を見て!」「私、私!」と四方八方から自己主張が聞こえてくるようで、しんどい。
CD屋とか洋服屋で平気なのは、ひと手間かけないとそれが使えないからだと思う。CDは機械を通さないと音が聞こえず、服はその場で着替えられない。普通、商品はパッケージされているのだ。本はそのまま手に取れて読めてしまう。素通りに罪悪感を感じる。

だって、どんだけあるんだ新刊。毎月こんなにたくさんの新しい本が発売されることに驚く。どれも美しい装丁で、時間をかけて売り場に並んだ書籍たち。私は一生かかってもここにある本を読み切れない。本たちが発するパワーに圧倒されて逃げ出したくなる。

それでも最近は、再び本屋に行く機会が増えてきた。語学を勉強してるので参考書や問題集、文房具をよく見に行く。本来、本屋は楽しい場所だ。流行もわかる。アマゾンは極力使わない。街の本屋を残したいな委員会の会長(会員ゼロ)なので仕方ない。

先日は韓国語コーナーで本を探していたら「あなた、語学をやってるの?」と70代くらいの老婦人に話しかけられた。「いいわね。私は英語教師をしてたの」と言う。
昔ロンドンにいたそうで、ケンブリッジ、オクスフォードにもいたらしい。「ロンドンは面白い街よ」と人の話、街の名所、留学時代、美術館の自慢が止まらない。「どこで韓国に結び付くのかな?」と30分ほど話を聞いたが、結局ロンドンに終始した。私が一度もヨーロッパへ行ったことがないと知るや「今まで何してたの?」とたいそう驚き「いつかロンドンへ是非」と去っていった。

おばあさんはロンドンが心から好きなんだろう。今の時代、海外旅行の話題の定番オチは「コロナが早く収まって、また行けるようになるといいね」だが、彼女は一度もそれを言わなかった。棚の前にしゃがみ込んで本を物色していた私とロンドンの良さをただ共有したかったんだと思う。
彼女が去った後でイギリスのガイドブックを手に取った。本は、棚の中で常に出番を待っている。



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