見出し画像

「ミニシアター、今どうなってますか?」その3 シネマスコーレ・大浦さんの話

名古屋のミニシアター・シネマスコーレから現場のお話、その3です。
同劇場を支えるスタッフの一人、大浦奈都子さん。3月末に取材に伺った時、私は大浦さんに「日記をつけておくといいのでは」と、軽い気持ちで、でもわりと真面目に提案しました。刻々と変わっていくこの未曽有の状況下、彼女にしか見えない映画館の大事な風景があると思ったからです。
大浦さんはそれを覚えていてくれて、「以前のことも思い出しながら、メモ程度だけどやってみました~」と見せてくれました。
臨場感に溢れたその日記をまとめ、許可をいただいて公開します。
3月~休館中の現在に至るまでのミニシアターの記録です。

「コロナ日記」 by 大浦奈都子

3月1日
大ヒットしていた作品が映画サービスデー(1100円)&日曜という、大入り確実の日。立ち見が出ると想定していたが、満席にもならなかった。少し不穏な空気に。

3月2日
「3月の入りは通常の7~8掛け」というのが木全支配人の予想だったが、明らかに日々お客さんが少なくなっていく。シニア層をほとんど見かけず、学生と一般(30代まで)が少しと、会員の方しか来なくなる。ニッチな作品の方が客入りが良いという現象が起きる。

3月24日
東京都知事の「不要不急の外出自粛要請」により、『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』の舞台挨拶が中止になる。

3月27日
中止が現実になって不安な空気が漂う。坪井さんが落ち込みまくる。今後のことを考えて、ちょっと言い争いになる。
YouTubeや配信の相談などを始める。

3月28日
『ひとくず』『東京アディオス』、たくさんお客さんが入る。こんな時に本当にありがたいという思いだけれど、お客さんが多ければ多いで、不安を感じてしまう自分がいる。

3月29日
ライターをしている山口雅さんが坪井さんを取材。noteにて公開され大反響を呼ぶ、あのインタビュー。

3月30日
noteが公開。大反響。坪井さんにいろんな人から連絡がひっきりなしに来る。全国のミニシアター、監督、役者などがSNSで次々と反応。
支援の意味での通販を始めようと思い、準備する。

3月31日
ついに動員0が出てしまう。6本上映して1日の動員がなんと9名に(過去最低)。

4月1日
スコーレの会議。坪井さんがブチギレ。
noteがこんなに話題になっているので、早急に通販(会員更新、スコーレ3ヵ月鑑賞券、30年史ほか)を始めるべきと提案。
通販開始。早速たくさん注文が来て、泣いてしまう。
テレビ朝日の「報道ステーション」から坪井さんに電話が。すごいところに届いてしまった。

4月2日
「報道ステーション」が決まる。明日撮影して明日放送とのこと!

4月3日
「報道ステーション」収録、放送。
坪井さんが落ち込んで疲れていて、危機感を背負っている感じがとても良い。
大反響。応援の声、続々。

4月4日
諏訪敦彦監督が中心になってミニシアター支援の動きがあるとの噂。
若い作り手も何か動いているという噂。
土曜日で少しお客さんが戻ってきた! と、喜んでいたけれど…。

4月5日
昨日が嘘のような不入り。
「ミニシアター・エイドというのが立ち上がる」と連絡。
お世話になっているある役者さんが撮影終わりに寄ってくれた。これ以降の撮影はすべて飛び、秋まで撮影はないという。私たち映画館にはたくさんの支援が始まって、作り手の人たちが声を上げてくれたおかげで助けてもらっている状況だけど、作り手側だって厳しい危険な状況のはず。
『ひとくず』『みぽりん』舞台挨拶。良い時間であった分、思いっきりやれないのが悔しい。
『シネマ狂想曲』の樋口智彦監督を坪井さんが呼ぶ。いろいろ相談。今を撮ってほしい。

4月6日
昼、3回目の動員0が出る。
東京でついに緊急事態宣言の発令が確実とのニュース。これを受けて次々と4月公開作品の延期の知らせが配給より入る。作品の入れ替えに大急ぎで取り掛かる。5月以降はもちろん、もっと飛んでしまう。
そして東京の映画館が1ヵ月間休館の知らせ。ということは、シネマスコーレも1ヵ月間新作が公開できないことが決まる。慌てて旧作の特集やアンコール上映を組む準備。
配給会社にすぐ動かせる旧作を上映できないかと相談。多くが良い返事をくれて、少し安心。
そして夕方の映画も動員0に。1日2回の0は初。
京阪神のミニシアターが合同でTシャツを販売開始した。坪井さんと即購入。
不安と希望が交互に来て、頭がおかしくなりそうな1日だった。

4月7日
休み。だけど落ち着かない。名古屋市長が愛知県緊急事態宣言を要求しているとのニュース。最近、肉とカレーばかり食べて確実に太った。

4月8日
「上映料はいらないから好きに上映して」と作品リストを送ってくれる配給会社が何件か連絡をくれる。「これまでやってきたことは間違いじゃなかったかな」と坪井さんが嬉しそう。
大橋裕之さんと岩井澤健治監督が支援のため作ってくれた『音楽』Tシャツが届く。泣く。本当にうれしくてありがたくて最高のデザインで、一生の宝物です。着て写真をツイートしよう! と思って坪井さんにも着てもらったが、一切笑顔を見せない。これを公開するべきか迷ってやめる。
井口昇監督の事務所であり音楽を担当されているワンダーヘッドの福田裕彦さんから大量の支援物販が届く。売り上げはすべて寄付してくれるという…。これも泣く。
通販で支援物販を買ってくれるお客さんからたくさんの励ましのメッセージ。いちいち泣いてしまう。
そして今日、ついに東京の映画館が休館に入った。とてつもない不安と無力感を感じる。愛知県の緊急事態宣言も時間の問題か。
夜、森ユースケさん(ミッドランドスクエアシネマ/アメカル映画祭/坪井さんの相棒)が来て、坪井さんといろいろ相談。坪井さんがどん底まで落ち込む。何を言ってもダメだった。
名古屋駅地下の店で布マスクが10枚1000円で売られていた。

4月9日
ぽっかぽかの陽気。
愛知県に緊急事態宣言発令のニュース。午後、緊急会議。休館中の対応をめぐり支配人と坪井さんが大喧嘩。会議は大荒れ。めまいがする。
名古屋の映画館と連絡を取り、休館日の調整。うちの休館日は3人とも4月13日で一致。
映画館によって対応が違うことがだんだんと分かってくる。一つ大きなモヤモヤがあり、夕方再び会議。昼とは打って変わって穏やかな会議。ここを樋口さんが撮影してくれた。
しかし、この何日かで慌てて組んだ番組がすべてパー。
通販の郵便振替がようやく届く。大量で嬉しい。井口昇監督が始めてくれた募金に、知り合いの映画監督さんからたくさんいただいてしまう。申し訳ない気持ちと嬉しさ、ごちゃまぜで泣く。ご本人たちも絶対にキツイ状況のはずなのに。
樋口さんが撮影に来る。カメラを向けられて今の状況を話し、ちょっと冷静になる。今日撮ってもらえて良かった。
京都みなみ会館のスタッフさんから電話。『音楽』上映中のため、Tシャツを売ってくれるという。励まし合いとブラックトークで元気が出た。
4月11日より販売予定だった『音楽』Tシャツ、急遽販売開始。
明日午後、緊急事態宣言が出るそうだ。

4月10日
信じられないくらい部屋が汚い。休みだけど仕事に行く。
愛知県の緊急事態宣言が発令。
正式に休館発表。
坪井さんは昨日、今日と、配給に休館のお知らせで大忙し。
ここ最近ずっとモヤモヤが続いて苦しい日々だった。もちろん休館は悔しいけれど、準備して、考えてのことなので坪井さんも私も案外スッキリしていた。
『音楽』Tシャツがすごいスピードで売れる。
坪井さんのインタビューをnoteで発表してくれた山口さんが再度インタビューに。
樋口さん、本日も撮影。
大林宣彦監督が亡くなる。『海辺の映画館 キネマの玉手箱』、当初予定されていた公開日の当日。なんということだ。

4月11日
休館まであと2日。
来てくれたお客さんは無料招待券を使う人が多く落ち込む。笑。坪井さんとお寿司をデリバリー。
『音楽』Tシャツが大量に売れる。ひっきりなしに買いに来てくれ、通販が全く進められずに嬉しい悲鳴。
お客さんもいつもより多い。嬉しいし、「休館前に」という想いで来てくださっているのが伝わる。たくさん応援の声をかけてもらう。でもお客さんが多いと、それはそれで怖さを感じてしまうジレンマ。コロナが始まってからずっとそうだけど、今日が一番つらかった。
東京からコギトワークスの関さんがわざわざTシャツを買いに車で1人で来てくれて、すぐに帰っていった。驚き&笑う。

4月12日
今日で最後かもしれない日。
夕方から樋口さんが撮影に来る。樋口さんがいると坪井さんは元気になる。
ある役者さんがまた東京から1人、車で来てくれて元気をもらう。
覚悟はしていたし、これから映画館を守る新しいすべを考える方向に進んでいたはずなのに、いざ最後の上映を終えてお客さんを見送ると、凄まじいモヤモヤと怒り。どうすれば良いか分からなかった。
客席で坪井さんと写真を撮る。もうここに約1ヵ月はお客さんが座ることはない。悲しいけど、なんか馬鹿な話をしていた。
シャッターを閉めてもモヤモヤが続き、最後に樋口さんにインタビューされた時は泣いてしまった。昨日「最後は泣く準備しておきます」とか冗談で言っていたのに。恥ずかしすぎて爆笑。坪井さんにからかわれる。
家に帰るとくたびれ果てていた。ふーっと一息したいところだけれど、明日から溜まりに溜まった大量の物販をやらなければ。
明日は「ミニシアター・エイド」の生配信に坪井さんが出る。
夜、一睡もできず。SNSばかり見てしまう。

4月13日
休館1日目。
映画を上映しない初めての日。普段は作品ごとに入れ替えがあるため、90~150分の上映時間を区切りに仕事を組み立てるけれど、ぶっ続けで仕事をするのは初めてで変な感じ。通販の梱包がはかどりまくる。
今日もたくさんの郵便振替と募金がある。知り合いからもたくさん。どうお礼をすれば良いのだろう。
午後から「ミニシアター・エイド」の配信準備、16時にスタート。
シネ・ヌーヴォさんとシネマ尾道さんのヒリヒリとした言葉と表情が刺さる。現場の生の声を聞けて良かった。坪井さん、おつかれさまでした。
坪井さんはこの1ヵ月、ラインナップ整理に奔走しながら、人前に出て外に映画館の窮状を発信し続けてきた。そのおかげで外とのつながりが増えて、こういう動きが高まったと思う。
支配人は愛知県興行協会での行政への支援要請。あと元気印。
私はSNSと通販。思えば、担当分けが知らないうちにできていた。
山口さんのインタビュー第2弾が公開。
シネマスコーレのInstagram開始。
「ミニシアター・エイド」のクラウドファンディング、一気にすごい額になっている。本当に1億円いってしまうのではないか!?

4月15日
『音楽』Tシャツ通販開始。早速、発送作業。住所50件書いたら右手がぶるぶる。支配人が「疲れただろうからぐるっと歩いて来い」と謎の発言。散歩で手が治るのかは置いておいて、天気も良く、気分転換になって良かった。夜にはXL以外売り切れ。
樋口さんの「5時スタ」が放送され、私の泣き顔がアップになったと坪井さんからLINE。恥。母から「泣いた」と電話。
「ミニシアター・エイド」が3日目にして1億円突破! い、いちおくえんですよ!? 身の引き締まる思い。
「名古屋シネマテーク・エイド発足」とツイッターで知る。
インスタのストーリーに手こずる。帰宅後、なぜかどうしてもカレーを作りたくなり、震える手で作る。

4月16日
『音楽』Tシャツ完売御礼。
「5時スタ」Locipoにて限定配信。

4月17日
名古屋シネマテーク休館前最後の上映日。
飲食店はどこを見ても「テイクアウト始めました」ばかりになっている。

4月18日
土曜日なのに新作の公開がない。
名古屋の映画館がすべて休館に入る。

4月19日
『音楽』Tシャツ再販開始。
田中俊介さんのスコーレ支援Tシャツが知らぬ間に始まっていた。坪井さん泣く。
以降、ひたすら『音楽』Tシャツ発送作業。

4月21日
5月6日に緊急事態宣言が明けた場合の、5月の番組を組む。コロナ対策を考える。本当にこれで良いのか、不安は消えない。
支援してくださった方への感謝状のデザインを始めるが、まったくうまく描けず断念。描いてなさ過ぎてイラストスランプ?
いや、もともと得意じゃないんだった。

画像1

大浦なっちゃん
(撮影:平野勝之監督)

***
3月30日にnoteで公開した坪井さんのインタビュー同様、ここから下は劇場支援の有料記事にします。
しかしながら今や、大変じゃない人なんていない状況です。劇場に限らず誰だって窮状。私自身もいろいろピンチです。誰かに支援を呼びかけることには正直迷いやもどかしさも抱えています。

どうぞご無理なき範囲で。以下にあるのは、大浦さんによる書き下ろしのイラスト1点です。よろしくお願いします。

ここから先は

0字 / 1画像

¥ 200

記事を気に入ってくださったら。どうぞよろしくお願いします。次の記事作成に活用します。