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「ミニシアター、今どうなってますか?」その5 シネマスコーレ・坪井さんの話


愛知では5月14日に緊急事態宣言が解除され、映画館も徐々に再開しています。休館していたシネマスコーレも、5月23日に再開。副支配人の坪井さんに現在の状況をお聞きしました。
(取材日:2020/05/20)

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― 約40日間の休館中は、どんな思いでしたか?

休館中も、出勤日はずっと朝9時半から来てました。適当に来たり帰ったりしてたら映画館にも悪い影響を与える気がしたんです。「君たちは活躍してませんね」と映画館に思われちゃう。
4月は取材もたくさん受けましたが、最初の2週間は心境を聞かれても正直「悲しい」しかなかった。支援もありモチベーションは保てたけど、問題は4月末からでした。
最初、緊急事態宣言は5月6日までということだったので、GW明けに再開すると考えて準備しました。うちの支配人・木全は楽天的で、宣言は明けるのではないかという認識だったんですね。でも世の中はまだそういう雰囲気ではなかった。
最初の山口さんのインタビューで「支配人が一番に消毒とか言い出した」と話しましたが、今回は首相より先に明ける宣言を出しちゃって(笑)。無理じゃないかなと思いながら準備してチラシとかも作りましたが、全てパーになりました。
5月は収入ゼロです。支援いただいたものの大部分、『音楽』Tシャツやミニシアター・エイドなどの入金はまだ少し先になる。5月7日に劇場が再開するシナリオが壊れちゃって、僕もかなり危機感が出てきていました。

― 緊急事態宣言は、5月31日までいったん延長しましたね。

そうなんです。スコーレ創立の1983年からやってきてる人は、基本的に世の中の流れに折れないんですよね。今まで何度も閉館の危機はあったわけで、それを乗り越えてきた人はウイルスに勝てると信じちゃう。良く言えば頼もしい、悪く言えば大きな勘違い(笑)。そうこうするうち、世の中が徐々に。

― 先が少し見えてきましたよね。愛知は、宣言解除が早まりました。

はい。休館ということを最初はマイナスに捉えてましたが、僕も考えを変えました。いろいろ休館中に経験し、だいぶ大人になりました。
もうシナリオも全部ダメになってるし、世の中どうなるかは世の中に決めてもらう。1年くらい休館になってもいいように、今のうちにやれることをやろうと思い始めたんです。

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― 支援も想像以上に集まりましたね。

岩井澤健治さんの『音楽』Tシャツ、井口昇さんの始めてくれた募金。ミニシアター・エイドの深田晃司さんや濱口竜介さんもそうですが、ミニシアターの危機に一番役に立った人たちは、実は映像作家でした。入江悠さん、他の監督さんたちも、これまでミニシアターにいろいろしてきた映像作家たちが最初に声を上げた。
休館してるのになぜ僕は毎日来てるんだ? と考えたら、Tシャツの発送作業のためでした。つまり映像作家が、休館中も映画館を回していたんです。「映画館の仕事はちゃんとあるよ」と。それはすごいことだと気づきました。
さらにリモートで舞台挨拶をやってくれという話が来始めました。それまで「配信の舞台挨拶なんて…」と思ってたし、僕は映画館の人間だから、配信で映画を見せることは完全なる敵だったんです。配信に慣れたらもう映画館に来ないんじゃないかと思ってた。でもトークをやってる時に、スタッフとして生かされている気がしたんです。休館中でも、スタッフが何かやってるのを見てもらえる。
本来、休館している映画館なんて忘れられてもおかしくない存在です。たまたまミニシアター・エイドとかで皆が注目してくれたけど、普通は休館していたら忘れてしまう。でも<STAY HOME MINITHEATER>の配信は、映画館を想起させる配信でした。齊藤工さんとトークをしたんですが「これは練習です。生で見るための大いなる予告編。次はスコーレで会いましょう」とか齊藤さんが言うんです。「流石だ、すごい」と思いました。
作り手たちが「スクリーンに映画は映っていないけど、君たちスタッフもやることはあるよ」と言ってくれたみたい。多分、彼らはそんなこと思わずに「スコーレを支援しなくては」となんとなくやったことが、実は我々スタッフに仕事を与えた。休館でも生かされる道ができ、休館がすごく身になりました。

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― 感染拡大予防の徹底したガイドラインも作られましたが。

「席数は半分、マスク、消毒、2メートル空けてください」という、キツいガイドライン。これは無理だと思った。はっきりと「赤字営業しろ」ってことです。僕には開館が第2の休館にしか見えないんですよね。
休館中は作家の劇場への思いに生かしてもらえたのに、復館したら、休館への第2ステップとしか思えないガイドライン。
うちは50席ですが、補助席など含め完売90席くらい行ける。それを20~25席にしろという。5回上映しても1回の満席に勝てないかもしれないなんて、完全に赤字興行です。人気の高い映画があれば、なお大変。そこだけすぐ完売しちゃう。
再開後すぐに人が来るかどうかも分からない。5回とも客5~6人しか来ないとしたら…。こんなことを1ヵ月もやってたら…。「閉めていた時の方がいいんじゃないか?」と思うようなガイドラインを作られちゃった。
どう回避するかは我々の努力次第ですが、他の映画館の人と話しても、みんな「想像するだけでぞっとする。どう考えてもマイナス興行を全員でやるんだよね?」と。
だからミニシアター・エイドとかの支援は、実はこれから生きてくるんです。お金が1ヵ月遅れて入ってくるのは、赤字興行をやる時の補填として役立つわけです。上手い構造になりました。
でも、それも2ヵ月くらいしかもたない。7月頃までは大丈夫ですが、8月は状況が悪かったとしても、もう支援はない。さらに怖いのは、コロナ第2波、第3波がやってきたら、また休館です。
復館は嬉しいけど、復館した先に見えるものは、最初の休館以上に暗いものしかない。下手すると復館したことが命取りになる可能性もありますね。

― 復館しても当面、新作もイベントもできないですしね。

そうなんです。新作なんてないし、東京が5月に宣言解除で6月に開いたとしても、地方劇場は名画座として生きるしかない。支援もして満足しちゃってるお客さんが「新作が始まったら行こう」なんて思ってたら、8月、9月かも。映画館が開いたからといって、すぐ行く気になれるものでもない。
7月半ばまでは相当しんどい戦いです。僕はコロナと共存の道を選びました。「もういいや」って。

― コロナと共存とは?

勝とうと思わず、共存する。映画館の存在を分かってもらうにはそれしかないと思うんです。様子を見ながら、実験的にコロナの状況を問いながら。面白いことやりたいけど今は我慢し、普通のことだけをしながら共存する。それが映画館を復活させる一番いいシナリオではないかと。
赤字興行になっても、これまでの支援に2ヵ月は助けてもらえるので、客が3人とかでもやっていきます。
7月末には舞台挨拶とかもちゃんと入れたい。第2波が来て再び休館したら、またTシャツ屋とかリモートおじさんになろうと思います。リモートや自分たちで作った物販とかを繰り返し、映画館は生きていくしかないと思うんです。
37年目の劇場が続いているという気持ちは、もう僕にはない。休館した4月12日で37年間のシネマスコーレは終わった。5月23日からは新装開店です。「ミニシアターが新たに生まれました。座席は25席です」という考え方がすっきりする。最初から25席しかないので、それをフル満席にしようと思います。新装開店ならガイドラインだとか思わなくてもいい。

― 入場時にマスクをつける仕様の、新しい映画館として生きると。

そう。そういう映画館だからそれが普通。体温を測れば映画が見れますよ(笑)。
申し訳ないけど今までのシネマスコーレはもう終わった。昔やってた「超次元トビダシステム」のイベントとかも、良き思い出です(笑)。このガイドラインの下でああいうイベントがやれたらすごいじゃんってなるし「あの劇場、あんな風なのにクラスターにもならず、よくやってるね」と言われたい。同じ名前で別の劇場と思ってもらった方がいいと思います。
本当はそこに新しいお客さんが欲しいですね。落ち着いてきたら舞台挨拶もやり、新しく来た人が気に入ってくれたらいい。全てが前と違うと考えると、我々が向かう場所は、共存しかないと思う。

― 今後どんな状況になるかも分からないですからね。

はい。いろいろ制限があっても、立派に成立している劇場を作り上げたい。その方が経営的なモチベーションも上がります。最初は37年のノスタルジーがあったし、またあんな夢を見たい、昔みたいなことをやりたいと思って制約を邪魔な足枷に感じてましたが、共存するなら考えなくていいんです。
新作がないシネコンは大変ですが、うちやシネマテークさんとかはそれでやってきましたからね。何もなければ特集上映を組み、他とは違う切り口で見せる。

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― 映画館として今後、予定していることはありますか?

うちは大きな流れとして、大林監督特集は予定しています。6月末から7月頭頃に「世紀末映画祭」をやりたいですね。ゾンビとか、世紀末が舞台の映画ばっかり集める。新生スコーレっぽい気がします。37年間のスコーレの財産を利用し、新しいスコーレで世紀末映画祭。叩かれそうですが(笑)。
そんな風にスコーレが映画で戦っていくのを見て「あの映画館、休館もしてたけど結構立派にやってるね」と思ってもらえる方がいい。

― 「吹っ切れた」という感じなんですね。

そうですね。新装開店「粗品はないけど消毒液あります」みたいな(笑)。
それまでは本当に悲しみしかなくて、どれだけ頑張っても赤字じゃん、と思ったけど、認めてしまったら支援してくれた作家たちに申し訳ない。
映像作家が作った映画館が映像作家に救われるなんて、映画みたいな話ですよね。映画館を映像作家が守ってくれた。映画館をやってる時も彼らが盛り上げてくれ、閉まっても、復活しても、助けてくれている。すごいと思います。すごくミニシアターっぽい。作家主義の小劇場に作家が立ち上がる。18世紀フランスみたい(笑)。映画の作り手が発表の場を守る。
スコーレは作家との結びつきが強かったので、余計そうなんでしょうね。今まで作家性が薄かった劇場も、今回で気付いたんじゃないかと思います。

― これからは映画館も変わっていくと。

はい。共存すると決めたし、復活ではなく新装開店です。一度も来たことがなかったけどTシャツを買ってくれた人や、こんな劇場あるんだと知った人に来てほしい。
今までミニシアターは、一般からは敷居が高い映画館だったけど、この1ヵ月で少し薄れた気がするんです。シネコンしか知らない人が「ミニシアターも映画館なんだ。映画人たちが支援してるんだ」と、今回をきっかけに知ってくれたらいい。
落ち着いてきたらスコーレのことをよく知っている監督たちに新作のタイミングで来てもらいます。ガヤガヤやっているのを他の劇場が見て「暗いこと言ってても仕方ないな」と思ってもらえたらいいなと思います。閉館危機はだいぶ背負ってますけどね。
でも次の危機が来たら、支えてくれるのはその新しいお客さんたちかもしれない。面白さを知ってくれたら、今度ミニシアターがダメになった時、助けてくれる気がします。監督たちがみんなに声をかけて気付かせてくれました。全国の劇場にどんな波が来ても、今度は監督と新しいお客さんが両方で新しいことを考えてくれる。映画館は本当にラッキーだったなと思います。

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今週末、シネマスコーレはじめ愛知県の映画館はほぼ全てが再び開きます。
再開後もさらに大変な状況が待っているのかもしれません。それでもとにかく映画館は動き始めます。
3月末から、ミニシアターの現状をお知らせしたくて書いてきた、私のこのシリーズもこれでひとまず区切りにします。
まだまだ世の中は落ち着きません。でもお近くの劇場が開いていたら、ちょっとだけ、たまには映画でも見に行ってみてください。
映画館って、やっぱり楽しい場所だと思うんで。


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