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須藤蓮×渡辺あや 『逆光』トークレポ@TUTAYAブックストア

俳優で監督も務める須藤蓮さんと、脚本家の渡辺あやさん。お二人がタッグを組んだ映画『逆光』が、名古屋シネマテークで公開中です。
TSUTAYAブックストアで行われた公開記念トークの一部をお届けします。

尾道を舞台にしたこの映画。「地方から東京、全国へ」という独自の方法で展開しており、熱を感じて集まる応援者を行く先々で増やしているように思います。1時間半に及んだ充実のトークから、映画宣伝に関するお話をレポートします。(2022/06/24)

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須藤:普通の映画は東京で始めて順々に全国に広がっていく。東京で盛り上げて、その余波で地方に広げるのが常識なんです。

渡辺:「尾道で撮った映画なので、尾道からやるのがいいんじゃない?」という素人考えでした。でも、東京のプロデューサーとかに話したら誰一人として賛成してくれず「リスクが高すぎる。失敗する」と言われたんです。

須藤:僕も、最初は配給会社に話を持っていきました。まさか自分でこの映画を届けるとは想像してなくて、誰かに託してやってもらおうと考えてたんです。でもあやさんが尾道から公開したらどうかと。配給会社に「尾道からスタートしたいんですが、一緒にやってくれませんか」と相談したら、いかに無謀かを説得されました。俺をやめさせようと他の映画を引き合いにし、いかに東京以外の数字が少ないか見せてくれたんです。映画1本の興収は東京が9割だと。東京で2万人動員した映画で、尾道唯一の映画館・シネマ尾道で3週間上映の興行人数が30人だったんです。

渡辺:その数字を聞くと…よくやりましたね、私たち(笑)。

須藤:衝撃ですよね。でも「変だな」と思ったのは、僕らは映画製作の過程で、尾道の人と30人くらい知り合いになってたんです。だから30人ということはないだろうと思った。あやさんはよく「世間では常識的じゃないけど」と仰るんです。そこに重要なものが詰まってる気がして、とにかく信じてみようと。尾道から公開したら何が起きるのか。

渡辺:私は島根県に住んでいますが、東京の人が思うほど地方都市の文化は冷えていないと感じます。東京で東京の人たちと話す機会がありますが、街の人の文化度、映画に興味がある人の割合や熱量はそんなに変わらない。こう言ってはなんですが、むしろ東京の業界の方々よりよっぽど深い意見や感想、興味深い指摘をくださることが多い気がするんですよね。

須藤:尾道で「力を貸してください」と試写会をしました。その直前に東京で試写をしたら評判が良く、業界の方が「うん、いいんじゃない?」とか言ってくれて、俺も「これは尾道でやったらすごく褒めてもらえるぞ」と自信を持った。そしたら、その後ひどい目に遭いました。経験もなく映画を作ってしまった可哀想な新人監督を、尾道の人たちは車座になって質問攻めにしました(笑)。一生懸命作ったのに、全然褒めてもらえない。「なんでシネスコにしたんですか?」とか突然聞かれたり、東京では「いいんじゃない」で済んだことを全然済ませてくれず、次の日「もう映画監督はやめよう」と寝込みました。それくらい尾道の人たちの感度は高かった。

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渡辺:とにかく尾道から始めよう。そうしたら街の人々が我が事としてこの映画を考えてくださり、須藤君が「もう俺は、尾道に2ヵ月住み込む」と言い出したんですよね。

須藤:はい。30人というのがどうしても耳にこびりついて、どうしたら30人じゃない結果を尾道から見せられるかと、小さい脳みそを絞ったんです。映画宣伝なんてやったことないし、どうしたら劇場が映画を流してくれるかも知らない。とにかく行って、友達たくさん作って、全員が劇場に来てくれたら良いんじゃないかと。浅はかな考えですが、とにかく2ヵ月、毎日その場で宣伝してみようとポスターを手に商店街の全部の店をノックするというめちゃくちゃ泥臭い宣伝を開始し、その中で宣伝プランを考えました。

渡辺:街の方からどんどんアイデアをいただけるようになってきたんです。「フリー珈琲」というのもやりました。須藤くんがリヤカーで珈琲を配ればいいんじゃないかと(笑)。よく分からないけど、やってみたら人が集まってくれるようになり、対話が生まれた。その対話を何かイベントにしようじゃないかと、ダイアローグというイベントが生まれました。
映画の宣伝としてどうなのか分からないけど、彼の同世代たちとただ対話するというイベント。7人ずつくらいで議長を決め、参加者がそれぞれいろんな意見があることを確かめ合うような内容で、広島や京都でもやりました。参加してくれた人たちがこんな体験は初めてだと。印象的でしたね。いろんな人からいただくアイデアが、他の土地へ持っていくとさらに進化するということを、いろんな街でやりました。
業界の通例で、東京からチラシとポスターを各劇場に送って「やってください」という宣伝活動では生まれないことだなと。

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渡辺:あと「逆光コーヒー」というのがありましたね。

須藤:今までとは全く違う映画の広げ方で、劇場に足を運ぶきっかけがない人にも見てもらおうと、見たことのないものをやろうとした実験の歴史です。「逆光コーヒー」 は、広島にあるMOUNT COFFEEという人気ショップの人に「映画を見てください、何か一緒にやりましょう、何も思いついてないですけど」と言ったんです。そしたら映画の感想をコーヒーのブレンドで表現してくださった。それが逆光ブレンドです。

渡辺:その方は「コーヒー語」という言葉を使っていました。つまりコーヒーを表現とする自分が、映画の感想をコーヒー語で言うとこういう感じですと。そんなの聞いたこともない。コーヒーに詳しくないですが、飲んだら「あ、逆光かもしれない」と思うような不思議な体験をさせてもらいました。それを、公開前から予告としてお店で出す「コーヒー予告」と仰って、映画を見た方がまた印象を確かめる。私はこの仕事を20年くらいやってますが、映画がそんなふうに次の形、次の表現に展開していくのは初めての体験。やってみたら、いろんな場所でいろんなことが起こった。面白いんです。
ちなみに逆光コーヒーは名古屋でも飲めます。今池のネオレトロ喫茶・シヤチルさん。シネマテークさんから近いので、ぜひ足を運んでください。

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渡辺あやさんは『ジョゼと虎と魚たち』『その街のこども 劇場版』、NHKの朝ドラ「カーネーション」などの傑作!を多数手掛けた、個人的にも大好きな脚本家です。一方、本作が初監督の須藤蓮さんは25歳、真摯に人と向き合う姿勢を強く感じる魅力的な方。このコンビがとても素敵で、年齢差ある二人が映画を体当たりで広げていく様子も、応援したくなります。
作った映画をいろんな人に見てもらいたい。映画に関わる人に共通する思いですが、熱のあるところには熱のある人が集まることを改めて感じます。

私自身の話ですが、まだ仕事で映画に携わるより以前、小さな映画の地方宣伝をお手伝いしたことがありました。初主演の俳優が土地勘も知り合いも全くない名古屋に、公開の半月前から単身乗り込んできて自力宣伝を始めたのです。映画宣伝に関する知識がない私も巻き込まれるように、思いつく限りのアイデアと人脈を駆使して駆け回りました。
「映画館に足を運んで映画を見てもらう」って、実はとっても大変。大勢の味方を作りながら、『逆光』は着実に進み続けているようです。

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映画『逆光』 名古屋シネマテーク 公開中~7/15
https://gyakkofilm.com/


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