見出し画像

メンタルヘルス施策の公平性と効率性


はじめに

現在多くの企業において今年度のストレスチェックが実施され、その後の管理職への報告や、場合によっては職場環境改善のための取り組みが実施されていると思います。

そこで、今回はストレスチェックを含むメンタルヘルス施策の実施方針を公平性と効率性の観点から検討してみたいと思います。

公平性が適した取り組みの例

企業においては多くの労働者が働いていますが、昨今の包摂を重視するトレンドからしても、合理的な理由なく差別するようなことのないよう公平性を重視した取り組みが重要です。

たとえば、労働安全衛生法においては 50名以上の事業場ではストレスチェックの実施が義務化されていますが、 50名未満の事業所については当面の間実施が事業 努力義務とされています。しかし、現実には多くの企業、特に大手企業においては公平さに観点から50名未満の事業場においてもストレスチェックが実施されています。セルフケアにつながる機会を、たまたま配属された事業場の規模に関わらず提供するというのは公平性の観点から望ましい対応を言えるでしょう。

その他、いわゆるセルフケア研修についても、入社時等の一定のタイミングで職種や雇用形態に関係なく実施されているところが多いと思います。このように企業においては多くの場合に公平性を重視した運用が行われており、基本的には望ましい対応と考えられます。

 効率性も重視すべきケース

一方で公平性のみならず効率性を重視した方が良い場合もあります。例としてストレスチェック結果の報告会を挙げたいと思います

 一部の企業においては、ストレスチェック結果が集計されたタイミングで、部門ごとの結果を部門長にフィードバックする機会を設けていることがあります。このフィードバックは人事部門が担当することもありますが、産業医や保健師、ストレスチェックベンダーの担当者が担当することもあります。フィードバック形式は1対1の面談もあれば、対象者を一堂に集めて実施する会議形式の場合もあります。

たとえば、人事部門や産業保健スタッフが面談形式でフィードバックする場合を考えてみます。全ての部門長に同じ面談時間を割り当てて実施すると、特に結果が悪く真剣に改善アドバイスを得たい部門長にとっては消化不良になってしまいがちです。あるいは会議形式の報告会の場合、全管理職を対象とすると、参加者が多いと質問しづらい、相談しづらいと感じる部門長が多くなってしまう可能性があります。 

効率性を重視した運用の具体例

公平性よりも効率性に重きをおいた運用としては、ストレスチェック後の部門長へのフィードバックを面談形式で実施している場合、基本的な時間を15分として希望する部門長には30分とするといった運用があり得るでしょう。部門長本人の希望のみならず人事部門からも、ストレスチェック結果をもとに特定の部門長には30分での面談を提案することがポイントです。

人事部門が面談時間を決めてしまうと「ストレスチェック結果が悪い部門長が長めの時間を設定されているようだ」という噂が広まってしまうため、あくまで部門長の希望をもとにした時間設定であることを建前として公言することがポイントです。

会議形式による報告会の場合も、会議後に個別相談を実施する態勢として、予め人事部門が特定の部門長に会議後の個別相談への参加を呼び掛けておくといった運用が考えられます。会議後の場であってもなお個別相談しづらいという部門長が居る場合は別途日程を設定して面談するといった対応も考えられます。

その他にも、管理職対象のメンタルヘルス研修を毎年全管理職を対象に実施している企業が多いと思いますが、部門の特徴によって具体的な事例等がピンと来る来ないといった受け止め方の差があると思います。部門の特徴や業務内容から社内の部門を2分割して、研修を隔年での実施として、参加する部門長の属する部門の特性に応じた内容のメンタルヘルス研修とすることが考えられます。

終わりに

「メンタルヘルス研修は実施しているが不調者は減らない」「毎年高ストレス者比率をベンチマークとしているが比率が高止まりしている」といった声は良く聞かれます。その原因の一つとして、企業の人事施策が公平性を重んじるあまり、全ての部門(あるいは部門長)が全く同じ取り扱いをされている、研修等が部門の特徴等を踏まえてカスタマイズされず、どの部門(あるいは部門長)にも当てはまる通り一遍の内容で実施されていることが多いというのがあると思います。

「時間的な制約がある」、「予算の都合上カスタマイズした実施が難しい」ということがあるかもしれませんが、今回紹介した人事による指定と本人による希望の組み合わせ、隔年での実施などのアイデアにより、時間的制約や予算制約を突破して、必要な部門(あるいは部門長)により多くのリソースが割かれる、カスタマイズされた施策が実施されるといった、効率性を重視した運用を検討することをお勧めします。

執筆者紹介

宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。「HR・メンタルへルス業界の秋元康」として行動科学とデータサイエンスを活用してHR業界、メンタルヘルス業界の各社の事業をプロデュースしている。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?