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そして1年がたった。

2021年2月23日(火曜日)

ちょうど一年前の今日、私たち家族は、ピエモンテ州のトリノから隣の州のアオスタへ、3泊4日のスキーバカンスへ出発した。新型コロナウィルスというものが中国・武漢で発生していることはもちろん、日本でダイアモンドプリンセス号が大変なことになっているのはニュースで知っていたし、イタリアでもロンバルディア州やヴェネチアのあるヴェネト州で症例が出てきていることは知っていた。でもそれはみんな遠いところのできごとのようで、現実感は全くなかった。

だからイタリアがその2週間後には大変なことになるなんて夢にも思わず、むしろ日本が大好きだというイタリア人の友人家族が、そのカーニバル休暇を利用して日本へ旅行に出かけたのを、「日本の感染がもっと酷いことになったらイタリアに入国できなくなるのでは?」なんて、今から思えばトンチンカンな心配をしていた。

トンチンカンではあったけれど、その心配は少し当たってもいて、コロナ前に日本へ一時帰国していたイタリア在住の日本の人たちが、イタリアで感染が爆発して飛行機の便が極端に少なくなり、何ヶ月もイタリアの家族の元へ戻れないでいるという話を、その後あちこちで聞いた。

カーニバル休みとコロナウイルス

イタリアではカーニバル(カソリックの謝肉祭)の期間、学校が1週間ほど休みになる。去年はその休みを利用して、私たちもスキーへ出かけたというわけだ。一方、今年は感染拡大防止のためにスキー場も営業していないしカーニバルのお祭りもないから、家で、こうして去年を思い返している。

出発前夜の2月22日、ミラノにある日本領事館から注意喚起のメールが入った。テロや自然災害などが起きると、在留日本人に事件事故の詳細と、注意を促す連絡が入るのだ。あれ? 領事館が気をつけろっていうんだ。ちょっとだけ嫌な感じが頭の中を通り過ぎた。

「ミラノを州都とするロンバルディア州では感染者が出ていて、
州内の10の市町村では教会のミサなどを含むあらゆる公的イベントの中止、
そして生活に必要不可欠な物資やサービスを提供する仕事以外は、すべての労働活動を中断、学校は休み」とのこと。

つまり今でいうロックダウンの状態。そういえば、いつからロックダウンという言葉が使われるようになったんだっけ。とにかく、ロックダウンになった市町村は、聞いたこともない地名ばかりだったせいもあって、やっぱり現実感がない。

スキー場での4日間の休暇は、いつも通り普通に、過ぎていった。朝起きて、クロスカントリー用のゲレンデがオープンする前に愛犬グレースを散歩させ、それから部屋で朝食を食べてスキーに出かける。その間ずっと、グレースはベッドで爆睡。

12時過ぎにホテルに戻り、グレースを連れて一緒にランチへ出かけた。イタリアでは、飲食店はほとんど全部、宿泊施設でもペット同伴オッケーのところがどんどん増えている。

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コーニェというそのスキー場がある小さな村では、おいしいランチを食べられる店の数は限られていて、ホテルやレジデンスの宿泊客と、別荘族がいっぺんにやってくるから、バカンスシーズンにはかなり混み合う。コロナウイルスに対してあまり現実感を持っていなかった割には、店に入ってみて混んでいると、怖いから外の席に行こう、なんて言っていたのを思い出す。

「あ、あのアクセントはミラネーゼだね、(うつされたら)やばいー」なんて悪い冗談を言い合って笑っていた。そして夕食はレストランに行くのはやめて、レジデンスで作って食べた。

今思えば、これが私たちの自粛生活の始まりで、そして2週間後には全国ロックダウンになった。

2021年2月24日(水曜日)

21日の日曜日の夜、追突事故にあった首が、日を追うごとにどよーんと痛重い。ネットで検索してみると、直後にはなんともなくて、だんだん痛くなるというのはムチ打ち症でありありのパターンらしい。

信号で停止していた私に、突如、何かが爆発したみたいなかなりの衝撃。何が起きたかわからないでボーッとしているすきに、ぶつけた相手はなんと!逃げていった。

「あー、逃げたー、誰かー!」とイタリア語で叫んでみたけど、日曜日の夜9時、全ての飲食店が6時で閉まるコロナな今、外を歩いている人も車もほとんどいなくて、私の声は無意味に響いていた。頭がグラグラしていてナンバーを写真に撮るなんて思いもつかなかった。これもまた、コロナ被害の一つかも。

2021年2月25日(木曜日)

変異種による第3波が年末から爆発して大変なことになったイギリス、ドイツに比べると、イタリアは第2波が収まらないまま、かといって第3波はかろうじて食い止めてられていて、グズグズした日が続いている。

毎日の新規感染者数は1万人前後、死者数は200〜300人。でも全体の感染者数の中で変異種の割合が18%で非常に心配、と先週あたりは言っていたのに、今日はその割合が30%になったそうだ。変異種の中にはイギリス株だけでなく、ワクチンが効きにくいかも?と恐れられてる南アフリカ株やブラジル株も。

ワクチン接種がなかなか進まないワケ

そのワクチン接種は年末から始まっているけど、遅々として進まない。1週間ほど前、「10月1日をめどに、国民の70%接種を目指します」、と政府が発表していた。ってことは、今年の夏も、まだ日本に安心して帰れない? 日本政府はオリンピックやる気満々みたいだけど??

今日現在、2回の接種を終えたイタリア国民は全体の2.31%。摂取開始から2ヶ月でたったのそれだけ?

日本の報道では、EUがワクチンを独り占めしようとしているというような書き方の記事をいくつか見た。でもイタリア、つまりEU側の意見はちょっと違う。年末に交わした契約通りの数量を納品できないでいる製薬会社たちは、製造ラインを増強するために一時的に生産がストップしている、なんて言っているけど、一方でイスラエルやアメリカは接種がどんどん進んでいるじゃないか、製薬会社も慈善事業じゃないんだから、高い金額で買ってくれるところへ先に売ろうとするのは当然だろう、だからEU圏内で生産されたものは外へ出さないようにしよう、そんな論調だ。

またもやオレンジゾーンに

全体的にはイエローゾーンなイタリア。イエローゾーンとは、お店もレストランも営業していて、外出も比較的自由、という状態。とはいえ飲食店でのイートインは18時まで、夜間は22時から翌5時まで外出禁止だから、実質、自宅以外の場所で夕食は無理、という状態は続いている。イタリア人の一般的な夕食開始時間は20時前後だからだ。

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↑オレンジゾーンでは美味しいケーキも食べに行けないのだ。

そんなイタリアの地図の中に、オレンジ、そして赤のゾーンがポツリ、ポツリと増えてきている。オレンジになれば飲食店は休業になる。赤なら商店も全て休業で、必要最低限の買い物、仕事、健康上の理由がなければ外出もできない。

エミリアロマーニャ州、ロンバルディア州、ピエモンテ州でも変異種の感染が増え始めていて、ボローニャは昨日「強化されたオレンジ」ゾーンになった。赤じゃなくて強化オレンジ。もうワケがわならない。

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↑先週、友人たちとお茶していたら、名前と電話番号を提出させられた。万が一感染が出た場合、連絡がつくようにということ。
 

ロンバルディア州では第1波の時に地獄のようだった町の一つ、ブレーシャが再び深刻な状態になりつつあるというニュース。「集中治療室がほぼ満杯になりつつある状況で、一年前のデジャブだわ」とインタビューされた病院の看護士さん。

ピエモンテ州でレッドゾーンになったのは、去年の夏、幻のチーズ作りを見学に行ったアルプスの山のすぐ近くの村。毎朝3時に起きて夏中チーズを作り続ける73歳のアルベルトさん、無事でありますように。そしてこれ以上レッドゾーンが増えませんように。

2021年2月26日(金曜日)

地獄を見たイタリアのために頑張ってくれたコンテ首相が辞任して早一ヶ月。新しい首相、ドラギ政権になって初めての行動規制に関する法令が今夜、発表になる。

私の暮らすピエモンテ州は、ミラノのあるロンバルディア州と一緒にオレンジゾーンになるらしい。もはやあまり驚き嘆くこともなく、あー、やっぱり? しかたないね。そんなふうに思考を停止させて、辛くならないように日々をやり過ごす。

でも飲食業やホテル、スキー場の人たちは、深刻にならざるを得ないだろう。飲食店がずっと閉業してる影響で、115億ユーロ(約1兆5千億円)相当の食料品とワインが売れ残ったそうだ。そんな食品を、失業して食べるのにも困っている人たちに配給する動きもあったけど、実は配給する側だってとても苦しいという図式。

南イタリアのバジリカータ州とモリーゼ州はレッドゾーン。医療体制が脆弱な分、規制を厳しくして感染を食い止めるようという作戦らしい。

一方、去年の夏にはバカンスで若者が集まり、クラスターを発生させまくったサルデーニャ州がホワイトゾーンになった。ずっとクローズされていた映画館、劇場、ジムなども再開し、夜間外出禁止もない。ただし室内でのマスク着用、手洗いとディスタンスを守ることは引き続き義務づけられる。

今日はまた、新規感染者数が久しぶりに2万人を超えてしまった。日本と比べるとびっくりするような数字だけど、PCR検査の数も圧倒的に多い。それでもフランスやイギリスに比べると、イタリアは検査数が少ないとずっと批判されている。

新規感染者数 20.499人
死亡者数     253人
PCR検査数  325.404人
陽性率       6.3%
ワクチン接種数


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