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#トリノよいとこ一度はおいで その2「トリノ1私が好きな店」

オステリア・アンティケセーレ

トリノの街外れの、地味な住宅街の一角にある「オステリア・アンティケセーレ」は、私がトリノで一番おいしい、と思う店の一つ。”昔ながらの夕べ”、そんな意味の名前の通り夜だけ営業するその店は、素朴な雰囲気の中でうまいものを食べ、おいしいワインを飲み、隣の席の人とも思わずおいしいねー、と盛り上がっちゃうのが楽しいような、そんな店。旅行で、ビジネスで、トリノを訪れる人をアテンドすることも多い私がここへお連れした人たちで、ニッコニコにならなかった人はいない。

ここでまず食べるべきもの

この店へ行ったら、何をおいてもまずはアンティパストを食べなければいけない。どれを取ってもびっくりするほどポテンシャルの高い、この店のアンティパストを食べないのはありえないし、どれも捨てがたい。だから、私と一緒にここへ行く人は、有無を言わせず全員「アンティパスト・ミスト」をオーダーしてもらう。一般的な日本人のお腹のキャパで言ったら、アンティパストを全種類食べたら、あとはもうデザートでいいかな、っていうぐらいお腹いっぱいになっちゃうのだけど、それでも全種類食べないのはもったいなさすぎるので、お腹をしっかりすかせて行くのです。

少数精鋭のメニュー

ピエモンテ料理は、アンティパストのバラエティーが豊富なのが特徴の一つとも言われていて、何十種類ものアンティパストが自慢の店、なんていうのもある(あった?)けど、アンティケ・セーレではだいたい4-5種類の定番と、季節によって変わる1-2皿があるぐらい。30年近くフードライターをしてますけどなにか、という上から目線な発言を許してもらえるなら(ていうか、歳がバレるし)メニューの種類がやたら多いところは、だいたい「??」な店が多い。そんなにたくさん、ていねいにおいしく作り込めるわけがないからだ。だからこの店の、前菜、プリモ、セコンドというそれぞれのカテゴリーに、各4種類ずつぐらいしかない手書きのメニューは、それを見ただけでも興味がそそられる。

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↑なんじゃこれ?というしょぼい見かけだけど、京大農学部卒で京野菜を全国へ広めたと言われる京都の凄腕八百屋さんも「これはうまい!」と声を大きくしていらした、カリフラワーの炒め煮のような一品。

中でも一押しはコレ!

20年以上この店に通っている私が、毎回食べるたびにおいしくて悶絶するのが「トミーノ・エレットリチTomino Elettorici」。トリノ地方で昔から食べている「トミーノ」という円筒形のフレッシュチーズの厚切りに、パセリベースのピリ辛ソースがたっぷりかかった一品。ピエモンテ州の伝統アンティパストの一つで、ピリ辛だから「エレットリチ=エレクトリック」というわけ。電気が走るほど辛い、というのは大袈裟で、辛いのに慣れてる人にはほんのり辛いという程度。でも甘酸っぱ辛いソースをたっぷりのせた濃厚でフレッシュなクリームチーズは、一度食べたら忘れられないおいしさだ。
「ビス(お代わり)持ってこようか?」といたずらっぽく笑う、オーナーのアントネッラの誘いをぐっとこらえ、次のお皿へ。

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↑おいしすぎて電流が走るトミーノ・エレットリチ

南イタリア専売特許の唐辛子がなぜトリノの料理に?

次の皿に行く前にちょっと脱線します。イタリア料理の中で唐辛子を使うのはカラブリアなど南イタリアで、北イタリア・の伝統料理には唐辛子(ペペロンチーノ)は使われない。なのにトリノの伝統アンティパストにピリ辛が登場するのはなぜ?

ここからも無料でお読みいただけます。笑

1899年、トリノに大きな自動車工場ができた。Fabbrica Italiana  Automobili  Torino(トリノのイタリア自動車工場)、つまりFIAT。そう、トリノはフィアットが生まれて、今も本社がある、日本で言ったら豊田みたいな街でもあるのだ。そのフィアットに、南イタリアから出稼ぎにやってきて、そのまま移住してしまった人たちが、地元の食習慣をトリノに広めた。普段は何かと南イタリアの人たちをバカにする北イタリア人たちも、ピッツァやスパゲッティやペペロンチーノを使った南イタリア料理の前には、目尻を下げていたんだろうな。そんな南イタリアと北イタリアの食文化がミックスされて、「トミーノ・エレットリチ」も生まれたということだ。

半生好きな日本人を刺激する一皿とは

はい、次のお皿。「サラーメ・デラ・ドゥーヤ」。かじると生肉、でも味はサラミ、という未体験な食感と驚きの味に、24年前、日本からイタリアにやってきたばかりの、カサカサで硬いサラミしか知らなかった私は、開いた口がふさがらなかった。「デラ・ドゥーヤ」というへんてこな名前は、ピエモンテの方言で、テラコッタのツボに保存した、という意味だそうだ。

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↑こちらも見かけはどってことないのにめちゃめちゃおいしい「サラメ・デラ・ドゥーヤ」。希少な商品だから、いつもあるとは限らない。

普通のサラミは風通しのいいところにぶら下げて熟成させるのに、このサラミは豚のラードをクリーム状にしたところに埋め込んで保存する。だからしっとりと半生状態に仕上がる。そしてサラミ生地の中には、スパイスの他に
ほんの少しのニンニクと、地元のおいしい赤ワインを入れてあるという。あー、書いているだけで、食べたくてなってきた。

このサラミ入り季節限定特別料理も!

このサラメ・デラ・ドゥーヤと、イタリア語でファジョーリと呼ばれる白インゲン豆を入れて作るリゾットのようなパニッシャという米料理が、この「アンティケ・セーレ」を経営するロータ家の地元ノバラの名物で、これがまたとんでもなくおいしいんだけど、料理長である一家のお母さんは、フレッシュの白いんげん豆がある時にしか絶対作らないとこだわる。

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↑フレッシュのファジョーリ豆

乾燥モノなら一年中あるのに、フレッシュとなると一年のほんの1-2ヶ月ぐらい、夏から秋の初めにかけて出回るぐらいだ。だから私も、数えるほどしか食べたことがないし、残念なことに写真もない。多分、パニッシャを目の前にして、あまりにおいしそうでうっかり食べてしまったんだと思う。もしもアンティケ・セーレに行くことがあって、ミミズが這ったような判読難解な手書きのメニューに「Panisciaパニッシャ」という文字を見かけたら、
迷わずオーダーすることをお勧めします。

前菜、まだ続きます。

これもピエモンテ州伝統料理の「vitello tonnatoヴィテッロ・トンナート」仔牛肉のツナソースがけ。茹でたか、ローストした仔牛肉の薄切りに、ツナやケッパーを混ぜ込んだマヨネーズソースをたっぷりのせて食べる冷たい前。
トリノで食事したら、これがメニューにない店を探す方が難しいほどの定番メニューだけど、どこでもおいしいとは限らない。仔牛肉を茹でているからあっさり、そこにクリーミーなソースがたっぷり、でもツナやケッパー入りなのでマヨネーズのおいしさだけ残してしつこさはない、そんなお料理。
トリノのカフェなんかでランチをすれば、これ一品でランチメニューということも多いし、「トラメッズィーニ」と呼ばれるサンドイッチの具としても定番だ。

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ただのパプリカがなぜこんなにおいしいの?

そして「Peperone arrosto ペペローネ・アロースト」。日本ではパプリカとばれる、ピエモンテ州名産の超肉厚ピーマンをオーブンで焼いて、皮を剥いただけのもの。これがなんでこんなにおいしいんだよ!と思わず叫びたくなるほど甘くて柔らかく、なのに歯ごたえがあってたまらない。夏場はこうして焼いただけ、または焼いただけにアンチョビをのせて食べる。冬にはピエモンテ名物のバーニャカウダソースがかかって登場する。

そしてアンチョビのイタパセリオイルがけ

「Acciughe al verdeアッチューゲ・アル・ヴェルデ」はアンチョビのイタリアンパセリの刻んだやつがどっちゃり入ったオリーブオイルがけ。アンチョビ、って言うと、日本ではオイル漬けのやたらしょっぱいカサカサなやつ、というイメージかもしれない。でもイタリアでは塩漬けのアンチョビが売っていて、これがバカみたいにおいしい。とれたてのカタクチイワシの頭と内臓を取っただけの状態を塩漬けにして発酵させているから、感触は生、でも味は発酵食品。私はこれを家で、ホカホカ白飯にのせて食べる。イカの塩辛にも似た、あー、もう他には何もいらないわ、というおいしさ。

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パセリオイルがけの話だった。
イタリアンパセリをたっぷり刻んでオリーブオイルと混ぜた青い香りが、しょっぱくて肉厚のアンチョビととてもよく合う。思わずパンとワインをむしゃむしゃ、ガブガブ行ってしまうんだけど、ブレーキをかけないと、後のパスタ料理や肉料理、そして超お楽しみの世界一おいしいパンナコッタにたどり着けない。

どれも美味しくてどれも愛しているので、ついつい長くなってしまいました。なのでプリモピアットからのお話は、また次回。


★Osteria Antiche Sere
Via Cenischia,9   10139 Torino
Tel. +39-011-385 4347

営業時間 月曜〜土曜 20:00〜
要予約
https://www.facebook.com/osteriaantichesere/?ref=br_rs

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