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メビウス8ミリ

都会は、人の多さに安心する。電車の向かいに座った人、すれ違った人たちに人生があると思うと、自分の存在がいかに小さいかを認識させてくれる。

自分とだけ向き合っていると、他人も生きていることに忘れてしまう。片田舎にいると尚更そうだ。自分だけが生きていると感じて、空が自分を潰してしまうような窮屈さに反吐が出そうになる。

だから、寂しい時は本を読んだ。

中島らも、燃え殻、太宰治。近々はシオランを読みたい。

ただ、本当にどうしようもない時はページすら捲れずに布団の中で横になって、自分がいくら願っても消えてくれないことに対する酷い不安や生きることへの焦りを感じる。

音楽がうるさくて聴けない。でも、母の運転する車の中で聴いていた加藤ミリヤの声を思い出して泣きそうになる。

「帰りにコンビニ寄りたい」

この言葉が好きだった。

母が買ったメビウス8ミリライトの煙を夜の国道が吸い込む。私は窓にもたれかかって、遠くで光るゴルフ場の光なんかをよく眺めていた。

私がまだ小さい頃だ。小さい世界の中を一生懸命生きていた。

遠くで光り続ける場所がなんだかわからなくて、ずっと眺めていたことがある。

それがゴルフ場の光だと知ったのはずっと後のことだ。

そういえば、俯いてばかりでしばらく星を見ていない。幼い頃は自分の体をグルグル回転させてよく見たものだ。

たまには上を見ようと思う。救われない辛さがきっと込み上げてくるだろうが。

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