宿泊地の出会いと別れ
転勤前、彼女と箱根の旅館に泊まった。最近その旅館がTVで特集されているのを見つけ、懐かしさに浸った。
ビュッフェで食べたお寿司と天ぷらは、食べたのが1年前の今でも美味しかったことを覚えている。
私が取り皿を持って、ビュッフェ会場をウロウロしていると、ボサボサ髪で無精髭の男性が歩いているのを見つけた。
浴衣も少しはだけていて、インナーが見えそうになっていた。男性のなんと魅力的なことか。ゴールデンバッドなんかを吸っていたら間違いなく文豪に見える。
旅の出会いは一期一会、その人とは勿論二度と会えないが、今でも皿を持った立ち姿を鮮明に覚えている。
横浜の2人で一泊3万円のホテルに泊まったときは、夜中に氷を取りに行ったら、とてつもない喘ぎ声が一枚のドアを隔てて聞こえた。
彼女の小さな声とは違うことに少しショックを受け、そそくさとドアの前を過ぎた。
自分の部屋に戻る頃には声は聞こえなくなっていた。ピロートークはどんな話をしていたのだろうか。
確かその日は3月31日。転勤前の日だったので良く覚えている。
出会いと別れの季節の春、名前も顔も知らない男女の愛を氷いっぱいの紙コップを持ちながら受け止めた。
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