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平成の2つの伝説による奇跡の「クロスプレー」:『古畑任三郎ファイナル フェアな殺人者』再放送


 5月18日、俳優の田村正和が4月に亡くなっていたことが明かされた。日本人ならハリウッドザコシショウをはじめ、古畑任三郎のマネしてる人を1度は見たことがあると思う。平成のドラマではあるが、『古畑』シリーズは放送当時から大御所クラスだった俳優が多く、何人も訃報のニュース映像で古畑が使われているのを見ていたので、とうとう……という気持ちになった。
 フジテレビの「伝説のドラマ」といえば『古畑』と『北の国から』が双璧というか、私のようなリアルタイムでは後半のスペシャル回くらいしか見たことのない、基本的には再放送しか見たことのない自分世代にもネタとして通じる、“古典“というレベルのドラマだと思っていたが、田中邦衛も3月に帰らぬ人となってしまっていた。一時代の終焉なのかなと思っていた矢先の翌19日に、TBSの「伝説のドラマ」からビッグ夫婦が誕生!爆笑問題・太田光によれば「百恵・友和を思い出すレベルの盛り上がり」だと言う。テレビスターのいない時代と言う人もいるが、ガッキーは間違いなくスーパースターだ。夫婦を超えて行け。
 20日と21日に追悼のため『古畑任三郎ファイナル フェアな殺人者』が再放送された(21日の夜には『古畑任三郎ファイナル~ラスト・ダンス~』も。松嶋菜々子の回)。フェアな殺人者とはもちろんイチローのこと。彼もまごうことなきスーパースターだ。初回放送をオンタイムで見て以来、大学時代にレポートの題材にしたこともあるため、5回か6回くらいは見ているが、見るたびに「そりゃ川崎宗則もホレちゃうよ」という格好良さを実感する。MLBとイチローという、権利関係に厳しいところが関わっているので、将来的に視聴が難しくなる可能性も少しある。見れるチャンスに見ておきたいところだ。


 『古畑』の、殺しを扱いながらも軽妙かつ瀟洒なテイストは、ヒッチコック映画などの欧米のサスペンスをヒントにしているのだろう。なかなか日本では難しい作風を可能にしたのは、田村正和のあの口調によるものが大きい。そして、ちょっと不思議なしゃべりのテンポはイチローにも同じことが言える。イチローが事件を解決する『名探偵イチロー』も、是非三谷幸喜脚本で見てみたい。

▲ちなみにこの『プロ野球?殺人事件!』はカプコンが88年に発売したファミコンのゲーム。前年に引退した江川卓をモデルにしたであろう「いがわ」が、球界で起きた事件を推理していく


 イチローの薄暗い駐車場でイチローが殺しをするシーンは、何度見ても背筋がぞーっとするような迫力がある。「イチロー役のイチロー」にしか出来ない演技だ。本人役なので純然たる演技とはいえないかもしれないが、ほかの俳優には間違いなく出来ないし、作ってしまう演技には限界があるだろう。もはや「野球の神の戯れ」という域である。


 「駐車場の吸いかけのタバコ」、「何度も走らされる今泉」は桃井かおりの回、「壁のスイッチの使い方を習う」のは堺正章の回からの“セルフカバー”だろう。ファイナルならではの、ファンへの「お遊び」だったのかもしれない。三谷幸喜作品にはこうしたギミックが多い(三谷が監督した『ステキな金縛り』には、明石家さんま回の「おしぼりとバナナ」が登場している)。探せばもっとありそうである。
 似たような部分で、イチローに会う野球少年たちのユニフォームの配色が神戸時代のオリックスのものだ。チーム名もサンダーズ。おそらく「ブルーサンダー打線」が元ネタなのは間違いない。風間杜夫の回にも「“かまた”がわばし」という橋が出てきているし。スタッフの細かいこだわりを感じる。


 ミステリーとしてちゃんと成立してるのかいささか疑問符が浮かぶのだが、実は古畑シリーズに「アラ」は結構多く、本格的に謎解きをしたい人にはちょっと「う~ん」なエピソードは第一シリーズからある。しかし今なお伝説のドラマとして語り継がれるのは、それ以上の人間ドラマや役者の表情の豊かさを引き出してるからだろう。
 伝説のドラマの、伝説の野球選手が出場した回なのだ。平成という時代を語る上で、貴重な映像としてこれからも語り継がれるだろう。私が数多ある映像作品の中でも特に好きな『古畑任三郎』と、大好きな野球の中でも神様だと思っているイチローが、奇跡的な「クロスプレー」を見せたのだ。今後ここまで好きなジャンル同士がぶつかりあうこともそうそうないと思う。

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