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演劇を始めた人はまず、鴻上尚史の本を読もう


 みやまるは1年半だけ劇団(正確には大学の演劇部だが、「劇団」と呼ぶ方がどうもしっくりくる)に所属していた。劇団を去った後も、音楽イベントのスタッフや講談に挑戦するなど、「演劇的」な活動は細々とではあるが、今なお続けている。
 演劇を始めるにあたって、手あたり次第に図書館で演劇に関連する本を読んだ。周りは高校演劇をやっていた人間ばかりで、小~高校まで演劇部すらない学校を卒業していた自分の、自分なりに周りとの差を埋める努力であった。シェイクスピアから本谷有希子まで結構な冊数、戯曲や演出論を読んだが、一番わかりやすく、楽しく読めたのは鴻上尚史の本であった。語り口も冷静かつ、優しく理知的で、言わば「池上彰のニュース解説の演劇版」という感じだった。今回はそのなかでも、演劇ルーキーにぴったりな4冊をチョイスした。

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 『俳優になりたいあなたへ』**

 まず、役者をやるにしても演出をやるにしても「良い演技」が分からないと始まらない。もちろんコレ一冊読んだからって全てが分かるということは無いけれど、ヒントになるものは随所に散らばって書かれている本です。著者が新幹線の中で出会った演劇を志す高校生に語りかける形で、演技の良し悪し、台本の読み解き方、俳優としての自分の「売り」の見つけ方を理路整然とレクチャーしてくれます。ついつい感覚的、感性の世界に走りがちな演劇論ですが、この本は本当にわかりやすいです。

『名ゼリフ!』

 演劇を始めると、「古典を知ってるか知らないか」という問題が絶対に出てくる。リュミエール兄弟から始まった映画に対して、古代ギリシャから演劇は存在するのだ。とすればやっぱり、知らないより、古典から学んでいるほうが絶対に良いし、わずかな知識でも「この演出は『ゴドー(を待ちながら)』だな…」なんて言えば、仲間内でハッタリをかますことも可能だ(コレが意外と効いたりします…)。でも、壮大な演劇史をどこから手を付けたら良いかわからん!という方はこの本を開くべし。古今東西31作の名ゼリフはもちろん、見どころやうんちくを読めます。これだけでも十二分に面白いし、読んでから紹介された作品を読んだり観たりすれば、世界が広がります。


『ロンドン・デイズ』


 演劇とは「団体戦のような個人戦」です。だって1つの作品を作っているようで、主演、助演、演出、舞監、音響、美術、小道具と様々な役職があり、それも「演劇をやろう!」という個性の強い人間のぶつかり合いなのですから。ゆえに時として、演技の中で、作品の中で、稽古場の中で、下手をすると劇団の中で孤独にさいなまれます。そんな時はこの一冊、『ロンドン・デイズ』がオススメ。西洋の演劇の基礎や技術を学ぶべく、39歳にして単身ロンドンの演劇学校に1年間の留学奮闘記。そもそも言葉も文化もちがうのに、さらに学校のシステムから、表現の方法まであらゆる場面で違いに孤軍奮闘する姿に読んでるこちらまでハラハラする臨場感あります。まあ、演劇がどうのこうのを抜きにして、異文化交流エッセイとしてもとても味わいのある本です。


 『「空気」を読んでも従わない ――息苦しさがラクになる』

 演劇をやっているとどうしても「劇団」、「稽古場」という「集団」に所属しなければなりません。先ほど個性の強い人間の集まりと書きましたが、時としてその強い個性は無意味に暴走し、集団の人間関係を無茶苦茶にしてしまうことがあります。「空気」や、「雰囲気」、「場のノリ」、「同調圧力」といったものが時折ネガティブに機能する現代日本で、集団生活で息苦しさを感じることは劇団のみならず、あることでしょう。この本はどうして日本には日本的な「空気」があり、構築されてしまったのか、そしてうまくかわすにはどうすれ良いのかを、平易な言葉で書いた貴重な一冊です。敵を知れば百戦危うからず。上手く「空気」を察し、しなやかにかわし、自分の演劇を続けていきましょう。

 と今回は演劇を始めた人向けに4冊紹介してみましたが、どの本も共通して、特に演劇に関心や興味が無い人にも(特に4冊目の『「空気」を…』)面白く読めると思います。ですので、是非読んでみてください。

#読書 #エッセイ #鴻上尚史 #演劇 #空気

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