見出し画像

『パラサイト 半地下の家族』を「家族」「食べ物」「密室」というキーワードから考える

 ⚠️注意⚠️
ネタバレを含みますので、未見の方はご注意ください

 ポン・ジュノ監督は『ほえる犬は噛まない』、『殺人の追憶』、『グエムル-漢江の怪物-』をみたことがあって、どれも好き(特に『ほえる犬は噛まない』が好き)だったのだが、劇場で見たことは無く、公開前から楽しみだった。しかもソン・ガンホ主演、パルムドール受賞作。これが楽しみにならないほうがおかしい、というレベルで心待ちにしていた。裏を返せばものすごく高いハードルを心の中で設定してしまった、ということなのだが、ポン監督は軽々と超えてしまい、それどころか、先ほど挙げた3作の要素を持ちつつも、はるかに過去作を凌駕する素晴らしい作品に仕上がっていたように思った。

●”家族の対比”はどうしたって切ない:「家族」
 悪人ではないが楽天的すぎる父親、胆の強そうな母親、素朴で家族思いの息子に、タバコがトレードマークのクールな娘(この娘がメッチャかっこいい。トイレでタバコをふかすシーンに惚れた!)の家族4人のキム一家は全員失業中であり、内職で糊口を凌ぐ毎日である。しかし息子が友人のツテで、高台の豪邸に住む超セレブリティ一家のパク家の娘の家庭教師になってしまう。そこから少しずつ「計画」を企て、妹も美術家庭教師、母も家政婦、父も運転手になってパク一家に「寄生」するようになる。
 ポイントはやはり、パク一家も父・母・息子・娘というキム家と同じ構成の部分だろう。しかし共通点はせいぜいそこくらいで、パク家は家政婦も運転手も家庭教師もいるし、家も絵に描いたような大豪邸である。中盤の洪水のシーンを考えると、パク一家の豪邸とキム一家の半地下の家は、坂を下って徒歩で行ける、そう遠くない位置にあると考えられる。しかし両家を比較して、地理的にも、社会的地位にも「上流」と「下流」になっており、洪水という災害によって主人公であるキム一家が、「ウチが二つの意味で『下流』だったばかりに…」と思わずにはいられない構図になっている。やはり”家族の対比”というのはどこの国の映画だろうが、観てて切ないものがある。特に家族を重んじる儒教の国、韓国の、それも味わい深いなんて言葉では表現しきれない「味」を持ったソン・ガンホが一家の長なのだ。これだけでもかなり重厚である。

●楽しい酒盛りを終わらせた「犬用ジャーキー」:「食事」
 この映画では食事のシーンがたびたび登場する。最初にキム家4人がしていたのも、ピザの出前段ボールを組み立てる内職であり、その内職代が出たとしてささやかな酒盛りをしている。長年パク一家に勤めていた家政婦を追い出すの使ったのも、桃とピザのスパイスだった。そして無事4人ともパク家の豪邸に「もぐりこむ」と、留守を見計らって、豪邸のリビングで高級食材を盗んで豪勢に酒盛りを開くことに成功する。
 このキム家の「乗っ取り」シーンは複雑な心境で見た人も多いんじゃないだろうか。貧乏人が金持ちを騙す、「鼠小僧」的な痛快さを覚える部分もあれば、所詮「借り物」の幸せであり、自分たちにウソをついて贅沢をしてると考えると胸が苦しくなった。しかも息子なんて「パク家の娘と将来結婚したい」、とまで言い出す。そうなると「もしかしたらキム一家とパク一家が本当に家族になるんじゃないか」という、かすかな希望がちらついて、何とも言えない感情になる。
 それを終わらせたのは妹が頬張ったジャーキーが、犬用と気づくところだった。結局この酒盛りは「ニセモノ」に過ぎず、それどころかパク家は普段から犬にまで高級食材と見まがうようなジャーキーを食わせる余裕があるのだ。そう思うと「痛快さ」は萎えてしまい、「苦悩」が勝ってしまった。食事も世界中の皆がする行為であり、そこで観客の感情に訴えかけたのは、本作の「巧さ」かもしれない。

●『ほえる犬は噛まない』の「ボイラー・キム」が作品を超えて姿を現す:「密室」

 その酒盛りのシーンが終わると物語の核心、ネタバレのメインディッシュとも言うべき「第三の家族」の存在が姿を現わす。パク一家さえ存在を知らない、隠しシェルターに住み着いた、キム一家なんかより、ずっと深く長く「パラサイト」していた、キム一家が追い出した元家政婦の夫が現れる。キム一家が「“半”地下」なのに対して、この元家政婦の夫はさらに「地下」であり、借金取りから身を隠している彼は、キム一家よりにもさらに「下」ということなる。つまり、パク家の大豪邸には3つ棲みついており、しかもキム一家が「最低」ではなかったのだ。
 この「密室」の気色悪さというか、空間の醸し出す不穏な雰囲気は、ポン監督の長編デビュー作『ほえる犬は噛まない』でもじっくりと描かれていた。団地内での連続仔犬疾走事件を描いていた作品だが、やはり「閉じた空間」に漂う不穏な雰囲気が光っていた。『ほえる…』には「ボイラー・キム」という、ボイラー室に閉じ込められて死んだ男の怪談が語られるシーンがあるが、この地下シェルターに住み着いている元家政婦の夫は、「ボイラー・キム」が現実のモノとして出てきたような気がして、さらに背筋を冷たくした。 

 とにかく緻密かつ終始ドキドキしながら観れる大名作だった。公開当初はどこの劇場も満員札止めが続いて、なかなか足を運ぶことが叶わなかった。『お嬢さん』も、『タクシー運転手 約束は海を越えて』も話題にはなったが、『パラサイト』はその時の数倍以上に、客足が伸びているのではないか。

 最後になるが、日韓関係が思わしくないなか、文化的な1つの側面に過ぎないとはいえ、こうして隣国との繋がりを保てるのは非常に良いことだと私は考える。

#映画 #評論 #エッセイ #パラサイト #韓国 #ポンジュノ #ほえる犬は噛まない

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?