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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#013]Ep.2 ラントの町/

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

Ep.2 ラントの町/

 ここ、ラントは酒作りがさかんな町だ。果物や穀物などを使ったお酒も多く作られ、また国中の酒がここに集まるとも言われている。
 そこが冒険者には人気で、俺もこの町には良く立ち寄っている。

 町に着くとまず、魔法使いが『座標記録』の術を唱えた。
 転移の魔法は教会の魔法使いしか使えない上に、記録できる座標の数に限りがある。今は少しでも王都から離れた場所であれば、座標を記録しておいた方が都合が良い。まだ旅は始まったばかりだ。

 旅の初めの宿をとるのにこの町を選んだのは、お酒の力で友好を深めようというリーダーの計らいだ。確かに俺たち冒険者には酒好きが多い。だが貴族のおぼっちゃま方と酒が美味しく飲めるかとなると、どうにも敬遠したい気持ちが先に出る。
 そう思っていると、これから苦楽を共にする仲間なのだからな、と、隣でアッシュがぽつりと言った。

 独り言だったのかもしれないが、なんだか気持ちを見透かされたような気がして、頭を掻いた。
 そうだな仲良くやろうや、と言うと、こちらに視線を向けたアッシュと目が合ったので、へへっと笑ってみせた。

「よっしゃ!リーダー、ここは俺が案内しますよ」
「それは有り難い。でも仲間なのだから、敬語を使ったり、リーダーと呼んだりするのはやめてほしいな。身分もこの中では関係ない」
「そうですね、流石のお言葉です!」
「アレク、言ったそばから……」

 ぱっと顔を輝かせたアレクが声をあげたが、すぐにたしなめられた。
「申し訳…… いや、すいません。ついクセが……」
 結局敬語が抜けなかったアレクが、しまったというような素振りで口許くちもとを押さえると、皆に笑みがこぼれた。

 夕飯まで少し時間があるので、宿に荷物を置いて町を見て回る事になった。連れ立ってまだにぎやかさのある通りを歩く。
 俺らがこの町に着いた事はうに知れ回ってるらしく、行く先々で人々の視線を感じる。たまに抑え気味だが女性の黄色い声も聞こえてくる。だが少なくともあれは俺目当てではない。ちきしょー、羨ましい。ちょっとは分けてほしいぜ。

 そういえば、王都を出てからずっとクリスがルイのそばを離れない。慣れない土地での不安もあるからだろうが、ちょっと度が過ぎてるようにも感じる。
 まぁ、まだ初日だしな。後で俺からも声を掛けてみよう。でも俺はのだから、タイミングとか言葉とかは気にしないとな。

 皆を町の酒屋に案内すると、ここで旅の間に飲む酒をいくつか買っていく事になった。これだけの種類の酒を置いている店は、他の町ではなかなか見つからない。
 変わった酒も揃っていると、アッシュはとても喜んでいた。よく旅先ではその土地毎の色々な酒を愉しんでいるらしい。
 アレクにとっては知らない酒も多いらしく、棚をあちこちと眺めながら興味津々の様子だ。店員の蘊蓄うんちくにも熱心に聞き入っている。

 意外にここに来て、ルイとサムが二人で盛り上がっていた。歳が大分離れているはずなのだが、波長があったのかもしれない。
 クリスはあれこれと冒険はせず、いつものワインを選んだようだ。
 メルもいつもの酒にしようと言いながら、酒精の強い蒸留酒スピリッツを頼んでいる。なかなかに飲めるクチらしい。
 俺もと思い強い酒を眺めてみたが、やはりやめておく事にした。無駄な見栄を張って失敗したら元も子もない。クリスと同じワインを革水筒に詰めてもらった。

 他にも雑貨屋などを回り、旅で使う物などを物色した。王都を出る時に旅の支度はして来ているが、それとこれとは別らしい。
 雑貨屋では女たちが喜んでいたし、魔法石や護符アミュレットを扱う店では魔法使いたちが熱心に品定めをしていた。
 この先の旅の事を思うと、こんなゆったりとした時間がとれるのも今のうちだけかもしれないな。

 町の中央には噴水のある大きな広場がある。周りの店が広場に張り出す様にテーブルと椅子を置き、そこでも食事が出来るようになっている。流石に夕方になって冷えてきたからか、外で飲み食いしている客はいないが。
 そんな店から漂う食事の匂いに、つい腹が鳴った。皆は笑ったが、気持ちは同じだったようで、宿で聞いたこの町一番と評判の店で夕食をとることになった。

 * * *

 ひとまず乾杯をし、喉を潤す。
 こういった店はわからないからと、料理を選ぶのを任されたので、定番の品から人気の品まで種類を多めに頼んでおいた。貴族さん方の口に合うのかとちょっと心配したが、二人とも美味しそうに食べているようで安心した。

 皆、町を見て回るうちにすっかり敬語も無くなったし、愛称で呼び合うのも慣れてきたようだ。
 クリスとルイを見ると、それぞれ別のヤツと話している。不安も解けてきたのだろう。さりげなく混ざって話しかけてみる。

「そういや、酒は飲まないのか?」
 さっき、酒ではないものを、と頼んでいたのが気になっていた。
「飲んだ事がなくて。まだ二十歳はたちになったばかりだから」
「今までも飲んでなかったのか?」
「ああ。私の国ではお酒が飲めるのは二十歳からなんだ」
「へぇー。この国じゃ15でも飲むぜ」
「まぁ、これも充分に美味しいよ」
 そう言って、葡萄のジュースの入ったコップを掲げて見せる。てか二十歳か。俺と同い年なのにもっと若いように見えるな。

「まぁ、女だてらに強い酒を浴びてるようなヤツもいるけどな」
「可愛げがないとか言いたそうだな」
 別の方向から、笑いながらもトゲのあるセリフが、視線と一緒に飛んできた。しっかり聞かれていたらしい。
「あんたはとびっきりの美人なんだから、それでいいんだよ」
 声が来た方を見遣みやりながらそう言ってニッと笑って見せると、一瞬きょとんとした様な表情をした顔が緩やかに崩れた。
「お前は口が上手いな」
 目を細めて笑みを浮かべながら火酒を口元に運ぶ仕草に、少しだけ胸の鼓動が高鳴った。

「初心者向けの酒はあるかい??」
 リーダーが給仕を呼んで尋ねている。さっきの会話を聞いていたらしい。
「お酒に慣れない方には甘めのワインなどをお勧めしますね。あと丁度出来たばかりのヤマモモのお酒がありますよ」

 ヤマモモの酒は聞いたことがない。いわく、良く家庭で漬けられる甘い果実酒で、酒屋などではあまり売られないので見かけないのだろうと。この店では店主の手製のヤマモモ酒が振る舞われるが、無くなったら仕舞いの、この時期だけのものだそうだ。
「いいね。無理強いはしないが、試してみないかい?」
 皆も一緒にと、ちょっと遊び心を込めるように、リーダーが言った。

 給仕が氷の入った7人分のコップと、それぞれヤマモモ酒と水の入った水差しを持ってきた。好みの濃さになるように、水で割って飲むらしい。
 試しにそのままで少し飲んでみる。コップを口元に持っていくと、それだけでヤマモモの甘い香りが上がってくる。口に含むととろけるような甘さが広がった。
 甘さも強いが酒精もそれなりに強い。俺にはこの酒精がちょっと強く、それでもこの甘さで飲み過ぎてしまいそうで危険だ。

「……これは、大分甘いな……」
 甘い酒は苦手なのだろうか。アッシュは少し眉をしかめた。メルはむしろ気に入ったのか、氷を入れただけのヤマモモ酒の香りをひとしきり愉しんでいるようだ。
「これは割った方がいいぜ」
 他のメンバーには水で割ったものを渡し、自分のコップにも水を差した。
 今さら割っても酒精の量は変わらないが、一口で飲み過ぎてしまうような事は少しは避けることが出来る。

 程よい甘さの酒はおおむね好評だったようだ。女たちはヤマモモ酒を買って帰りたいらしく、アッシュが皆の分を頼みに店主の元に話しに行き、希望者分の革水筒を手に戻って来た。

 * * *

 料理も酒も美味かったし、皆との会話も楽しかった。今日だけでこの面子とは、大分仲良くやれるようになったんじゃないかと思う。昨日の顔合わせの時を思うと、皆の表情が全然違うしな。

 宿に向かう路程ろていで、気付かぬうちに横に来ていた紅榴石ガーネットの瞳が俺を横目で見て小声で言った。
「今日はありがとうな」

 ……ずりぃな。不意打ちだ。胸に何かがこみ上げる。何と返事していいかわからず、ただ頭を掻きながら余所よそに視線をずらし、照れ臭い風を装った。

 俺はここにいる皆ほどは強くはない。闘技大会でも4位の成績で、このパーティーに選ばれるにはぎりぎりの成績だった。
「サポーターとして彼はとても優秀です。この旅では必要な人材だと思います」
 そう進言して俺を選んでくれたのはこの人だ。

 強敵に立ち向かうような時には、俺は皆ほど役に立たないかもしれない。でも旅に必要なのはそれだけじゃないと、そう言ってくれた。
 だから俺は俺のできる事を精一杯しようと思う。その為にここに居ると思っている。俺が皆の間でムードメーカーを演じた事も、これが俺の役目だと思ってやった事だ。
 でもまた今日もちゃんと俺の事を見ていてくれた。
 ああ、もう! こいつは本当にバカじゃねぇのか? 俺なんかを喜ばせてもなんもないだろうに!

「今日は楽しくて、ちょっと飲み過ぎたかもなぁ」
 視線をらせたまま、そう呟いて見せる。夜の風が熱い頬にあたる。顔が赤くなっていたら酒の所為せいにしよう。
「早く宿に戻って、明日の為にしっかり休もうぜ」
 そう言いながら少し歩を早めると、そうだなと言う声と一緒にくすりと笑ったのが耳に届いた。
 それには気付かない振りをしておいた。

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(メモ)
 お酒の飲める歳(#13)


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