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読書感想文〜『八日目の蝉』角田光代

何度も読んで、NHKドラマを観て、映画も観ました。映画は上映初日一番にひとりで観に行き最初から大泣き、映画館から出てエレベーターに乗ったら聞こえてきた会話の「…後ろに座ってた人、最初から泣いてたよね」の後ろの人とは私のことなのか他の同志のことなのかはわかりませんが、とにかく何度も本を読んで泣きドラマでも映画でも泣きました。最近ネトフリでまた映画を観て泣きました。

「母性」をテーマにした作品。不倫相手の子供を誘拐した女・希和子の3年半の逃亡劇と、事件後、大人になった子供・恵理菜の葛藤を描く全2章(プロローグである第0章を入れると全3章)から構成される。サスペンス調だが、出生、愛情、家族などの日常的な要素が、独特の切り口で描かれる。

Wikipediaより

野々宮希和子が不倫相手の家に忍び込み、夫婦の子供を誘拐する。怪しい団体『エンジェルホーム』に財産を差し出して入り込み、その後小豆島に逃亡。『薫』と名付けた娘との生活が1日でも長く続くように祈りながら息を潜めるようにして暮らし、そして…。
大学生になった『薫』-秋山恵理菜はエンジェルホームで一緒だった安藤千草と一緒に過去を辿る旅に出る。そこで見つけたもの、気づいたこととは。


1993年(平成5年)12月に発生した日野OL不倫放火殺人事件が小説のヒントになっているとのことです。

希和子が犯した罪は許されない、と道義上は理解していても、読んでいる間ずっと、このふたりの生活が永遠に続いて欲しい、神様がいるなら世間の目からふたりを守って欲しいと願っていました。
突然子供を攫われた不倫相手の夫婦の地獄も理解はできても、希和子の必死さと薫に対する純粋な愛情のほうに肩入れをしてしまいました。

小さな命を抱きしめたかった願いが叶わなかった希和子にとって、薫は自分が守り抱きしめていたい対象となったのだと思います。
薫と一緒にいたい、このまま平穏な生活を送りたい。子を想う母として子を守っていきたい。
でもそれは叶わないであろうことは希和子もわかっていたのでしょう。
だからこそ、抱きしめて大切に育てて、薫のことに対しては誠実に全力で向き合い無垢に愛したのだと思います。

親子関係は本当に難しいものです。
親子といっても個人対個人なので、感情の受け渡しがお互いの求める量と渡す量に差があると思うと、不満が出てくるのは仕方のないことだと思います。
また、親子間の問題はこどもが育つ過程で変わっていったり大きくなっていったりするものであり、そして近い関係であるからこそ余計に複雑になるものではないでしょうか。

違う本の話になりますが、林真理子『花』はいつものごとく昔読んだ本で、母娘3代の話でした。
2代目の娘が母親になり、仕事と子育てのバランスを精一杯保とうとしているのですが娘への態度が不器用で(「このお母さん…不器用すぎる」という感想を持った覚えがあります)、娘は不満を持ち「あんな母親にはなりたくない」と思いながらも自分が母親になったときに苦悩する、という内容の小説だったと思います。
娘の、母親のそれぞれの立場で、同性だからこそ相手に求めるものも多く、伝えきれないものも多いのではないかな、と思います。娘として母親にはいつでも自分を見ていて欲しいと願い、娘には生活に追われて時間がない中でも娘を想う気持ちが充分にあることを理解して欲しいと願う。自分を振り返ってもそう思います。

だからこそ、薫との生活だけを願い気持ちの全てを薫に伝えようとする希和子の必死さに読む度観る度、胸を打たれているのかもしれないです。

薫…成長した恵理菜がこれから、希和子が与えてくれた大きなものを思い出し、不器用な母親からの愛にも気づいたことで、自分と自分の大切なものを守って生きて欲しいです。
そして希和子にも、穏やかな日常が訪れていますように。

追記:この本に出てくる男性たちはどうしようもない人が多いです(怒)。

林真理子『花』はこちら。





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