僕は200万の価値ある留学を創出する旅に出る(5)
長い長い夏休みは漫画を読んで終わった。
秋学期が始まった当初はあまり新型ウイルスが蔓延していなかったため、通学することができた。
一年目や二年目の春学期などはほぼオンライン授業に追いやられていて対面授業がほぼなかったので、念願のキャンパスライフはすごく楽しかった。
対面授業がなかったからと言って、友達ができなかったわけではないのでキャンパスでは友達とつるんでいた。みんなで食べるご飯は美味しくや受ける授業はすごく楽しく、人間関係の大切さを再確認した。
ある日、いつものようにキャンパスに行き、いつも集合場所となっているところに向かった。
1限の時間帯ということもあり、僕の知っている友達が一人しかいなかったが、そんなことはお構いなしに僕らは話し始める。
お互いに好きな音楽やお笑いなどを話し合ったあと、その友達が思い出したように話し始めた。
「俺さぁこのあいだね、IELTS受けたのよ。留学行こっかなーって思ってて、まあ俺そこまで英語苦手じゃないからあんま勉強はしなかったんだけどね(笑)。もうそろ締め切りになっちゃうなーって思って。
それでね、IELTS予約して行ったのよ。まあIELTSって大きく分けて2種類あるんよ。「アカデミック」と「ジェネラルなんちゃら」って感じで、それで留学で必要なのは「アカデミック」も方なんだけど、俺「ジェネラル」受けちゃってさ笑笑
自分が間違えていることに気づいた時は超焦ったよね、留学のやつに間に合わなかったらどうるんだよって笑笑
で、気づいた瞬間にアカデミックの方予約して受けに行ったんだよ、五日前ぐらいかな笑
それでテストの結果でるんのが留学の締め切りギリギリなんだよねー笑笑
まじあぶねーわ笑笑」
僕が仮にこのエピソード・トークを平穏な状態で聴いていたら大爆笑だったと思う。しかし、残念ながら僕は冷や汗をかき焦っていた。
それは、彼のテスト結果が留学募集の締め切りギリギリに出るからだ。
僕はその時点で留学に応募できる英語試験を受けてもいなかったし、応募もしていなかった。彼がテストを受けて5日前でギリギリにもかかわらず今から予約して間に合うわけがない。
相当焦った。面白いトークでウケを期待してた友達だったが、僕がノーリアクションで少しむすっとしていた。申し訳ないがその時の僕にはそんな余裕がなかった。
今すぐ叫びたかった。
一瞬でさっきまでの楽しさが自己嫌悪に変わっていく。とりあえずいつ留学の募集が締め切りなのか知るために僕はスマホを持ってトイレに駆け込んだ。
友達に聞くことやその場で調べることも可能だったが、プライドが高い自分にはそれができなかった。ましてや、ちゃんとテストを受け留学の募集資格をクリアしている彼の前では。
個室に駆け込み便座に座り勢いよく調べ始めた。すると留学の募集締め切りまであと11日ほどあった。今は金曜日仮に10日で結果が出るTOEFLを今週末に受ければ間に合う。
僕はすごく安心した。肩を撫で下ろし早速予約に取り掛かった。
しかし、僕はその土日にTOEFLを受けることはなかった。
と言うより、受けることができなかった。
前日には予約は埋まっていた。
絶望だった。
自分の怠惰で、管理能力不足で、自ら人生を変えるチャンスを失った。
今思うとそのちょっと前までは留学のモチベーションは高くなかったけれど、いざその選択肢がなくなるとなると人はそれがあたかも人生で一番大切だったかのような錯覚に陥る。
そんな大切なものを失って苦しかった。それから授業が二つほどあったが、真面目に受ける余裕はなかった。
それからの大学生活は曇り空だった。
続く
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