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遠い記憶 十二話

相変わらず、父の酒癖は、直る様子は無かった。
夜暴れるのは、益々酷くなる。
家の中で、包丁を持ち込む父。
母も、身の危険を感じたのか、
私達に、ランドセル持って出ろと言う。
夜中に、ランドセルを背負い、トボトボと、山道を歩く。

着いた先は、母の友人宅、事情を話すと、
いいよ、いいよ、入って、入ってと、気持ち良く招き入れてくれた。
直ぐに、布団を敷いてくれ、私達を寝かせてくれた。
襖一枚、隔てた向こうでは、母のすすり泣く声と、話を聞く
叔母さんの声。
いいよと言われても、中々寝付ける物でも無かった。
それでも、何時の間にか、夢の中に入って行った。

朝になり、目が覚めると、もう母の姿は無い。
新聞配達の為だったろう。
そこは、自分の家では無い。

子供心にも、何もしない訳には行かないのは、判っていた。
直ぐに、布団をたたみ、おはようございますと。

テーブルの上には、暖かいみそ汁と炊き立てのご飯が、用意されていた。
廣ちゃん、ほら食べんねと、優しく言ってくれた。
一口、みそ汁を口にする。
ああ、美味しいと思った。でも、直ぐに、
こんなよその家で、ご飯食べていいんだろうか?と
子供心にも、罪悪感を感じる。
ふと、隣を見ると、弟はただ美味しそうに食べている。
食べれない。
でも、せっかく出してくれたのに、残すのも悪い気がして、
一膳食べて、箸を置く。
すると、
遠慮せんでも、よかよと、叔母さんが言う。
いえ、
もう、お腹いっぱいですと、片付け様とすると、
よか、よか、叔母さんがするからと、

半分、有難いと思った。
半分、申し訳ないと思った。
涙が出そうになるのを、口を一文字にしてこらえた。

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