見出し画像

時評/詩の近景―沖縄(6)

2013年11月~12月/新城兵一さん、岡本定勝さん、比嘉加津夫さんほか。

 新城兵一さんの『弟または二人三脚』(あすら舎)は、昨年12月に60歳で亡くなった弟への〈弔い〉の詩集だ。14歳で統合失調症を患い、46年間の闘病生活を送った弟の姿が詩「弟」などに描かれる。曇りの日でも愛用したというサングラスなど、少ない遺品が挙げられ〈手ぶらでこの世を歩いたおまえが最もお似合いの/さいごの簡潔な身の終わりかただったのか〉という一節が印象的だ。

 詩「遠い疵(きず)」には幼いころの弟の姿が〈どこか遠い星からこの地球に迷い込んで途方にくれ/いまの自分にとても困惑しているように見えた〉と書き付けられる。人生を共に歩んできた弟のさまは、新城さんの価値観、詩観にも少なからず影響を与えているのだろう。今夏、弟のいない実家に帰省した詩人は、遺影の前でひたすら詩を書き、詩集にまとめた。親しい存在を失った悲しみにどう向き合うべきか。作者が対峙(たいじ)する問いは、読み手にも緊張感を持って迫る。

 詩「二人三脚」の終結部が象徴的だ。〈おまえが埋め捨てていった「言葉」をさがし/コトバのみなもとを掘り当てよう。/ぎこちなく肩を組み 二人三脚で。/おまえがわたしを弔う日まで。〉

ここから先は

697字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?