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遠隔授業で学生の評判が良かったこと

春学期の授業のフィードバックが学生から返ってきました。大変ありがたいことに、担当している3科目すべてで概ね良い評価をいただきましたので、特に授業の工夫の中で、履修者からの評判が良かったものについて紹介します。2020年春学期は、新型コロナウイルスの影響により、急遽遠隔授業となりました。ここで紹介する工夫には、授業を進行させながら押っ取り刀で準備したものもあれば、昨年度までの取り組みの発展として行ってきたこともあります。主に、看護学を学ぶ学生のための情報技術演習で活用しています。みなさまのご参考になれば幸いです。

授業コンテンツはwikiで共有

これはもう10年以上続けていることですが、演習内容をwikiにまとめて公開しています。毎年授業コンテンツの再利用がやりやすい、外部コンテンツにリンクを張ることができる、という教員側の楽さが最も大きな利点ですが、「全部Webに載っている」ことで、過去の学習内容を簡単に振り返ることができるという学生向けの利点もあるようです。

「大福帳」を使った学生とのやりとり

情報技術演習の授業では、「大福帳」というしくみを使いました。大福帳は、前のnoteでも紹介しましたが、早稲田大学人間科学学術院 向後千春研究室で開発された、授業におけるスタッフと履修者のコミュニケーションツールです。大福帳も私の授業では10年ほど続けており、例年は紙でのやりとりですが、今年はgoogle spreadsheetで各学生用に大福帳を作成し、履修者一人一人と個別に共有するしくみを作りました。大福帳には毎回学生が授業の感想を書き、SA(学生アシスタント)が次の回までに返信欄にコメントを書きます。教員は、一覧表示で学生からのコメントを確認し、気になった感想については直接コメントをするようにしました。

授業調査の自由記載欄で最も言及されていたのがこの「大福帳」で、学生には非常に好評でした。SAという、履修者にとっては「先輩」にあたる学生とコミュニケーションが取れるというところが、特に今期他の学生とのやりとりが少なくなりがちな学生にとっては魅力的だったようです。遠隔授業だと、グループワーク中や授業の開始前、終了後のちょっとした「雑談」がなかなかできませんが、大福帳に他愛もないセンチメントを書くこと、それに他愛もないコメントが返ってくることが学生のモチベーションの維持に寄与するのかもしれません。返事を書くのがSAの学生だったので、気楽に書けたという面もあるかと思います。

履修者の人数分(106名)の大福帳spreadsheetの作成や、学生からのコメント一覧表示機能は、SAがスクリプトを書いて作ってくれました。こういった「小技」を使えるSAがいてくれたことは、今期ラッキーだったことの一つです。

もくもく部屋

演習を進行するにあたって、対面の授業でも悩ましいのが、習熟度の違う学生のサポートです。特に、私の授業で取り扱うMS-Office系のソフトウェアは、高校でがっつり勉強してきた人もいれば、ほぼ初めてという学生もいます。

この課題に対しては、2つの方法で対応しました。

ひとつは、基本的な項目の学習では、講義内容をあらかじめWebで公開しておき、「この内容がわかる人は課題を提出すれば出席したとみなす」という取り扱いにしたことです。もうひとつが「もくもく部屋」で、これはオンライン・リアルタイム授業の際に、「もくもく部屋」というブレイクアウトルームを作り、自分のペースで(主に早く)進めたい人はその部屋で学習を進めるというやり方です。一人でやるのでもなく、全員に合わせるのでもない、中間的な場となっています。ブレイクアウトルームは、最大5人程度を目安に、人数が多い場合は複数作成しました。

ステップ・バイ・ステップで私の説明を聞いて学習したい履修者は、メインセッションでそのまま参加します。途中でもくもく部屋に行きたくなった人は、チャットで申し出てもらい、ホスト(私)がもくもく部屋に移動させます。

もくもく部屋の名前の由来は、黙々と作業を進める部屋という意味ですが、実際にはいろいろな雑談をしながら進めていたようです。こちらの狙いも、自分のペースで進めることができるのと同時に、できるだけ学生同士が雑談をする機会を増やすことだったので、雑談はOKにしていました。ときどきもくもく部屋の様子を見に入って、学生の雑談を聞いているのは、私にとっても楽しいことでした。

授業公式LINEアカウントの開設

私は普段はLINEをあまり使わないのですが、SAからのすすめで授業ごとに公式LINEアカウントを開設することにしました。グループワークがはじまって、グループごとに様々な質問が出てきますが、zoomのチャット機能だと私しか受け取ることができなかったので、タイムリーに返信することが難しかったり、授業時間外の質問を受けることが難しい、SAと学生のやりとりが教員から見えない、といった課題がありました。大学の授業支援システムにこのような機能が実装されていなかったため、SAと検討をして、LINE公式アカウントを作ることにしました。

公式LINEを開設して、自分とSAを管理者にすることで、学生からの質問をグループで受けて管理することができました。公式アカウントは、自分のLINEアカウントとの紐付けは行いますが、自分のアカウントが学生に公開されるわけではないので、授業専用のアカウントとして安心して使うことができます。学生から見ると、自分と公式LINEアカウントの1対1のコミュニケーションになります。

学生からは、「zoomチャットだと全員に見られてしまうので質問しにくかったが、LINEは聞きやすかった」というポジティブなフィードバックが寄せられました。全員の前で質問しにくいというのは今日びの学生気質だなあ、とは思いますが、グループワークだとグループごとに内容も違うので、個別の質問チャンネルがあるのはよいことだと考えています。

それにつけても感じるのが、学生にとっての「メールの敷居の高さ」です。「質問はメールで」と言っても、気軽な質問をしてくる学生はほとんどいません。年寄りくさく、メールをちゃんと書くべき、というのは簡単ですが、一方で、私たちは何のためにコミュニケーションを取るのか、そしてコミュニケーションをより効率的に行うためには何をすべきか、という原点に立ち返る必要があると感じます。かつてメールがそうであったように(そして当時の年寄りに「電話や対面でちゃんと伝えるべき」と文句を言われながら使われ広まっていったように)「より便利な通信チャンネル」を選ぶというのは合理的な判断だと考えています。ただし、メールと違って、特定の営利企業にコミュニケーションチャンネルを預けているという意識は常に持っておく必要があります。

公式LINEアカウントは、授業ごとの質問を自分とSAが共有できること、1対1の環境で、学生が気楽に質問できること、教員から見たときには、学生との質問/答えのやりとりをSAと共有できるのでコミュニケーションが密室にならないこと、など、双方にとって安心感のあるチャンネルだったように思います。

秋学期は何が起きるだろう

10月から秋学期の授業がはじまります。秋学期は、今年から新たにはじまる講義科目、春学期よりもディープな演習を含む授業、卒業研究指導など、新たな挑戦があります。わくわくする気持ちよりも、正直、プレッシャーの方が強いですが、がんばりますー(やや弱気)。

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