Googleの有名な数式を使った人材募集の看板広告で採用された社員は0人だった
まずはこちらの写真をご覧ください。
(画像は「ワーク・ルールズ!」より引用)
非常に有名な写真なので、見たことがある方もいるかもしれません。これは、Googleが優秀な社員を採用するために掲出した人材募集広告です。
この広告は、マサチューセッツ工科大学の改札口に掲出されたものです。{first 10-digit prime found in consecutive digits of e}の部分が数式になっていて、この問題を解くことができた人間だけが、採用サイトにたどり着くことができます。採用サイトにはさらに問題があり、その問題を解いたところで、はじめてGoogleの人材募集だったことが明かされるという仕組みです。
この広告は、広告業界では非常に優れた広告のお手本としてたびたび紹介されます。圧倒的に優秀な人材は、難しい問題を見たら絶対に解きたくなる、というインサイト見事に捉えた広告だからです。例えば、「広告コミュニケーションの総合講座 2016(発行:日経広告研究所)」というまさに広告の教科書といえるような書籍では、次のように紹介されています。
この仕事は今の広告づくりの進むべき指針を示している。この仕事はもはや広告とは言いたくない。課題解決ソリューションだと思っている。
このように、非常に優れたクリエイティブであると評価されています。
しかし、この広告について、意外と知られていない事実があります。実はこの広告は、Googleにとっては何の成果も得られないものでした。
なぜなら、この広告で採用した社員はひとりもいなかったからです。
Googleで人事トップを務めたラズロ・ボック氏の著書「ワーク・ルールズ!」は、Googleおよびシリコンバレーの企業文化を知るためのバイブル的な書籍として有名ですが、この本で今回取り上げた人材募集広告について、次のように言及されています。
私たちは突拍子もないことを試してみた。2004年、マサチューセッツ州ケンブリッジに、またカリフォルニア州の101フリーウェイから少し離れたところに、不可解なパズルを掲載した広告板を設置したのだ。
(中略)
結果はどうなっただろうか?私たちはひとりも採用しなかった。広告板はメディアで盛んに取り上げられたものの、資源の無駄遣いになっただけだった。人材募集チームは洪水のような履歴書と問い合わせに対応しなければならなかったからだ。訪問者の大半は2つのパズルを解いていなかった。
私も「ワーク・ルールズ!」を読むまでこの事実を知らなかったのですが、優れたクリエイティブのお手本とされている広告が、採用というミッションにおいては何も効果がなかったことを知って非常に驚きました。
この広告から私が学んだことは、エージェンシーが考える優れたクリエイティブが必ずしもクライアントにとって最善ではないということ、そして広告はアイデアの質だけでなく常にビジネスとしての成果とあわせて考える必要があるということです。引用した文中の「広告板はメディアで盛んに取り上げられたものの」という部分が非常に示唆的であると思うのですが、広告は得てして世に出た瞬間のインパクトで評価されがちです。しかし実際にその広告がビジネスとして成功であったかどうかは、中長期的なKPIをしっかりと追いかけなければわかりません。こうした数字はなかなか世に出ることはありませんが、広告のクリエイティブを評価する際は、常にビジネスとしてどのような成果があったのか?をあわせて考えるようにしたいです。
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