ゼクシィのコピー「結婚しなくても幸せになれるこの時代に 私は、あなたと結婚したいのです。」は「時代性」と「ギャップ」で強度を上げている
私はコピーライターになって12年目になりますが、日々のトレーニングとして、優れたコピーについて「なぜそのコピーが優れているか?」を分析するようにしています。そこで得られた学びを体系化し、自分のコピーに活かすためです。コピーライティングは技術職です。正しいトレーニングを行えば確実に上達します。
ここ数年に生まれたコピーの中で、私が最も優れていると思うのが、ゼクシィのこちらのコピーです。
結婚しなくても幸せになれるこの時代に
私は、あなたと結婚したいのです。
このコピーを私なりに分析してみました。キーワードは次の2つです。
1. 時代性
2. ギャップ
まずは「時代性」について。
広告はしばしば「時代を映す鏡」と言われますが、その時代にしか言えないことを発信することで、より多くの人の心を捉えることができます。
今回はゼクシィのコピーなので、伝えなければならないのは「結婚」の魅力です。純粋に「結婚」そのものだけの魅力を考えると、「愛する人と一緒にいられる」「家族ができる」などが出てきますが、これだけでは斬新な切り口とは言えません。しかしここで、「結婚×今の時代」というように、商品やサービスに対して時代を掛け合わせるのです。すると「離婚率の上昇」「晩婚化」「同性婚」など、今の時代しか言えないような切り口が生まれてきます。
今回のコピーについて、生みの親であるコピーライターの坂本美慧さんは次のように話しています。
今の時代って “結婚”ということに対する社会的な意識が薄れてきていますよね。その中で、結婚を意識している人にはもちろん意識してない人にも「やっぱり結婚っていいよね」と思ってもらえるようなコミュニケーションをしよう、というところからスタートしました。
コトバを信じて、そのパワーを届けていくことより引用
このように、コピーを考える商品やサービスに関して、今の時代しか言えないことを考えることで、新しく、かつ多くの人の共感が得られるメッセージを生み出すことができるのです。
そしてもうひとつのキーワード、「ギャップ」です。
斬新な切り口を見つけたら、それをどう表現するかを考えることになるのですが、そのテクニックのひとつとしてこのコピーで使われているのが、「ギャップ」です。
このテクニックは、コピーライターである佐々木圭一さんのベストセラー「伝え方が9割」で、「強いコトバ」をつくる技術「ギャップ法」として紹介されています。例として取り上げられているのが、オバマ大統領の有名な次の言葉です。
これは私の勝利ではない。あなたの勝利だ。
この言葉で伝えたいことは、シンプルに言うと「これは、あなたの勝利だ」だけです。しかし、その前に「これはあなたの勝利ではない」という正反対の言葉を使うことで、ギャップを生み出し、言葉を圧倒的に強いものにしているのです。
これと同様の手法が、ゼクシィのコピーにも使われています。「私は、あなたと結婚したい」というメッセージの前に、「結婚したい」の正反対である「結婚しなくても」という言葉を使うことで、コピーの強度を上げているわけです。
斬新な切り口を発見するために「時代性」を捉え、より強いメッセージにするために「ギャップ」を生み出す。こうして、「結婚しなくても幸せになれるこの時代に 私は、あなたと結婚したいのです。」というコピーは、多くの人の共感を得ることができたのだと思います。