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セーラの叔父さま 33話

魔法の翌日

翌朝、ミンチン上流女子女史寄宿学校内ではセーラ・クルーが謹慎処分になったこと、アーメンガードが罰を科せられたこと、ベッキーが学校から出て行くように告げられたことが知れ渡っていた。
口コミというものは恐ろしい速度で伝わっていくのは昔も今も同じだ。

昨晩、ミンチン先生にセーラが屋根裏部屋でいいことをしているって告げ口をしたのはラビニアだ。
そのラビニアは今日セーラが教室に入ってくるとき酷い顔をしてやってくるだろうと考えていた。

「あの子、昨日も食事抜きで今日も一日中食事抜きなんだって」
嬉しそうにジェシーに話すラビニア。
ジェシーは愚かではあるがそれ程性根の曲がった子ではなかった。
「それって、ひどくない?あの子を飢え死にさせる権利はないでしょうに」

ジェシーはそう思うならどうしていつもラビニアと一緒にあざ笑っているのか。彼女ははそういう所が愚かなのだがまあ世の中そういう人間は山ほどいるのだろう。

ミンチンもラビニアと同じく、教室に入ってくるセーラはしおれた表情をしているものとばかり思っていた。彼女にとってセーラはこれまでずっと得体の知れない子供で、それがしゃくに障っていたのだ。
どんなに辛くても泣かないし、おびえた顔も見せない。どんなに叱りとばしてもじっとその場にたったまま礼儀正しく聞いている。食事を抜いても仕事を増やしても不平も言わなければ反抗する態度も見せない。
セーラが決して生意気な返事をしないと言うことがミンチンには生意気に思えたのだ。

今日こそは、セーラは辛そうな青ざめた表情を見せるはずだ。
内心少しわくわくしながらミンチンはセーラがやってくるのを待っていた。

ところが・・・セーラははずむ足取りで教室に入ってきた。口元には笑みさえ浮かべている。

どうしたことか!?何故この子はそんな顔をしているのだ。
「謹慎中の顔には見えませんね。お前は反省していないのですか!」
「失礼いたしました。私は謹慎中だということは承知しております」
「ならば、それを忘れないように。いいですか、今日は一日中食事無しですからね」
「はい、院長先生」

セーラの中の人である日本の中年女性である私にはミンチンがセーラを嫌うっていう心理はわからないでもない。
セーラって本当に強情で人には決して弱みを見せないからだ。
普通セーラぐらいの子供だと辛ければ辛い表情をするし泣く子も多いだろう。しかし、セーラは滅多に泣かない。ちょっと泣いたぐらいの方が可愛げがあるのにね。損な性格だとも言えるだろう。

その日はセーラもベッキーも幸せだった。雨が降ってぬかるみが酷く寒さはいっそう厳しくお使いは重くコックは不機嫌でも平気だった。
夜中の食事と暖かい部屋で眠るっていうだけで元気が出るのだ。昼食も夕食も食べないで頑張れるのだ。

今夜も魔法が消えていない・・・はず・・・。
夜も随分遅くなってようやく自分の屋根裏部屋の前に立ったとき、セーラは心臓がドキドキした。
そしてドアを開け、昨夜以上に綺麗で暖かな部屋になっていることに感激した。
「本当におとぎ話が現実になったみたいだわ。これは本当に私の屋根裏部屋なのかしら?」

その後、日ごとにセーラの暮らしは素敵になっていった。
みすぼらしかった部屋は心地よい家具や装飾品でいっぱいで美しくなり、本棚には本もずらっと並んでいた。もちろん、食事も毎日用意されている。

叔父さまは、そういう風にセーラの部屋が変わっていくのを嬉しそうに眺めていた。
「叔父さま、一緒に食べませんか?」
「僕は大丈夫、ちゃんと毎日食べてるからね。君とベッキーはろくに食べさせて貰えないのだからいっぱい食べるといいよ。ああ、僕も最初から君たちにこういうことをしてあげれば良かった。気の利かない僕を許してくれたまえ」
「そんなことはありません。叔父さまにはいつも美味しいパンやお菓子をいただいていましたし、暖かい服や毛布もいただいたし、仕事も手伝って貰っていたし・・・そもそも私がこの世界はお話通りに進むからあまりお話から外れたことはしないで欲しいって頼んでたわけだし・・・叔父さまには本当に感謝しています」
「感謝なんていらないよ。僕は君が幸せになるならそれで満足なんだ」

叔父さまの優しい目を見ると私はそれだけで幸せな気分になる。この人はどうしてこんなに私に優しいんだろう?叔父だから?私が姪だから?


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