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萩尾望都 (イグアナの娘)

米国の権威ある漫画賞のアイズナー賞で、萩尾望都先生が、「コミックの殿堂」を受賞したそうです。おめでとうございます。
ニュースでは、たいてい「ポーの一族」などが代表作にあげられていますが今日とりあげるのは「イグアナの娘」です。

お互いに愛したくても愛せない母親と長女の葛藤を、シュールな心象描写で浮き彫りにし、大反響を呼んだ作品でTVドラマにもなったと思う。(私は観ていませんが)
実際の姿ではない姿で表現するという手法は大島弓子の「綿の国星」などでも使われていて、それほど目新しいものではないかもしれない。
しかし・・・実際は可愛い女の子を「イグアナ」の姿で描く!!
それだけでかなり”衝撃的”である。
しかも内容は「母と娘の葛藤」!!

作者は親子の葛藤などを描くのが非常に上手い人である。
娘の姿をわざわざ「イグアナ」として描かなくても母娘の葛藤を表現出来た筈である。
それなのに、何故わざわざ敢えて「イグアナ」にしたのか?
ただ単に奇をてらったわけではないだろう。

「イグアナ」の姿にすることによって、母子の葛藤という禍々しいものを一種「メルヘンチックなオブラート的なもの」にくるんでいるのかもしれない。

直接的に訴えないことによって、読者がこの話を<第三者の目>で捉えることが出来、
それは逆に内面からじわ~~っと母娘の哀しさをより切実に感じるような演出をしているのかもしれない。

お互いに愛したいけど愛せない
なんて哀しいことだろう!!

大学卒業と同時に結婚し、実家から離れた所で暮らし始めたリカは思う。
しあわせって 愛する人と一緒にいること・・・・・・
こんなに心が満たされて・・・・・・
こわいくらい…
リカは母親と離れて初めて心から幸せを感じたのだ。
その後母親が急死して実家に帰る途中、
ホッとして、ちっとも悲しくない自分にショックを受ける。
そして・・・
母の死に顔を見て自分とそっくりな顔・・・つまり「イグアナ」だったことに驚愕する。
母の枕辺で夢を見るリカ。
夢の中で母もまたイグアナだった。
そして母の哀しみを理解したリカは、そこで初めて涙を流すのだ。

・・・で、普通なら次のページからは
「イグアナ」ではなくて「人間」として表現しそうなものだが作者は尚もリカを「イグアナ」として描く。

リカは愛する夫や息子と共に幸せそうに散歩している。
彼女は思う。
母の枕辺で夢を見たときなにかが浄化されたのだ
不思議だけど・・・・・・
あたしもまた苦しかった
母に好かれたくて
・・・・・・でも嫌われて・・・
母を愛したくて
・・・・・・でも
愛せなくて・・・・・・
でも もういい
あたしは夢でガラパゴス諸島へ行って母に会った
あたしは 涙と一緒に
あたしの苦しみを流した

どこかに
母の涙が凝っている

最後のコマは遠景の三人の人影だがここで初めてリカは「人間」として描かれている。
しかし・・・母の涙はどこで凝っているのだろうか??
リカの心の片隅で?
それともリカたち家族が幸せに散歩している足元に・・・??
その<母の涙>もいつかは流されていくのだろうか?

そうであって欲しいと思う。


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