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満席の休日カフェは、心がすり減る。

いつしか、部屋のエアコンはつけっぱなしになった。

夜は快眠モードというよくもわからぬボタンを押して眠りにつくことが増えた。
そういう日は決まって夜中に目が覚める。どこが快眠なんだろう。

7月の土曜日、天気は晴れ。
夕方から、久しぶりに再会する友人との予定がある。
せっかくの休日なのだから。と、午前に部屋の掃除と洗濯を済ませた。

朝イチで干した洗濯物が、昼過ぎにはカラッと乾くのはありがたい。
南向きのベランダ、一本の物干し竿。ゆらゆらと揺れている洋服たち。
涼しい部屋で飲む麦茶はいつもよりも、少しだけ美味しく感じた。

時計がてっぺんを過ぎたころ、家を出た。
茹だるような暑さにじわじわと汗が出てくる。
いつから日本はこんなに暑くなったんだ、と嘆きはじめてから数年が経った。

都心に向かう電車は、いつもよりもカラフルな匂いがする。
どこか、浮かれている、これが土曜日かと思った。

池袋の駅を降りると、人の多さに圧倒されてしまった。
駅構内を縦横無尽に人が交差していく。

GoogleMapは頭の中に入れておかないと、停まったら舌打ちをされてしまいそうな勢いだ。そのくせ、エスカレーターは律儀に左側も右側も立ち止まるんだから、東京ってモンはいつになっても理解ができない。

楽器店にふらっと入って、桁が1つも2つも違うギターを眺める。
壁に掛かったギターを見ているフリをして試奏をしている人の音を聴くと
「自分はこんなに弾けないなあ」と毎回のように思ってしまう。

30度を超える気温、強い日差し。
そんな中を15分も歩き、喉も乾いたのでカフェを探すことにした。

「休みだし、混んでいるかな。ある程度は、しょうがない。」


いつも訪れている喫茶店の扉を開けた。
カランコロン、と気持ちのいい音が鳴ると同時に店員さんに「店内満席で…」と申し訳なさそうに謝られてしまった。
狭い店内の入り口付近、順番待ちをしている人たちが数組。
テーブルには本を読んでいる人や、パソコンを開いている人、談笑している人…「まだ帰りません」感に溢れていたので、また来ますと言って店を出ることにした。
扉から鳴るカランコロンという音がなんだか悲しい。

そこからは連戦連敗だった。
100席以上の座席があるチェーン店のカフェも満席。フロア内で空き席を狙うハンターがうろうろしている。
「絶対に勝てない」と確信し、退散する。

こんなことを20分ほど繰り返したところで、ある疑問が浮かんできた。

「僕は休日に、何をやっているんだろう??」


週5日みっちり働いたあとの土曜日。
豆の種類すらよくわからない珈琲を飲むために、歩き回っている。
もう、ここまできたら意地なんだと思う。

「満席でして…。お待ちいただけますか?」
「はい、待ちます。」
カフェを探し始めて30分。ビルに入っているカフェ。小さい椅子に座って、順番を待つ。

「お待たせいたしました、ご案内いたします」

ありがとう、ありがとう。これでやっと珈琲が飲める。
アイスコーヒー、400円。味は好みの苦めだった。

ふう、と一息つき、カバンから本を取り出す。
それと同時に、店内にスタッフさんの声が響く。

「店内、満席となっておりまーす!!」
「お客さま同士で譲り合ってご利用くださーい!」

まあ、そうだよなあと思いながら、珈琲を口に運ぶ。
いつもより心なしか、飲むペースを落としている自分がいた。

「店内満席、2名さま3組お待ちでーす!」

スタッフ間でのやりとりも、大声で行われている。
きっと、この掛け声も回転率を上げるためのやり方なんだよな、とカフェで働いていた大学生の頃を思い出す。
珈琲を口に運ぶ。氷が溶けて、味が薄くなっているのがわかる。

こんなことを20分ほど繰り返したところで、またある疑問が浮かんできた。

「もう出ていった方がいいのか…?」

いや、お金を払ったんだから大丈夫。飲み物もまだ残っている。

「店内満席、2名さま5組お待ちでーーーーす!!」

…まだ、大丈夫。きっと。それに本も15Pくらいしか進んでいないし。

「いらっしゃいませー!お席満席でーーーーーす!!!」


「(…だめだ、出よう。)」


荷物をまとめ、立ち上がり、トレーを持ち上げる。


「トレーはそのままで結構でーす!!」

タイミングぴったりの案内にびくっとして、そそくさと出口に向かう。

「「「ありがとうございましたーー!!!」」」

重なる挨拶に、ぺこっとお辞儀をして、店を後にした。


友人との約束までまだ2時間ある。
幸いなことに気温のピークは過ぎていた。
近くにある公園に向かい、木陰にあるレンガブロックに目をつけた。

そして自動販売機でいつもは飲まない炭酸水を買う。
ガシャコン、と出てくる500mlのペットボトル、150円。
すぐに栓を開けてグビっと、ひと飲み。
「〜〜〜っ!!!」声にならない爽快感が体を突き抜ける。夏。

炭酸水を片手に、先ほど目をつけていたレンガブロックに腰掛けた。
こんなに読むの速かったのか自分、と思うくらいのスピードで本のページを捲る。

屋外は、やはり暑いけれど、風が抜けると気持ちがいい。
申し訳ないけれど、カフェよりぜんぜん居心地がよかったし、「休日」という感じがした。

友人と分かれた、帰りの電車。

スマホで検索したのは、「家 カフェ グッズ」。

きっと、来週は引きこもり。


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