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ねこのボクとしょうがない人間のご主人

ボクはねこなんですね。
自分で言うのもなんですけど、黒くてシュッとしてて、毛並みが艶めいてて、目がぱっちりしたイカしたねこなんです。


ぴらぴらの布

ボクのご主人ときたらですよ、こんなにイカしたボクにぴらぴらした布を着せたがるんです。
そんなの着たらこの艶めいた身体が隠れちゃうじゃないですか。
ボクはご主人に毅然とした態度で意見するんですけど、これがちっとも分かってもらえない。
こっちははっきりピラピラの布はお断りするとお伝えしているのに、かわいいかわいいって言うばかりで脱がしてはくれないし、性懲りも無く次々と洋服を買ってくるんです。
ちょっと、ご主人?
ボクがかわいいのは当然だし、こんなぴらぴらよりもちゅーるの方がいいんですけど!


名付け違い

ボクのご主人はいつもちょっと抜けているわけです。
なんたってボクをキキと名付けました。
由来はあれです。
魔女の女の子がパン屋さんで修行するあの物語です。
みなさん、お気づきでしょうか。
ボクのご主人は間違えたんです!
あの物語の黒猫の名前はジジ。
キキは魔女の女の子の名前です。
ボクのご主人は間違いに気づいた日、ボクを抱き上げて、間違えちゃったけどキキの方がかわいいからいいよね、と笑いながら言いました。
まあ、お詫びに買ってくれた黒のシルクハットはあの物語の黒猫がつけていた赤いリボンよりずっとボクに似合っていたし、1週間おやつをちゅーるにしてくれると言ったから許してあげました。


しょうがない人間

ボクのご主人はしょうがない人なわけです。
ばかみたいに楽しそうに笑っている日もありますが、シクシクと泣いている日もあるし、しょんぼりと落ち込んでソファから立ち上がらない日もあります。
そんなときは隣に座ってあげなくてはいけません。
毎日、ボクを置いて出かけたりするからそんな目にあうんだよと言い聞かせながら、しっぽでぱしぱしと膝を叩きます。
それでも元気が出ないときには背中を貸してあげます。
びちゃびちゃの顔を押し付けられるのは嫌ですが、まあしょうがありません。
ちょっとしょっぱいですけど涙も舐めてあげますね。
この人にはボクしかいないですからね。
あ、おなかはやめてください。
あと、鼻水付けるのもやめてください。



ぴらぴらの布はボクが寒くないように気を遣ってくれていること、キキという名前もボクが返事をするから変えられなかったこと、本当は知っています。
ボクはねこなので、いつかご主人を置いていってしまうことになるでしょう。
ボクがいなくなってしまうまでに、びちゃびちゃの顔を埋める背中とか、涙を拭き取ってくれる相手が現れてくれるといいんですけども。
まあ、ボクがいる間はその役目はボクのものですけどね。




このお話は、企画に参加させていただくものです。

猫と帽子と聞いて、本当は猫の恩返しを思い出したのですが、初っ端から猫は黒いし、紳士じゃないし、例によってナンカチガウ話になったけど、楽しかったからいいということにしました。