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月の缶詰 スピンオフ4

お暇の朔

空に帰ってきてから何度目かの新月。
この朔の夜は月とっては唯一の休暇。
僕は時間があると美晴の顔が思い浮かぶけん、よく美晴の観察をしとるんよ。
美晴はよく僕を眺めとるけど、僕の方も美晴を眺めとるとはたぶん美晴は思ってもないやろうなあ。
せっかく観察したし、忘れたらもったいないけん、この暇な夜に日記にしてまとめとこうかな。


三日月の朝
美晴は朝が弱い。
目覚ましのアラームは5分おきに5回鳴らす。
どうせ起きんのやったら、最後のやつだけにして気持ちよく寝たらいいのに。
いつもやったら朝日を浴びに縁側に出てくるのに、今日はよっぽど眠たいんか、最後のアラームを止めても布団の中でぐずぐずしとるみたい。
早よせんと朝ごはん食べる時間なくなるよ。
それから30分、たっぷり二度寝をした美晴は、最後の砦の爆音アラームに叩き起こされとった。
あーあ。ご飯食べる時間ないやんか。
いっぱい寝るのはいいことやけど、朝ごはんはちゃんと食べんといけんよってあれほど言うたのに。

バタバタと家から出てきた美晴は駅に向かって走り出す。
毎日ひとつに束ねられている髪は、辛うじてひとまとめになっとったけど、首元にひと筋長い髪が落ちとった。
あれは会社で先輩に指摘されて慌ててやり直すやつやなあ。


上弦の昼
ランチタイムに財布を持った美晴が出てきた。
今日は外でご飯を食べるみたい。
楽しそうにキョロキョロと良さげなお店を探して歩いている。
どこまでも進んでいくんやけど、まだお店決めてないんやろうか。
早よせんとお昼食べ損ねるよ。
会社まで帰る時間も計算しとるんかな。
それに周りのお店にばっかり気を取られとったら、ああ、やっぱり躓いた。
こけんかったけど恥ずかしくはあったらしく、別に何ともありませんよの顔でまた歩き始める美晴を見て笑ってしまう。

いや、もう遅いんよ。みんなに見られとったやん。
そろそろ本当にこけそうやけん気いつけてや。

そして、やっと気がついたように腕時計を見て踵を返した。
早足で来た道を戻り始める。
やっぱり時間のこと考えてなかったんやろ。
結局、コンビニでおむすびを買った美晴は、無念ですという顔で会社に戻っていった。

満月の休日
休日なのに珍しく午前中に起きた美晴が、いつもよりちょっとだけおしゃれをして、ちょっとだけ気合を入れてお化粧して、小さなカバンを肩にかけて家から出てきた。
どこ行くんやろう。
いつもの駅で汽車に乗り、ガタガタと揺られて着いたのはショッピングモール。
買い物みたいやな。
半日ほど経つといくつか袋を下げて、嬉しそうに美晴が出てきた。
久しぶりの買い物は楽しかったみたいやなあ。
帰りの汽車の切符を買うのに買ったばかりの袋が邪魔になったみたいでもたもたしていると後ろに列ができはじめた。
焦った美晴は袋をその辺に一度置く。
そんな無造作に置いて、忘れんようにしいや。
荷物を忘れずに改札を抜けてきた美晴は汽車が来るまでホームのベンチに腰掛けた。
よっこらしょって前も言うとっなあ。
10分ほど待ったところで汽車がやって来て立ち上がる。
ちょいちょい、お姉さん?
買ったもの、ベンチに忘れてますよ。
1回置いたん、もう忘れとるやん。
先に汽車に乗り込んだマダムが教えてくれたらしく、慌てて取りに戻ってくる。
田舎の汽車は停車時間がゆっくりしとってよかったなあ。


下弦の夜
「この前ね、買い物行って来たんだ〜。」

美晴が縁側に腰掛け、ご機嫌で僕を見上げて話す。

知っとるよ。
この前、ベンチに忘れ物しそうになった日やろ。

「それでね、じゃーん!これ買っちゃった。」

こちらに向かって右手を差し出している。
何かと思って目を凝らすと、彼女の手首にはキラリと銀に光る何かが付けられていた。

「ブレスレットなんだけどね、モチーフが三日月なの。誕生日が来たからね、ずっと何か自分に買おうと思ってたんだけど一目惚れしたからこれにした。」

星のモチーフと迷ったと言う美晴は敢えて月のモチーフを選んでくれたらしい。
嬉しいなあ。

「でね、これ、作家さんの手作りの作品を売ってるお店で見つけたんだけど、手作りだから全部1点ものなのね。もちろん似たような三日月のはいっぱいあったんだよ。けどね、見て!これ、ここがちょっぴり欠けてるの、月とおんなじ形に。もう運命だと思って!」

少し興奮して話す美晴に、僕は涙が出そうやった。
僕を思い出してくれたんやなあって嬉しくて、会いたくて。
早く美晴と話したいなと心底思った。
5年が長いのは美晴の方やと思ってたけど、僕の方やったかもしれん。
次に会うときに、その話、もう一回聞かせてな。

三日月の夜更け
「イヤリングとかネックレスもあったけど、ブレスレットにしたのは手元なら絶対に目に入るし、ネックレスはもう欠片を入れたペンダントがあるからね。」

あの日、なんの気負いもなくそう言った美晴の手首には今日もブレスレットが光っていた。
空に手を翳しては嬉しそうにブレスレットを見つめていることや欠片が入ったペンダントを本当に肌身離さず身につけてくれていることを知っている。
それからときどき泣きながら欠片を握りしめていることも。
そばに居られないことがもどかしいこともあるけれど、置いていった僕は泣かないでとも言えないけれど、できれば笑っていて。
僕は美晴の泣き顔も怒った顔も嫌いじゃないけど、笑った顔が1番好きやけん。