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海辺の街は時間が進む

「その時計外しといたら?壊れるよ」
そう言われて腕から時計を外した。
どうやら海辺の街は物の寿命が早まるらしい。
塩害というのだろうか、とにかく動くものは動かなくなり錆びるのだろう。
私は海が好きだ。

スイカ

私自身の家周辺には海はないが、その代わりに自分の絵の中に海を閉じ込めて海辺を創る。
子供の頃、なかなか絵が上手くならなくて悩み、胃が痛くなって学校に行けなくなったりしても海をみればその大きさと波音の大きさに圧倒され気を取り直すことができた。
それから私は波がプリントされたカーテンや海を模した色水が入った玩具など、海を想わせるものを集めたりした。
ある時波音が聴きたくて箱にビーズを入れ転がしてみたりしたが、全く求めている波音ではなく‥やはりセオリー通り小豆を入れなきゃ駄目なのだろうなぁと思った。

海辺には毎日違う貝殻や石ころが打ち上げられ、そしてまた海中に引き戻される。
延々と繰り返す地球のルーティンである。
そのルーティンを感じると、私にはなんだか海辺では都会と比べしっかりと時を刻んでいるように感じられる。
もしかしたら波や雲や生物がざわめく感じ、そして空気中の漂う塩が及ぼす無機物への目に見える劣化現象のせいかもしれない。

海辺の街の中をゆく川は海水と川が同時に存在するような摩訶不思議さを備えている。
噂話だが、街中の水路にエイが泳いでいることがあるらしい。

そんな噂の海辺の街をフラフラしていると、絵が上手くならないとか、なんてどうでも良い事柄だろうかと思う。

海辺の街中を歩いている時、少し歩けば海が見れるという高揚感、海を見た時の達成感。

なぜ海は私をこんなにも惹きつけられるのか
私はひとときの旅行から帰り、今日もまたアトリエにこもり自分だけのあたたかな海を創るのであった。

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