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これが仕事ですから

 今年も、GWに寝室前にある北向きの植込みのスズランが咲いた。その姿を見て、健気だな…と思う。昨日は、お天気も良かったので庭先を見回り、部屋の片づけをした。

ここしばらく、草木に気を配る余裕もなく、マズイな…と思っていたところが、やっぱりマズイことになっていた。ツタ絡まるテラスの外壁に、ツタの絡まるヒメシャラになっている…。

うーん、コレはコレで良いような駄目ような…。

放置状態だったラベンダーも花を咲かせていた。

早春に咲くクリスマスローズも、見てあげることもなかったけれど、まだ咲き続けてくれていた。

やっぱり、人なんかより植物の方が逞ましく思える。

 部屋に戻ってクローゼットの整理に取り掛かると、ここにもマズイな…があった。クローゼットの隅にある衣類カバーに包まれた喪服。最近は別の喪服を使用しているので数年ほど放置したままで、衣類カバーのファスナーを下ろすのも怖くて手が出なかった。でも、『今日こそっ!』と思ってクローゼットから取り出し、庭先で開けてみると、案の定『ドット柄ですか?』くらいの勢いでカビだらけになっていた。捨てようか…と思ったけれど、洋服のタグを見るとなかなかのお値段のメーカー品だったので貧乏根性が出てしまい、クリーニングに出すことにした。

 でも、ここまでカビた洋服をお店で受付けて貰えるのか?との思いと、このまま持っていくのは申し訳ない…、との思いで少しでもカビを拭き取ろうとマスクをつけ、ビニール手袋をつけた完全防備で、固く絞ったタオルで拭いたり、叩いたりしたけれど全く取れず、そのままお店に持って行くことにした。自分でも触るのをためらう位だから、お店で断られても仕方がないと思いながら、恐る恐る「すみません、酷くカビてしまった喪服なんですが…」と言って受付カウンターに喪服の入った紙袋をのせた。すると、店員の方は何のためらいもなく袋から素手で喪服を取り出し、世間話しでもするように「喪服はしばらく着ないで置いておくと、こうなっちゃうんですよねぇ」と平気な様子だった。その様子に増々恐縮してしまい「こんなにカビている服を出してスミマセン…」と私が言うと「とんでもないっ、これが仕事ですから。」と店員の方が言いきった。私は受けて貰える安堵感と『これが仕事ですから』の言葉の重みに一瞬、ドキッとした。

 世の中には『これが仕事ですからと』という仕事がある。誰も触りたくないものを触り、誰も見たくないもの見て、誰も聞きたくないことを聞く。それは、社会だけではなく家庭でも同じこと。身勝手なもので、どこかの誰かがやってくれればそれでいい、そのようなことに携わってくれる人が居る。それがどれだけ有難いことか…。そんなことを、クリーニング店の店先で思った。


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