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『小売りの未来』後編

こんにちは。STANDの宮原です。

前回は『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』という 本に書かれた、10のリテールタイプのうち、前半の5つについて触れました。 今回は、後半の5つをみていきます。おさらいも兼ね、10通りの小売の形とは以下のものです。


1.「自分を奮い立たせてくれるブランドはどれ?」→「ストーリーテラー」型
2.「自分の価値観と一致するブランドは?」→「活動家」型
3.「新しくてクールなものは、どこにいけば手に入る?」→「流行仕掛人」型
4.「一番充実した体験が味わえるのはどこ?」→「アーティスト」型
5.「自分のことを一番理解してくれるのは誰?」→「透視能力者」型
6.「最高水準のサービスはどこで受けられるの?」「コンシェルジュ」型
7.「一番いい助言がもらえるのはどこ?」→「賢者」型
8.「最高に作り込まれた商品はどこで手に入るの?」→「エンジニア」型
9.「必要な商品はどこで手に入るの?」→「門番」型
 10.「この商品がほしいけれど、もっと買いやすくしてくれるのは誰?」→「背教者」型



ではさっそく後半の「コンシェルジュ型」か みていきましょう。
6.「最高水準のサービスはどこで受けられるの?」「コンシェルジュ」型 このタイプは、小売のかたちの中でも比較的想像がしやすいように思います。というのも、具体的 なブランド名が思い浮かびやすいです。

コンシェルジュ型とは、並外れたサービスの体験を実現します。そのためには、スタッフに対して のそれなりの給与やトレーニングが必要不可欠な要素です。優れた顧客サービスとは、本質的 にふれあいを重視した、きめ細かな応対と認識されます。グッチやルイヴィトン、リッツカールトン といった、伝統的な名だたるブランドがそこに当てはまるのは間違いありません。

たとえば、グッチでは販売員が倉庫に在庫を探しにいくために売り場を離れることがないよう、ス タッフの役割分担が徹底されています。在庫確認などの仕事は「ストアランナー」と呼ばれるス タッフに任され、倉庫から商品を探し出して販売員に渡すことだけに専念します。こういった、徹 底的な役割分担を経て、お客さまに1対1で向き合ってくれるようなお店を、私たちはコンシェル ジュのいる高級ブランドとして捉えています。

しかし伝統的ではなくとも、最近のショップではアップルストアもコンシェルジュ型に当てはまりま す。アップルストアでは、来店時、入口で来店理由を細かくヒアリングし、そのニーズをスタッフ同 士で共有します。そのため、予約を取ってくれたスタッフとは別のスタッフが1対1で対応しても、客 側がまた一から説明せずともスムーズに案内してくれます。お会計も小さな端末でその場で済 み、必要でなければ領収書もメールで送られてくるという、アップルらしい無駄を徹底的に省いた やり方が採用されています。

そしてもう一つ、コンシェルジュ型の例として出てくるのが、なんとコストコです。コストコは倉庫型 店舗で、一見顧客サービスらしいサービスが見当たりません。コストコの収益源には商品の売上 と、会員の更新料の2つがあります。特に会員数は世界全体で少なくとも9700万人もおり、更新 料で売上を立てていると言っても過言ではないのです。

このように会員が毎回更新したくなる満足度を維持するために、店舗内のあらゆる処理が効率 化されています。顧客の流れを妨げるものを排除するため、スタッフが開店中に品出しをしてい ることもなく、価格も全ての商品を明確に表示していて店員に尋ねる必要もありません。また世界 のどこのコストコに行っても同じレイアウト、システムを採用しているため、買いまわりが簡単にで きます。2人体制のレジで混雑もなく、会員証の更新時期が近づいていると、レジで声をかけら れ、買い物と一緒に更新料も支払えるようになっています。こうした、顧客を一切不快にさせない 買い物を実現できるからこそ、会員制が可能なのでしょう。

コンシェルジュ型といっても、当てはまるのは思い浮かぶ伝統的なブランドだけではないことがよ く分かりました。アップルやコストコといった例のように、体系に沿った実践方法や卓越した体験 のデザインが生み出すサービスはコンシェルジュといえます。

7.「一番いい助言がもらえるのはどこ?」→「賢者」型

筆者がここで例に挙げるのが「B&Hフォトビデオ」というカメラの販売店です。ニューヨークシティ 界隈の有名店であるだけでなく、オンラインショップを通じて世界中に顧客を抱えています。店内 に足を踏み入れると、頭上には大きなベルトコンベアが設置され、売り場裏の巨大な注文処理エ リアから表のレジまでお客さまの注文した商品が運ばれてきます。店内には物珍しさに立ち寄っ た観光客から、プロの写真家までが大勢賑わい、写真好きにとっては楽園のような空間だそうです。

当店にとって最も優れた点は、提供できるノウハウにあります。ここでいうノウハウとは、商品知 識ではありません。その辺の家電チェーンと異なり、B&Hでは「販売店で働いてもいい」というプロ の写真家を採用しているのです。ただ販売の仕事が好きな人材や、写真を勉強したい人材は求 めていません。販売員の持つ、プロとして長年の経験で培ったノウハウや情熱、思い入れをもっ て勝負しているといえます。

また、賢者型のショップは単に商品知識が豊富なだけでなく、得意分野での真のノウハウを求め る人の駆け込み寺となっています。商品知識は何らかのコースを受講すれば身に付けられる いっぽうで、ノウハウは実体験なしには身に付けられません。賢者型のブランドが提供してくれる のは、まさに深いレベルのノウハウなのです。アマゾンでカメラを買うことくらいは誰でもできます が、そこでは手に入らないのがB&Hならではのノウハウやアドバイスということです。

個人的にはサーフショップなどはここに近いのかなと感じました。大抵、海からすぐの場所にあ り、その周辺を活動拠点とするプロサーファーが、サーフィンへの愛や経験を持ってお店に立って います。サーフィン初心者でも、サーフィンが趣味な人でも、やはりその道のプロで、愛が強い人 の話を聞きたいと思うはずです。何かに特化しているブランドとは、ノウハウで充分戦っていける のだとわかります。

8.「最高に作り込まれた商品はどこで手に入るの?」→「エンジニア」型

エンジニア型のブランドは、卓越した技術思考とデザイン思考を駆使して顧客の問題を解決しま す。しかも、その問題とは、競合ブランドが気付けないばかりか、多くの場合消費者さえも気付い てないことがあります。そういった問題をあぶり出し、解決に導くのです。

ここであげられるのが、ダイソンです。ダイソンといえば今でこそ掃除機の定番。誰もが一度は持 ちたいと思うスタイリッシュな見た目で、かつ吸引力に優れた掃除機というイメージを持つと思い ます。しかし、あの商品の開発の裏には、5127個もの試作を重ねた末にできあがったというス トーリーがありました。

設計技術者で発明家でもあったジェームズ・ダイソンは、自宅の掃除機が時間の経過と共に吸引 力が低下し、ゴミで目詰まりすることに不満を抱いていました。そこで問題の掃除機を分解してみ たところ、その原因にあるのはゴミが回収されるパックだと気付きます。しかし、当時の掃除機は どれも紙パックや布バック方式を採用しており、それを無くすことなど不可能だと思われていまし た。このとき、ダイソンは当時ちょうど自身が所有する工場に、空気中を舞う塗料の粒子が分離 回収するためのサイクロン方式の設備を設置したところで、これを見て、サイクロン方式なら掃除 機の仕組みを根本から変えられると思い付いたのです。

それに加え、ダイソンは消費者が家電製品に対して高性能であることだけでなく、佇まいの美しさ も求めていたことを見抜きます。当時は家電製品の中でも日の当たらない存在であった掃除機 に、デザイン性を加え、相場より最大3倍も高い値段で売り出しました。実際、消費者は高機能で かつ見た目も美しい製品を手に入れるためであれば、普通よりはるかに高い価格でもいとわな かったのです。

有名どころでいうと、iPhoneも同じことがいえます。誰かの求めに応じた製品ではなかったため、 初めて使ってみるまで、その優れた技術やデザインのメリットに気付けなかったのです。

エンジニア型の小売業者は、その独自の発想を商品だけでなく、売り方にも応用します。ダイソン が街中で展開しているスペースを見たら一目瞭然です。ダイソンではこうしたスペースを「デモス トア」と呼んでいて、ダイソンの製品を実際に試し、そのデザインや性能の違いを体感できるよう になっています。 自社製品の技術力やデザイン性の持つ独特のメリットの啓蒙・誇示・普及に全社を挙げて重点 的に注力するのです。

9.「必要な商品はどこで手に入るの?」→「門番」型

海外のショッピングモールに入り、メガネの新しいフレームを求めて店舗ガイドを見ると、大抵2,3 店舗ほどレンズやフレームを扱う店が見つかります。せっかくなら上手に買い物をしたいと思い、 3店全てを眺めてみると、揃いも揃って品揃えも商品も価格設定も似たり寄ったりなのです。これ は決して偶然ではありません。
世界のメガネ市場規模は1000億ドルと言われ、その大部分をフランスのエシロールとイタリアの ルックスオティカが支配しています。さらに2018年には、アメリカとヨーロッパでこの2社の経営統 合がなされ、合併が成立しました。そしてもっと新しいところでいうと、合併後のエシロールルック スオティカが、業界第2位のグランドビジョンを83億ドルで買収する方向で交渉に入ったのです。 買収が承認されれば、エシロールルックスオティカ帝国の流通網に、最大7000店が新たに加わ る可能性があります。

メガネ業界に、このような巨獣と戦える企業はあるのでしょうか。当社のような門番型のブランド は、規制面や金融面の参入障壁を含め、あの手この手で地位を守り抜こうとします。また、ブラン ドを守り抜くため、政府へのロビー活動はもちろん、手当たり次第の合併・買収やライセンスの買 い占めなどのあらゆる手段に打って出るのです。とてつもない市場シェアからわかるように、門番 型はトップオブマインド(=誰もが最初に思い浮かべる認知度)と流通面でのアクセスのしやすさ という強力な組み合わせに大きく依存します。

天下を取り競合を排除した結果、慢心を生み、顧客サービスが可もなく不可もない状態におちい りやすかったり、次で出てくる「背教者」型ブランドには全くの無防備であることから、あっという間 にひっくり返されてしまうというリスクもあるといいます。

10.「この商品がほしいけれど、もっと買いやすくしてくれるのは誰?」→「背教者」型

2012年、アリゾナ州フェニックスの中古車卸市場のオークションに参加していたアーニー・ガルシ ア3世がひらめいたのがこのタイプです。

彼は、消費者向けの自動車販売の新たなシステムを開発しました。中古車購入者が、写真や車 両状態のレポートを見て購入を決めたら、7日間乗ってみて問題がないかどうか最終的に判断し ます。そしてその過程で、購入の流れが単に便利なだけでなく、ワクワクするようなものにしたら、 自動車購入のあり方が革命的に変わるのではないかと考え、誕生したのがカーバナです。建物 の写真を見たり、その内容を詳しく知ると、考え方が突拍子もないことがわかるので、参考までに 記事を貼っておきます。



背教者型のブランドは、常識を覆すようなイノベーションを見つけ出し、市場に昔からいる既存企 業に挑戦状を叩きつけます。場合によっては産業業界全体を敵に回すことさえあります。しかし、 そのようなイノベーションは、業界の価格や価値のバランス、顧客の体験をがらりと変えてしまう ほどの威力があるのです。エネルギー、リソース、ITを余すことなく投入して、現状打破の戦いに 挑み、商品や体験を軸に差別化を図って、顧客とのあらゆる接点で、独自の効率的な方法や内 容を強化した方法を活かして補完します。

以上、後半5つのリテールタイプもみていきました。それぞれのリテールタイプには必ずしも優劣 の差や持続性の差があるわけではありません。また、どのタイプも本質的には消費者が抱く問い かけに対する答えを提供し、市場でしっかりポジションを築く軸となっています。 大事なのは、企業が目指すリテールタイプを1つに明確に絞り込み、カテゴリー内でそのリテール タイプとしての優位な地位を目指すことです。

いつでもどこでも物が買えてしまう時代において、これからの我々のお店がどの価値を提供した いのか、するべきなのか、どれであれば実践できるのかを見つめ直すきっかけとなりました。『小売の未来』、ぜひ一度読んでみてください。


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