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「北欧、暮らしの道具店」を運営するク ラシコムの「世界観」について

こんにちは。STANDの宮原です。

今回は「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムの「世界観」についての内容をまとめてみました。

北欧、暮らしの道具店は北欧テイストの生活雑貨を扱っています。一見、IKEAをはじめとしたイ ンテリア雑貨のショップと変わりなく思えますが、クラシコムのビジネスモデルがとくに素晴らしい と言われる理由を紐解いていきます。

≪クラシコムという会社が手がけるコンテンツ≫ 「フィットする暮らし、つくろう」というテーマを掲げ、クラシコムは最近では映画もつくっています。 さらにはポッドキャストやSpotify、Apple Musicでも北欧暮らしの道具店のプレイリストがあるほど です。SNS、音楽配信サービス、Youtube、映画などすべて同じ世界観でつながるようにアカウン トを保有しています。生活全部を取り込もうとしていることが分かります。世界観の先にモノがあ り、コンテンツが核にあるのが特徴です。

≪コンテンツ例(Youtubeのドラマ)≫
◆「スーツケース・ジャーニー第1話」 主人公が山の上ホテルに一泊する話。主人公は、ストックホルムに移住した友人の影響で、ス トックホルムの時間が気になるようになります。泊まる場所は違えども、東京のホテルに泊まるの もストックホルムに行くのも、特別な旅に変わりはないんだということを感じさせてくれます。

◆「ひとりごとエプロン」 休日の朝に、パンをトースターでなく、あみで焼くシーンがあります。このあみが実際にサイトで売 られているのです。主人公のような暮らしを、Spotifyのプレイリストを流しながら再現することもで きます。商品を宣伝している感じでなく、「こういうライフスタイルよくないですか?」と物語を通して 問いかけているのが伝わってきます。

2つに共通して言えるのは、Youtubeに上がるショートドラマにしてはクオリティがものすごく高い です。モノを宣伝されている感が出ないよう、しっかり物語における世界観の作り込みを入念にし ているのが分かります。
年間で2000万人がクラシコムのコンテンツに触れており、エンゲージメントアカウント数(何かしら のSNSアカウントをフォローする数)は430万人。累計会員数が42万人で、年間購入者数が18万 人になるそうです。

≪世界観の作り込みが結果として利益を生み出す≫ 紀伊国屋でもジュンク堂でも置いてある本は同じなのに、蔦屋書店だと買っていしまうのは、世界 観が統一されてることで「なんかいいかも」と思うからでしょう。北欧、暮らしの道具店でも同じこと が言えます。
クラシコムの商品は50%がオリジナル商品で、残りの50%は仕入れています。買おうと思った ら、楽天などで簡単に安く買えてしまいますが、それでもこのサイトで買うのはユーザーがそれだ け世界観に引き込まれている証拠です。
自社のサイトで購入してもらうことにより、アマゾンや楽天に取られない分、利益率が高くなりま す。営業利益率は17.2%で、営業利益は8億円。ROE(Return on Equity 自己資本利益率。 ROEが高い企業は、株主から預かったお金で効率よく利益を生み出す優良企業とされる)が38.9%。一般的には8%を目指しましょうと言われているところで、この数字はかなり優秀といえます。

≪創業ストーリーとその後の展開≫ 創業者の青木耕平社長は妹と一緒に北欧のスウェーデンに行ったのがきっかけで、北欧の暮ら しに目を付けました。旅行時にビンテージの北欧食器を買って帰り、うち半分くらいは割れていた ものの、ECサイトを作って残りをアップして売ったそうです。すると1日で半分くらい売れてしまい ました。これは普通じゃないと気付いたところから、北欧雑貨を取り扱うビジネスをスタートします。

ところが、1000万売っても驚くほど利益が出ませんでした。なぜなのかを考えたときに、通信販売 においてお客さんを増やそうとしたら、まずは広告を打つことで新しいお客様と出会うことが必要 です。その後ポイントやクーポン、セールという手段で販促を行い、お客様をつなぎとめて常連顧 客をつくっていきます。顧客層が積みあがることで利益が出るのです。
そもそもインテリアや雑貨は購買頻度が高くない中で、当商品をメインにしてしまったこと自体が 課題であったと気付きます。その時に、だとすれば広告無しでも人を集められる魅力のあるサイ トを作って、導線を張ろうと考えました。
広告費を出す側から、もらう側になればいいと発想を転換したのです。そのためには来る人みん なが楽しめる何かを提供する必要がありました。
そこで、2012年ごろに、商品が売れるためにというよりは、面白くするということを念頭に置き、 ECをメディア化しました。と同時に、これまで広告費にかけていたお金を一気に引き下げ、クリエ イティブ人材への投資にシフトしたことで収益を回復していきました。2013年ですでにエディトリア ルチーム(コンテンツ部隊)をつくっているので驚きです。楽天を撤退したのもちょうどこのころでした。


≪「世界観」コンテンツの可能性≫
当社では元々ショップブログのようなものを書いていて、それが好きで見に来る人が一定数いま した。それはつまり、ある世界観やある美意識を持った人をターゲットにしたメディアだったという ことです。広告収入でマネタイズをしているメディア事業者さんがターゲットを狭めてしまうと、収 益化しにくくなってしまうが、当社はECを生業としているからこそターゲットを絞ることが可能でした。

2018年~2019年にかけてドラマを制作し、今年は映画事業にも投資しているのが現状です。こ こまでコンテンツの制作に振り切れたのは、SNSのトップラインが見え始めていたからだといいま す。SNSのフォロワーを増やすことに重きを置く考え方が、続かないと考えていました。

そこで、仮に1つのSNSが伸びなくなったときにも、お客さんがついてきてくれる方法を探します。
ディズニーのように、IPに対して強烈なファンがついていれば、コンテンツを持っている側のほう がプラットフォームに対して強い交渉力があると気付いたのです。キャラクターと世界観がしっか りあるコンテンツを継続的に配信していくことで、それを通じてお客様が自分たちを知ってくれた り、エンゲージメント率が高まります。仮想世界をストーリからコンテンツでしっかり作っていくこと に力を入れ始めました。

今後はコンテンツの有料化もあり得るそうです。ただし、コンテンツに対してダイレクト課金をして もらうよりも、モノを通じてお金を払ってもらったほうが収益性が高くことも同時に分かっていま す。映画を課金して複数回みることはないが、商品であればあらゆるニーズを捉えれば、ある程 度売上は立つからです。
当社は、物販をペイウォール(ウェブマガジンやニュースアプリ、動画サイトなどのデジタルメディ ア上でコンテンツを有料化する境界線)のコンテンツとして捉えています。つまりはコンテンツを楽 しんだ先に、モノを買うという導線があるということです。フィジカルなモノを使ったコンテンツは基 本的にはペイウォールの向こう側にあります。

無料でみれるコンテンツを楽しんでくれる方がいるからこそ収益につながるというブランドソリュー ションの事業も現に存在していることから、コンテンツからダイレクトにお金をもらうことが一番効 率のいいマネタイズ方法なのかという答えは模索しているところです。

≪オウンドメディアと一般的なメディア≫
今、インターネットや一般的な雑誌でオウンドメディアの存在感が目立っていますが、それはつま り出版におけるこれまでのビジネスモデルが、十分に機能しなくなってきている証拠です。企業の 広報部門がつくるもののほうが予算が潤沢でかつ冒険的なことができるという利点があります。 そういった点で、オウンドメディアが注目を浴びるターンが来ているのではないかと考えます。

なかでも、パッケージとしてのメディアの役割は薄くなっていくでしょう。例えば『Cancam』、『Ray』 という雑誌の単位です。これまではアーカイブ性が低くてすべてのコンテンツがフローだったた め、みんなに認識されるのが箱だけだったという背景があります。
しかし今、すべてのコンテンツがアーカイブできる時代になったことで、あるレーベルがどのような コンテンツをつくり続けているのかという、コンテンツの連続性や一貫性、トンマナや世界観、価値 観の一貫性というほうが重要になりました。あるレーベルから出されたコンテンツが、どんなコン テクストでつくられているのかが選ばれています。 メディアというよりはレーベルという観点に収れんしていくのではないかということです。

≪世界観とは何なのか≫
世界観をスタイルだと捉えていたら、浮き沈みがあるのは当たり前です。いっぽうで青木社長は 世界観を「モノの見方」つまり「世界をどう意味付けて見るか」として捉えています。
世界観というのは文化。モノ一つひとつにどういう意味付けをして、何を美しいとするかという価 値観の総体です。自分たちのブランドをライフカルチャーブランド、サービスをライフカルチャープ ラットフォームと説明しているといいます。始めたころから、スタイル自体はずっと変わり続けてい るものの、根底にある「フィットした暮らし、つくろう。」をベースにした自分たちの暮らしをつくって いく、作り方に対する価値観や美意識、意義は活動の中心にあって変わりません。
「同じ価値観のこのスタイルは飽きた」というのはあっても、価値観に飽きることはないというのが 主張です。根幹にあるカルチャーの軸をぶらさず、スタイルやパッケージは多様に変化していま す。

≪まとめ≫
 ◆メディアが物販に挑戦するのではなく、モノ企業がメディアに挑戦する逆転の発想で好調。
◆コンテンツは基本無料にしておいて、そのあとモノを買うところがゴール。物販とコンテンツ、武 器が2つあるのは大きな強み。
◆北欧=価値なので飽きられないという主張はあるものの、ユーザー浸透度の点ではまだ不透明。

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