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note版 サザエさん「磯野家」をマンションに建て替えてみた!?

私は普段一級建築士として、建築設計の業務の傍ら、建築の設計の世界、面白さを多くの人に「楽しく」伝えたいをモットーとした動画をyoutubeチャンネル「おっちー一級建築士事務所」にて投稿しております。

実際の有名建築に訪問した動画であったり、建築にまつわる事件やニュース、はたまたちょっとした豆知識まで、建築の設計の人間の立場から解説する動画チャンネルを目標として細々と運営をしておりますが、最近とある動画を投稿しました。

それは国民的アニメ「サザエさん」の舞台である磯野家を「完全に取り壊し」て、「マンションに建て替えたらどうなる?」を実際に設計、検証してみたという動画です。

この動画は磯野家が実在した場合、その土地にマンションを建て替える時、どれくらいの規模の建物が設計できるのか?その際の事業収支はどれくらいが見込めるのか?を建築士としてガチで検証してみるという趣旨で生まれました。

建て替えよう!


この動画はネットニュースにも取り上げられるなど、
ちょっとだけ話題にもなりました。

どんな検証しているのか?そして実際どんな建物が設計できるのか?気になる方は

動画のリンクをクリックして見てください!(宣伝)

と言いたいところですが、今回はnoteで気軽に読めるように動画の内容をダイジェストにしてお送ります。ぜひ読んで頂けたらと思いますし、興味を持たれましたらお時間ある時にでも構いません。動画も覗いてもらえると嬉しいです。

・企画の趣旨

簡単にこの企画の概要を説明します。
アニメ「サザエさん」に登場するサザエたち磯野家が暮らす家、いわゆる昔ながらの平屋の戸建てであり結構広いです。
(動画でも触れてますが、建物敷地としては約70坪、舞台が東京都心であることを考えると戸建てが3〜4軒建つ広さです。)

磯野家は広い!

この「磯野家」ですが、実際の間取りをアニメ、漫画の描写から再現、専門家が解説するものは書籍などで多く見られます。


しかし、私は建築の設計をする人間です。
設計する人間としては「新しく」建てることを考えた方が面白いそれにやってる人もあまり見ませんでした。


というわけで、新しく建て替える企画を動画にしてみたというわけです。

ブッ建てる

また現実に「磯野家」が存在し建て替えを考える時、当然何かしらメリットが無いといけません。
よって、マンションに建て替えたとしても家賃の収益が望める。事業性のあるプランを設計しました。

中島くん


そして最終的には設計した建物を「大概算」で工事費を出し、返済計画、支払われる税金をざっくり想定して、年間の手残り、そして利回りを出してみました。

ここまでいくと、設計というより、不動産開発の話になってしまいますが、
私が普段不動産開発に近い立場で仕事をしていること。
「そして建築の設計もある程度はお金の話ができないと駄目だろう」
ということで今回ここまで踏み込んだ次第です。
(と言ってもそこまで専門では無いのでそこは多めに見てください)

・計画の概要を整理

次に今回の設計をするにあたり、以下の条件を設定しました。

計画地はサザエさんの聖地である東京都世田谷区桜新町としました。

桜新町は原作者でもある長谷川町子先生が生前暮らしており、モデルとなった家が存在していたとも言われる場所です。また長谷川町子先生が生前収集していた絵画や美術品を展示している「長谷川町子美術館」や「長谷川町子記念館」そして、この一体の通りは「サザエさん通り」と呼ばれ、サザエさんの聖地となっています。
今回はこの「サザエさん通り」に面した一角を計画地としました。

サザエさん通り

地図

※尚サザエさんの聖地としては別に福岡県早良区が原作者が当時暮らしており、その時に「サザエさん」の連載が始まったという事で、ここもサザエさん通りがあるのですが、今回は候補にはしませんでした。

この桜新町のサザエさん通りの都市計画情報を調べると以下のようになります。

都市計画情報

後ほどプランの説明でも紹介しますが、
高度斜線、そして日影規制が条件的に厳しく、折角土地が広くてもあまり建物を広く建てることができない計画地です。
しかし、法令を掻い潜り、理想の設計をするのが私たち設計屋の役割です。
この条件のもとでプランを設計していきたいと思います。

設計する建物としては以下のような内容としています。

・基本的に賃貸(一般的な賃貸仕様)のマンションを計画する。
・オーナー邸、つまり「磯野家」を計画する。オーナー邸の規模は親夫婦(波平、フネ)、カツオの家族(カツオ、花沢さん?)、他家族は追い出すw
・事業性を重視し、可能な限り賃貸住戸を確保する計画とする。

設計方針(事業性)

私はこれまで主に土地の有効活用、または土地を仕入れて分譲、販売するマンションの設計を主にやっていたので、この部分は設計の中でも特に専門分野です。
いかに事業性を高め、かつ他には真似できない設計をする。
そこが今回の設計のポイントです。

・実際に設計してみよう!!

それでは実際にプランの作成をしていきましょう。
まずは計画敷地を再現します。

書籍やサイトなどあらゆるところで解説されている「磯野家」の間取り、から磯野家の平面を割り出し、敷地の庭、玄関などを考慮して敷地を再現しました。
実際敷地を起こしてみると、広さにして約70坪、平屋の戸建てで大家族で住んでいただけあってかなり広いです。

敷地起こし

そして、これは後ほども説明しますが、計画地は世田谷区の桜新町、
東京都23区内で屈指の高級住宅地です。家賃の相場も高いです。なので賃貸戸数を計画できればするほどかなり事業性はよくなります。
その部分を配慮してプランを作りました。

そして設計したプランがこちら!!

全体プラン

とりあえず平面と簡単な外観パースまで作りました。外観のデザインまでは作りこんでません。

建物概要はこちら

建物概要

構造は壁式コンクリート造にしています。東西方向に長い敷地を利用して、東西方向に住戸を設ける設計にしました。
そして北から南に向かって階段上、そして一部を斜めにカットした独特な形状にしています。

・設計プランの解説

建物の詳細を解説していきます。



まずこの独特の形状ですが、建築物の高さに関する規制、
特に日影規制を考慮してこの形状になりました。

日影規制説明

日影規制の内容に関してはここでは省略します。
詳しく知りたい方は
是非とも元の動画を見て勉強してください!
(動画の時間で08:00頃から解説してます。)

この規制を考慮した結果、階段上の形状、そして影が生じにくくなるように、外壁を一部斜めにカットしたデザインにしています。

プラン日影図

次に各階について簡単に説明します。

今回は地上4階地下1階になっています。


地下を計画した理由ですが、

・先程説明した日影規制によって階数が大きい、高さの高い建物が計画できない。
・高度斜線、日影規制に適合させるため、北側の境界から建物を離して計画したため。その空地がドライエリアとしてそのまま「窓先空地」や「避難経路」として有効利用できる。
・地下も計画するとコストはかかるが、家賃も高く取れる。

と言うのが主な理由です。

地下階説明

もちろん地下を設けると大雨による冠水のリスクも懸念されます。
なので、
地下階の一部には雨水の貯留槽を設け、ドライエリア内の冠水を防ぐ計画としてます。
(見にくいですが、地下1階の図面の黒い部分は止水のための二重壁です。)

1Fプラン

1階はエントランス、そして住戸を設けてます。実際戸数が大して多く無いので、エントランスは狭い風除室兼メールコーナーを備えた程度にしております。

2Fプラン

2Fプラン2

2階(基準階)は25平米程度のワンルーム、もしくは1Kを5戸計画してます。これは、エリア的に単身向けの需要は見込めて家賃も取れる。そして、戸数を重視したいからです。

となると、「別に25平米にしなくても4畳半くらいの狭い部屋にすればもっと戸数が取れるのでは?」と言う疑問を持つかもしれません。

しかし、世田谷区の今回地域(用途地域が近隣商業地域)の場合、40平米未満の住戸が15戸を超えると世田谷区の集合住宅条例に従わないといけなくなります。

そしてその条例の中には、最低住戸面積が25平米以上と言う規則があります。

今回賃貸の住戸は14戸計画しています。もし平均を20平米程度になるように計画した場合、戸数自体は増やせますが、条例に適合させる必要が出てきます。
そうなると、今度は条例の規則に違反して計画できなくなります。

条例遵守

条例を考慮して、一番効率よく計画できる(と考えた)のがこのプランなのですね。

3階部分

3階は賃貸住戸が3戸、そしてオーナー邸(磯野家)の玄関と水回り、そして書斎に使えるスペースを設けてます。
これを見ればわかりますが、オーナー邸は3階、4階のメゾネットとしています。
一応3階までは上がれるホームエレベータを設けていますので、まあ頑張ればいけるでしょう。
(多分、波平、フネが年齢的にキツくなったら施設に入れると思いますw)

4階部分

4階は全てオーナー邸(磯野家)になっております。
東西に長い平面なので少し廊下が長くなりますが、センターにLDKを配置して、一部の部屋をリビングインにしました。
特にLDKは約23帖とゆったりと計画しています。またこれはあくまで基本計画なので細かいインテリア、調整などはいくらでもやれると思います。


・事業収支を(とりあえず)検討してみた!!

今回の動画ですが、設計だけで終わりにしません。

超ざっくりですが、施工坪単価から事業費を割り出し、また家賃相場から年間の家賃収入、そして年間の返済と税金を概算して、手残り利回りも計算してみました。

まず家賃ですが、SUUMOやHOMESなどで調べると、この近辺で同程度の規模の家賃相場は9〜10万でした。

これに加え、ざっくり工事費を計算、また35年ローンで返済プランをざっくり計算、税金も差し引いて手残りを計算しました。その結果は、、、?

手残り

※詳しくは動画を見てください!!(宣伝2回目)

大体動画の18:10くらいから解説してます。

また表面利回りもざっと計算しました。
表面利回りは約6%弱

表面利回り

ちなみに動画では少ししか触れてませんが、
オーナー邸を作らずに仮に全部賃貸とした場合の利回りを簡単に検討する、
この場合、条例に適合させ同じような25平米程度の居室が17戸供給が可能になります。
その時の利回りは7.08%になりました。
これなら事業として耐えれるかもしれません。

・最後にコメント返信!!

今回の動画はyoutubeとニコニコ動画という2つの動画サイトに投稿していますが、ニコニコ動画の方はプラットフォームの性質上、多くのコメントが寄せられました。

特に細かい質問、ツッコミ、もといありがたいご指摘が多数ありました。

と言ってもなかなか、コメントや質問に回答できる機会はありません

そこで、この場を借りて気になったコメントの返信をいくつかしていきたいと思います。ではどうぞ

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・後記

いかがでしたでしょうか?私は普段から、建築の、特に自分の仕事でもある「建築を設計する」世界をいかに多くの人に知ってもらう。魅力を感じてもらう。ということを考え、建築に興味がない人でも楽しんでもらうような動画やコンテンツを作ることをしております。今回の動画もその目的のもとで作成しました。
ぜひ、このnoteおよび動画をきっかけに、もし近所の家が解体され、新しくマンションが建つ、というようなことが起きた時に。その背景にある設計や、はたまた不動産開発に関わる人たちが色々なことを考え、そして多くの人によって作られるということが少しでも思い出せれば本懐です。
今後も楽しめるコンテンツづくりを目指していきますので、
ぜひyoutubeチャンネル登録などお願いします!↓


動画も含め、建築を「伝える」「教える」コンテンツ、場を作る事を目標としております。よろしくお願いします。