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島を自転車で旅する奴が嫌いだが島を自転車で旅してきた。

私には嫌いな旅行の移動手段が2つある。自転車とフェリーだ。

大学生が若気の至りに行う1人旅ならまだいい。社会人になってそんな旅行プランを立てる奴は一緒に旅行へ行く恋人も友達も家族もいない。金はないけどヒマとムダな体力だけは持て余している。そんな輩ばかりだからだ。

恋人と電車の車窓から流れる景色を楽しむとか、育ててくれた両親に感謝の気持ちを伝えるとか、そういった情緒がまるでない。仕切りのない二等船室で雑魚寝したり、ファミリーカーの後部座席に座っている子供に自転車を必死に漕いでいるところをジロジロ見られることの何が楽しいのか。全くもって理解に苦しむ。





私はこれから自転車をフェリーに積んで種子島に行きます。


なぜ種子島なのか?

なぜ私が嫌いな旅行手段を駆使して離島に行くことになったのか。順を追って説明させてほしい。

そもそも私が住む鹿児島県には有人の離島が26箇所ある。これは47都道府県で最も多く、種子島は鹿児島で3番目に大きい離島だ。

本土最南端佐多岬から南東40kmに浮かぶこの島は宇宙センターで知っている人も多いだろう。鉄砲伝来という人もいるかもしれない。あとは秒速5センチメートルやロボティクスノーツの聖地になっていたり、南国らしいマングローブ林など自然にも恵まれている。

県内のいいスーパーに売っている種子島牛乳

安納芋を始めとした農作物、インギー鶏や乳牛といった畜産、アサヒガニやトコブシなどの海産物も豊富だ。島内市町村のカロリーベース食料自給率は全て100%を超え、800%に達する町も存在する。

つまりは見どころたっぷりの島なのだ。こんなステキな島に行ってみたいと思うのは人間として自然なことだ。

ここまでは大丈夫ですか?

なぜ自転車とフェリーなのか?

鹿児島本土から種子島に行く方法は3つある。速い順に飛行機、高速船、フェリーだ。その中で分解していない自転車を持ちこめる交通手段はフェリーだけだ。前述の嫌いな移動手段は島旅行において切り離せないセットなのだ。

カローサム号(ひるのすがた)

ではなぜ自転車で行くのか。これは私が最近サイクリングにハマったからだ。クロスバイクによる自転車通勤を始めてから休日はちょこちょこロングライドに出かけるようになった。年明けには「そろそろもう少し長めのロングライドにチャレンジしたいな。そういえば種子島は一周150キロくらいと聞いたな」と思い立った。そこからすぐ宿とフェリーを手配した。

ふと鏡をみるとそこには自分が嫌いなフェリーで島に行き自転車で旅行する奴の姿があった。あれはびっくりした。ミイラ取りがミイラになっていた。スタンド攻撃かと思った。

1日目18:00 鹿児島港出発

大量のコンテナ

今回乗るのはフェリーはいびすかす。市内の中心からでる高速船と異なり46tもの貨物の積載が可能な船だ。当然乗客も物流関係のドライバーが多く12kgのチンケな自転車に乗っているのは私1人だった。ここまで鹿児島市内の自宅から既に10km漕いでいる。

ちなみに高速船だと1時間半程度で到着するがこの船の乗船時間は3時間40分。飛行機なら東京からグアムに行ける時間だ。種子島が近いのか遠いのか分からなくなってくる。誰もいない二等船室を独占しながら到着の時に備えた。46tの船は頼りなく揺れながら暗い海を進んでいった。

予想外の揺れに酔う。

21:40 種子島 西之表にしのおもて

フェリーが着いたのは島の北西にある島の玄関口、西之表港。このフェリーは種子島で停泊してから明朝7時に屋久島へ向かう。その間屋久島行きの乗客は下船が認められない。客室を出る時隅で微動だにしない人がいたがおそらく屋久島行きの乗客だろう。もう読み終わったジャンプが無造作に転がっている。まだフェリーで過ごす時間は9時間は残っているが大丈夫だろうか。

とはいえ私も他人の心配をしている場合ではない。明日のサイクリングに向けて早く宿で身体を休めねば。

ここから26km先の宿へむかいます。

種子島には市が一つ、町が二つある。今いる西之表市、宇宙センターのある南種子町みなみたねちょう、そして農業が盛んで自然豊かな中種子町なかたねちょうだ。宿は西之表市ではなく中種子町にある。

種子島の地図

先程の牛乳に書いてある種子島の地図で見てみると、中種子町は飛行機が離着陸している種子島空港から南にちょっと行ったところにある。現在地の西之表港は釣り人がいるあたりだ。

スクショ1回で終わる道案内

目印も見えず道に迷わないか心配だったがナビによれば国道58号線を24km道なりに行けば着くらしい。大変わかりやすい。

港を出るとあっという間に真っ暗になった。東京から鹿児島市内に越した時は町の暗さに驚いたがここはさらにもう2段階ほど暗い。先程から聞こえる波の音に加えてざわざわと森の音も聞こえてきた。

ワープ装置使った?

途中いくつか名所の看板が見えたがどこも「昼間に来い」と言わんばかりの暗さで迎えてくれた。

種子島観光協会HPより引用 https://tanekan.jp/enjoycycling/

地図によると今走っているのは北部サンセットコースと呼ばれ、美しい海岸と夕日が見どころらしい。当然夜に自転車を走らせる人はいなかった。真っ暗な夜道を1時間半ほど進むと町あかりが見えてきた。中種子町に到着だ。

23:00 チャレンジベース YOKANA

宿に着くと運営者のゆのめともふみさんが待っていてくれた。ゆのめさんはオモコロ杯で知り合い、年も近いためちょこちょこオンラインで交流していた。地域おこし協力隊として中種子町に移住し、「チャレンジベースYOKANA」をオープンしている。彼のもとを訪れることが今回の旅行における大きな目的だった。

ロビーでは宿泊者と地元の方が談笑していた。自転車で来て汗だくの私に驚きながらも歓迎してくれた。かなり盛り上がっておりこの輪に入ると長くなりそうだ。あいにく明日はサイクリングだ。今夜の睡眠時間が明日のパフォーマンスに直結する。ここは相手を立てつつ強い意志でNOと言おう…。

2日目 7:30 中種子町

翌朝、ゲストハウスを予定より30分ほど遅れてスタートした。結局楽しい誘いを断れるはずもなく、島の焼酎を飲んだり、人狼ゲームをしたり、ウイスキーを飲んだり、島のおすすめスポットを聞いたりした。夜中の2時をまわるのはあっという間だった。

午前中は島の北側を反時計回りに進んだ。海岸線を右手に見ながらひたすら進んだ。途中無人販売の柑橘で栄養を補給したり、最北の砂浜を眺めたり、基地の建設が進む馬毛島を見ながら90km程漕いだ。この辺りの様子は他の旅ブログとそんなに変わらないので割愛する。代わりに写真の雰囲気を楽しんでほしい。

種子島の河童は海棲らしい。
道路の柵に大量の大根が吊るされていた。
南国らしくて良い。
スタンドみたいな未知の柑橘

13:15 中種子町

ゲストハウスに戻ってきたのは午後1時すぎ。あと4〜5時間で日没と考えると南側を全て見て回るのは厳しそうだ。行きたい場所を絞らなくては。

昼ごはんに立ち寄ったハンバーガーショップは提供までに1時間近くかかるタイプのお店だった。「島に来たんだからゆっくりしていけよ」と言われているような気がした。

ひとり旅の良い所はプランを自由に変更できる所だ。ぎちぎちに予定を詰めてもいいし、スカスカにしてもいい。自転車を漕いでいる予定だったがハンバーガーを食べてのんびりしたっていいのだ。1人でズル休みをしているような背徳感を感じながらハンバーガーを2つ食べ、Dr.pepperを2本飲んだ。満腹の身体はアドレナリンの分泌をすっかりやめ、インスリンの分泌に忙しくしていた。

南種子町の名所、千座の岩屋

結局昼食を終えたのは午後3時前。南種子町に向かい衛星の発射台を一望できる公園と焼酎蔵、ジェラート屋さんを巡って帰った。

途中自転車がパンクしたが地元の自転車屋さんに助けてもらった。島の北端でパンクしていたらと思うと恐ろしかった。1日で約120km漕ぐことができた。この時点で午後6時。このあとやることは決まっている。

18:15 中種子町の居酒屋

シャワーを浴びると、ゆのめさんが居酒屋に連れて行ってくれた。肉に地魚、野菜に地酒、全てが疲れた体に染みる。塩茹でしたての磯物と島焼酎の水割りを往復するマシンになった。

ゲストハウスに戻ると二次会が始まった。白ワインとウイスキーをゆっくり飲みながら種子島の夜はふけていった。


3日目 8:20

すっかりサイクリングは終わったような気になっていたがまだまだ帰り道が残っていた。飲み会の翌朝、西之表までのみちのりをのんびり引き返していた。パンク修理された自転車もバッチリだ。本土に戻ったら修理キットを買おう。

10:00 西之表港

コンテナ置き場の中にフェリー乗り場がある。

出発の1時間前にはフェリー乗り場に着いた。到着した時は夜中で気づかなかったがコンテナだらけのところに小さな待合室があった。

フェリーに乗り込むと行きと全く同じ船室で全く同じポジションで眠った。疲れのおかげで船室の揺れは一切気にならなかった。瞬時に鹿児島市の港に到着していた。帰りにパンク修理キットを買って家まで帰った。

おわりに

今回の旅行で自転車とフェリーの旅行も楽しいと思えるようになった。自宅に戻ると次はどこの島に行こうか考える自分に気づいた。この世から一つ嫌いなものがなくなった。

今私が苦手に思っている行為も将来ハマる趣味なのかもしれない。むしろ今は嫌だと思っているものの方がギャップを感じて好きになるのかもしれない。

もし私が将来車に水曜どうでしょうのステッカーを貼ってキャンプに行ったり、蕎麦打ちを始めたり、スパイスからカレーを作り始めたり、なんかジャズを始めたり、吉田類のできそこないみたいな酒場探訪を始めたり、土曜にBSでやってるような趣味を始めても笑わないでほしい。

もうジャズピアノは始めている。BS番組みたいなおじさんの道をまっすぐに進み始めている。

おわり

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