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月の使者#ゴーショー⑨完『ウーリーと黒い獣たち』

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月の使者#ゴーショー⑧『ウーリーと黒い獣たち』


-あらすじ-

無事にアクーン王と対面。その後、アクーン王に気に入れられ、お気に入りの飲み場「スナック 王宮のオアシス」に招き入れられる。




アクーン王の
秘密


アクーン王
「ゴーショーさん、ようけ呑んでますか?」

これで何杯目だろうか。気づけば、記憶になく、際限なく飲んでいるような感覚に陥る。アクーン王からの受け答えにも、うろ覚えである。ただ、無意識になのか王へ失礼のないように最低限の言葉やマナーで対応はできているようだ。シュミクトは…、シュミクトはもう酔いつぶれている。隣で聞こえない程度に口を動かして、テーブルに突っぱねている。

アクーン王
「ゴーショーさん、なかなかの飲みっぷりやで♬
 おいちゃんも嬉しいわ~」

このままでは、わたしも記憶を失いシュミクトと同類になってしまう。黙っていれば飲まされるのだから、何か会話のキッカケはないのかとカウンターの周辺を確認した。すると、大量のお酒が飾ってある棚の中にひとつの写真が飾られていた。

どうやら、ふたりの子供が写っている。子供の身長からするに、生後まもない頃の写真っぽい。ハッキリと男児か女児かは判断できないほどに幼かった。わたしは気になり、写真について話を広げてみた。

ゴーショー
「あの…、あの写真は、誰のお子さんですか?」

わたしが写真を指差すと同時に、ママさんが気づき教えてくれる。

ママさん
「これ?この写真はね、アクーン王の小さい頃の写真なんですよ」

アクーン王
「・・・」

ゴーショー
「ということは、アクーン王が幼児の頃の写真ですか。かわいいですね~」

たしかに、二人の赤ん坊の奥に”お母さん”らしき人が写っている。顔は写り込んでいないが、首元のネックレスから察するに位の高い方だという点は認識できる。

ママさん
「そうそう、かわいいですよね。奥に写っているのはエミーカ様です」

ゴーショー
「エミーカさま?」

ママさん
「アクーン王の母君ですよ」

ゴーショー
「へぇ、キレイなお方ですね。
 それに、アクーン王の隣に写っている赤ん坊は?」

ママさん
「それは…」

ママさんの言葉が詰まる瞬間から、2~3秒ほどの沈黙が続く。あきらかに説明するべきか否かの判断に迷っているのは手に取るように分かる。わたしも聞いてはいけない質問だと伝わってきたので、お茶を濁すように別の話題に切り替えようとした。

ゴーショー
「…、そうしたら、このときのアクーン王はおいくつだったんでしょうか」

ママさん
「3歳になったばかりのときですよ。
 お祝いのために、この写真は撮られたんですよ」

ゴーショー
「へぇ~」

わたしとママさんが談話している時、ここまで沈黙を貫いていたアクーン王が口を開く。手に持つルービをテーブルに置いて、一言。

アクーン王
「そいつは、生き別れの弟や」

ゴーショー
「えっ!?」

アクーン王
「だから、わいの隣に写っている赤ん坊は、生き別れの弟なんや」

ママさん
「・・・」


ここは言及すべきなのか。雰囲気は一変し、必要以上に話を進めてはいけないように察した。このさきは、アクーン王が語ることだけを聞くことに徹しようと思えたのだ。

アクーン王
「じつは、わいには弟がおるんや。ちょうど、3つ下の弟やな。
 ただ、さっきも言ったように生き別れたんや。
 詳しい内容はお母ちゃんから教えてはもらえない。
 なんせ、わいも物心つくまでは弟がおることを忘れてたんやから」

ゴーショー
「生き別れですか…」

アクーン王
「そんで、その写真は、お母ちゃんのタンスから見つけたんや。
 すぐにお母ちゃんを問い詰めたんや。
 隣に写っている男の子は、誰なんやってね。
 そしたら、お母ちゃんは”弟よ”と教えてくれたんや。
 あとは、それっきり。それ以上の情報は出てこんわな」


しんみりとした空間が支配する。アクーン王は、一口だけグビッとグラスをかたむける。続けて…

アクーン王
「わいに弟がおるんは内緒やで。ゴーショーさんとわいとの約束やで」

ゴーショー
「…はい」

わたしは、ここまでの秘密を聞かされてはルボン王女との関係について問い詰めれなかった。いや、もう十分に収穫はあったのかもしれない。アクーン王には生き別れの弟がいること。それだけ分かれば。


アクーン王
「まぁ、しんみりした話はここまでや。
 なぁなぁ、ゴーショーさん。おもしろい話があるんや。
 うちのせがれの奥さんなんやけど…」
 


ここからさきの話は、わたしも記憶にない。ただただ、アクーン王がおもしろおかしく話を進めている印象だけは、脳内の片隅に残っている。おそらく、重要な話があったかもしれないが。諜報員として失格だろう。まだまだ、わたしも青二才なのだ。









恵みの雨



翌日。



記憶はさながらに、窓の外の太陽はすでに昇り切っていた。あの高さはゆうに昼時ひるどきを過ぎている。わたしはベッドに横になっていた。隣にはシュミクトが横になって寝ている。どうやら、アクーン王に酔いつぶされたらしい。

わたしはシュミクトをゆらす。

ゴーショー
「シュミクト!もう、朝だぞ!
 いや、もう昼を超えてるぞ!起きろ!!」

シュミクトの反応はない。わたしはあきらめずに、何度もシュミクトをゆらす。そのうち、寝言が聞こえてくる。

シュミクト
「・・・ルボン様~♬
 それ以上、インヨー統合したら、いかんっすよ~♬」

!?


なんで、シュミクトが王女ルボン様の状況について喋るんだ。寝言とはいえ、的確な文言まで知っている。インヨー統合!?おいおい!!

わたしは、シュミクトを叩き起こして、ルボン様との関係性について問い詰めようと決めた、そのとき。




ザーーーーーーーーーーッ!!




!?!?




窓の外から雨の音が聞こえてくる。普通であれば、何ら変わらない風景かもしれないが、ターリキィ王国となれば意味合いは全く違ってくる。今まで干ばつで苦しめられたターリキィ王国にとっては、恵みの雨だったからだ。

ゴーショー
「えっ!
 あのターリキィ王国で雨が降ってきただと!!」

さきほどまで窓の外の景色は明るかったにもかかわらず、一瞬にしてどんより曇り空で降り注ぐ大量の雨。窓の外からは歓声が聞こえてくる。


雨だーーーーっ!!

やっと、雨が降ってきたーーーっ!!

これでターリキィ王国も安泰だーーっ!!


待ちに待った念願の雨。窓の外から見る景色は、多くのターリキィ国民が歓喜のおたけびをあげて喜ぶ姿であふれていた。城内からも喜びの声がそこら中から聞こえてくる。城内の活気は冷めやらぬまま、つぎはマイク放送が聞こえてくる。


『カ~ゼにとまどう~、弱気なぼ~く♬』

『とおりすがる~、あの日のカ~ゲ♬』



「これって…」

わたしは歌の出だしを聞いて、すぐにわかった。あの有名バンド、アカンオールスターズの”TONAMI”だ。
「こんなタイミングで誰が歌うねん!!」と声に向かってツッコミを入れたら、よく歌を聞けば、あの人の声だ。そう、アクーン王である。


もう…

シュミクトはルボン王女を知ってるわ、雨は降ってくるわ、アクーン王は歌い出すわ…っで、展開が追い付かない。いや、思考が空回りする。


『ほんじゃ、2曲目もいくよーーーっ!!』


アクーン王の元気な声が城内に、マイクをとおして響き渡る。この人の声、ホントよく耳に届く。そうこうしていたら、隣で寝ていたシュミクトは起きて、2曲目を一緒に歌い出す。


四六時中も、スキと言って~♬

夢の中へ~連れって行って~♬


「いや、歌わんでええよ!!」とシュミクトにツッコむわたし。シュミクトはそれでも歌うのをやめない。よほど嬉しかったのか、手元にはラーテキを持っている。

シュミクト
「よっしゃ~!宴やーーっ!!」


いやいやっ!!
まだ、起きたばっかやん!!


わたしは必死にシュミクトを止めるが、本人はわたしを振り払い、ラーテキのボトルをラッパ飲みした。


ふっーーー!
さいこーーーッ!!


シュミクト
「おいっ!ゴーショー!!
 お前も飲めよ!!」

ゴーショー
「いややっ!!起きたばっかで、そんな度の強い酒が飲めるか!!」

シュミクト
「ええやん!こんなにめでたい日なんやで!
 いま、飲まずしていつ飲むんや!!ほらほらっ!!」

シュミクトの暴挙を必死に抵抗するわたし。あまりの有り得ない状況に、わたしは知らぬ間に、ターリキィ語をマスターしたようだ。

ただ、酔っぱらったシュミクトは強かった。わたしの手を振りほどき、見事に唇にボトルを押し当ててきたのだ。「これは抵抗できまい…」と流れに身を任せて、喉元をすぎるラーテキの液体。いや、上手いか不味いかでいえば、嫌いではない。しかし、いくらめでたいとはいえ、こんな日の高いときに飲むもんでもない。ツライ…


そんなこんなで、シュミクトと酒を飲み合っていたら、またもやマイクで放送が聞こえてくる。



『ターリキィ王国の皆さま〜
 今からウーリーの庭でバーベキュー大会やるで!
 早よ来んとたべるもん無くなるでー』


城の外から、とてつもない大きな声で聞こえてくる。


なになに!?
バーベキュー大会??
それも、勇者ウーリーの庭で!!


ここまで急展開がすぎると、わたしの驚きも半減していた。ターリキィ王国では何が起きても不思議ではない。なにより、いま恵みの雨によってターリキィ王国中が浮かれているのだ。喜ばしい反面、わたしにはメンドクサイこのうえない。すでに隣にいるシュミクトはベロンベロンでもあるし…

バーベキュー大会があることを知ったシュミクトは、続けてわたしにこう言った。

シュミクト
「…しゃーーーっ!
 バーベキューじゃぁぁぁぁーーーっ!!
 ゴーショーーーッ!!行くぞっ!!」


うん!
なんか、そういう流れだよね。


わたしは抵抗しても意味がないと悟った。これはそういうものなのだ。すでにラーテキによって脳はぐらんぐらんゆれている。視界も怪しい。幸いにも歩いて向かう程度には身体は操れるようだ。

ゴーショー
「…行きましょう…」

しぶしぶ答える。








ウーリー家の
バーベキュー


ウーリー家の場所は知っている。わたしの住んでいる長屋の隣だ。バーベキュー会場は、べしゃり屋ボーチャの住む裏庭だろうと、おおかた予想していた。シュミクトは”歩いて行く”といって話を聞かない。「やれやれ」とわたしはあきらめて、シュミクトに肩を貸しながら目的地へ向かう。

途中の道は、まだ雨がやんでいないせいか濡れて滑りやすい。酔っ払いの歩行には細心の注意が必要だ。とはいえ、ウーリーの家まではそうは遠くないはず。30分もあれば、酔っ払いの足でもたどり着けるだろう。そういえば、アクーン王のカラオケもいつの間にか聞こえなくなっていた。どうやら、アクーン王はウーリー家に向かったらしいと、辺りの衛兵が噂していた。


ウーリー家に近づくにつれ、ガヤガヤと音が大きくなっていく。「これはお祭りでもやっているのか」と思えるほどに、にぎやかだ。気づけば周囲は薄暗く、雨上がりの匂いは肉の焼ける匂いに変わっていた。

さぁ、目の前はウーリー家だ。

見たことある人から、見たことない人まで、家の周りはごった返している。完全なる人の渋滞だ。さっきまでわたしの肩に捕まり、こうべを垂れていたシュミクトも目的地に着いたのが分かったようだ。いきなり元気を出して、「よっしゃーーっ!食べるぞ!飲むぞ!」とわめき散らかす。

わたしもウーリー家の楽しい雰囲気につられて、「いいね、食べるぞ!飲むぞ!」とシュミクトと一緒に連呼する。

人の垣根を分けながら、肉の匂いのある方へ突き進むわたしとシュミクト。

たくさんの人がワイワイとおしゃべりしながら肉を食べているのが分かる。

カレー問答をするふたりとミッションに集中するひとり。
ボーチャの売り文句も聞こえてくる。
雨ごいした巫女3人の笑い声も響いてくる。


途中、見慣れた男に出会う。
勇者ウーリーだ。

シュミクトはウーリーを見つけるなり、いきなり、こう言った。


シュミクト
「ここへアクーン王が来てると聞いたからきたけど
 王様は来られたのか?
 ヒック〜ウィ〜吐きそう!吐いていいかな?』

うん、いいよね。いままで我慢してたもんね。

ゴーショー
「いいとも~」


ウーリー
「コラー!!いいともちゃうわーここで吐いたらアカン!
 そこのバケツに吐いて!ったく〜何やこのバーベキュー大会は?」


わたしは”いいとも~”という言葉は知らないが、しぜんと出てきた。おそらく使い方的には問題ないはずだ。少々、ウーリーから説教はくらったが。
シュミクトをウーリーに言われたとおり、バケツまで案内する。シュミクトはバケツに頭を突っ込むなり、そこから反応がない。どうやら、ここでお別れのようだ。

わたしもそろそろ限界だ。肉を食べたい一心と酔いが回った脳内とで戦い続けている。ふらふらと歩ていると、気づけばウーリー家の中へ入っていた。

家の中からは楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

ゴーショー
「これって、アクーン王の声やないか!」

わたしはアクーン王の声を聞くなり、真っ先に記憶を巡ったのは昨日のチョーカンの出来事だった。そして、何を血迷ったのか”アクーン王に仕返ししてやろう”と企み出す。よほど酔っぱらっていたらしい。

部屋の中は、電気が消えたり付いたりで不思議な状況だった。

忍び足でウーリー家を進むわたし。

途中の柱に人影が見えたが、それを無視した。なにやら嫉妬めいたオーラ-をまといながらほおかんむりしていたので「近づいたらヤバい」と思ったためだ。

部屋の奥から、「たくっ!なにやって…」と声が聞こえてくる。おそらく、この方向にアクーン王はいる。うつろうつろなわたし。視界はゆれる。


いまだ!!



わたしは目の前の尻に向かって、2本の交差した指を放った。
いや、全身全霊を込めて身体ごと、いってやった。

ブスっ!!


にぶい音と同時に聴こえるのは断末魔。



イッタァァァァァァァーーーーーッッ!!!



われながら、初めてのチョーカンだったが会心の一撃であったろう。人差し指の第二関節まではガッツリ入ったのを肌感覚で分かった。

わたしは入った指によってズレた目の前のズボンと露出した尻を目の当たりにした。

「なんか、毛深いな…」

疑問に感じ、ふと視界を上に上げると、そこにはウーリーがいた。

ウーリー
「あんた!!なにやっとんねん!!」


バシッ!!


おもいっきり、頭をしばかれるゴーショー。

近くから「ひゃひゃひゃっ!!」とアクーン王の笑い声が聞こえてくる。
わたしの意識は静かに遠のいていく。薄目に見る視界には、ウーリーを指差すアクーン王と見慣れない女性がキャキャッと楽しそうにしている光景が見えた。

これが幸せな家族のカタチなのだろうか。








エンドロール


気づけば、そこはベットの上だ。このベットは知っている。アクーン王の城にあるベットだ。それも高級なベットに違いない。

目の前には見慣れぬ女性が介護していた。

女性
「やっと、気がついたのね」

ゴーショー
「はっ!ここは…アクーン王の城ですか」

女性
「そうよ、ここは城内にあるわたしエミーカのベットよ」

ゴーショー
「エミーカ?」

エミーカ
「そうよね。本来は初めましてではないのだけども…
 初めまして、わたしはアクーン王の母、エミーカです」

ゴーショー
「えっ!?あのアクーン王の母親ですか!!
 なんと、これは!
 このようなみすぼらしい姿でお会いすること申し訳ありません」

エミーカ
「いえいえ、お気になさらず。
 わたしが好きでやっているのだから」

わたしの額に置いた濡れタオルを取り除くエミーカ様。

エミーカ
「あなたのことは、アクーン王から聞いております。
 アクーンがとてもお世話になりました」

ゴーショー
「いや…」

エミーカ
「ただ…、じつはお礼の言葉だけを申し上げたくて
 このように対応しているわけではありません」

ゴーショー
「??」


なにやら、雲行きが怪しい。
いや、怪しいというより神妙なおもむきでわたしを見つめるエミーカ様。


エミーカ
「じつは、あなたはアクーンにとっての…」

ゴーショー
「アクーンにとっての…?」


エミーカ
じつの弟なのです」











ここで、わたしのウーリー物語は終わりを迎える。




-完-




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