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オーディションで演出家の蜷川幸雄さんにお会いした時の話

俳優活動に明け暮れていた20代前半のころ。

僕は演出家の蜷川幸雄さんに一度だけお会いしたことがありました。

その時の話をします。


1.誰についていくか

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その当時は、劇団に所属してもうまくいかず脱退。

俳優事務所に所属しても、パッとせず。

何か名が通った人に付いていくことができれば、一番プロの世界へ近づく為の道筋が見えると思いました。

毎月のようにオーディション雑誌を立ち読みしていると、とあるオーディションが見つかりました。

「蜷川幸雄プロデュース団体参加者募集!」

あの伝説の蜷川幸雄さんが、新しい団体を立ち上げる、オーディションが出てきました。

「これしかない!」と思った僕は、さっそくオーディションに応募することにしました。

2.4ページ分の台本暗記

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まずは書類審査通過。

1週間後に開催される2次審査用に、台本が送られてきました。

「この台本を元に一人芝居を行っていただきます。」

このような説明書きがあり、台本を開いてみると、4ページにも及ぶ一人芝居用のセリフが書かれていました。

たった1週間で4ページ分のセリフを暗記する必要がある。

これがプロのレベルかと一瞬ビビりましたが、今まで幾つもの役を演じてきた経験があったので、4ページにセリフ暗記にチャレンジしました。

3.オーディション当日

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一週間後、セリフを覚えて準備ばっちりの状態で、オーディション会場に向かいました。

会場に着いてみると、会場入口から続いていたのは長蛇の列。

どうやら集団オーディションではなく、一人一人を順番に審査していくシステムでした。

会場でストレッチなど準備をする暇もなく、少しずつ前に進んでいく列が終わり、順番が来たら即スタート。

異様な緊張感に包まれながらも、これまで舞台に多数出演してきた自信を胸に、順番が来るのを待っていました。

そして順番待ちの列が終わり、僕の順番がやってきました。

4.対面

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会場に入ると、審査員として座られていたのは蜷川幸雄さんご本人。

一気に緊張感が沸き上がりそうになりましたが、このチャンスを逃すわけにはいかないため、深呼吸しリラックス。

「それでは簡単な自己紹介と、一人芝居をお願いします。」

蜷川さんからそのように説明を受け、さっそくスタートしました。

「三浦誠大です。年齢は23歳です。よろしくお願いします」

そして、自信満々に一人芝居を始めたところ、蜷川さんからこう言われました。

「はい、止めてください。もう大丈夫です。」

「えっ!?」

スタートからわずか5分程度で、僕のアピールタイムは終わりました。

「合否は後日書面にてお送りいたします。」

係りの人からそう言われましたが、たった5分で中断されてしまったオーディションで、合格通知が来るとは思えませんでした。

5.視点

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「それでは次の方どうぞ」

あまりにも不完全燃焼の状態だったため、出口付近で次の人の審査状況を見ていました。

「○○です。よろしくお願いします。」

次の人は、金髪頭でやぼったい服装。

この人も僕と同じように、数分で中断されてしまうだろうと思っていました。

しかし、その金髪頭の人の一人芝居は、蜷川さんから中断されることなく、最後までやり終えていました。

「どこで芝居経験を積んできたんだ?」

さらには蜷川さんから幾つか質問がされていて、終始和やかな雰囲気でした。

おそらく、この人はオーディションに合格したと思います。

最後のチャンスだと思って全力で臨んだ蜷川さんのオーディションは、あっけない形で終了しました。

まとめ

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その後、不合格通知が届きました。

5年演劇を学んだくらいで調子に乗っていた僕の鼻をへし折られた気分でした。

プロの世界はまだまだ遠いと体感した、貴重な経験でした。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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