スニーカーを買う

 スニーカーを買いに行くことにした。

 いま履いているスニーカーはconverseの白なのだが、主に行く場所がバイト先なので白どころか灰色になってしまっているし、破けたりほつれたりしている箇所が数箇所では収まらない。ドラッグストア勤務なのにそんなに汚れるのか?と思われるかもしれないが、店員は客が思っている以上に動き回る。レジ以外にも倉庫から商品を運んだり掃除をしたりするので案外汚れるのだ。そして、接客業に従事しながらも他者との会話を苦手としている私は、服屋以上に店員とのコミュニケーションを必要とする靴屋に行く勇気が滅多に湧かない。さらに、極度の心配性のため試着が出来ないという理由からオンラインショップの利用をも躊躇ってしまい、その結果後輩から「…バイト代貰ってます?」と聞かれてしまうconverseの白が誕生してしまったのだ。ごめんねconverse。ごめんねかつて白だった灰色。

 しかしこの学生時代最後の夏休み、友達と二泊三日で遊ぶ予定が立った。バイト以外の外出は夏はサンダル、冬はブーツで通している私だが、今回はめちゃくちゃ歩く予定になりそうだ。サンダルは長時間歩くのには向いていないだろうし、靴擦れを起こしてしまう可能性がある。かと言ってせっかくのお出掛けに瀕死のconverseを履いていくわけにもいかない。ご時世関係なくインドアである故の悩みが発生した。

 と、そこに「お盆で実家に帰省するので…」から始まる連絡に全てOK OKと答えた八月の給料が振り込まれた。普段の1.5倍はある。そして、二泊三日で遊ぶ友達が「これクソかわいい…」と送ってきたYOSUKEのクソかわいい厚底スニーカーの画像。今しかない、と思った。生活リズムが乱れているせいで既に14時を回っていたが、冒頭の通り私はスニーカーを買いに行くことにしたのである。

 さて、先程「夏の外出は基本サンダル」ということを書いた私だが、出掛ける直前にスニーカーを試着するのにサンダル(=裸足)はよくないのでは、ということに気が付いた。よく考えてみれば靴屋に来るのは靴を新調したい人々だ。つまり私以外のお客さんもみんな古い靴を履いているはずだし、店員も日々そんな人たちに接しているから「うわこの人の靴ボロ…」などとは一々思わないはずだ。安心した私はconverseと共に新宿に行くことにした。家の近所しか知らないconverse、真夏の大冒険である。目的はconverseの代わりのスニーカーを買うことだが。

 さて、新宿に到着した私とconverseはマルイアネックス七階に向かった。向かう途中で紀伊國屋書店やZARAやGUやseriaに寄り道したのでYOSUKEに着いた頃には疲れ切っていた(これもインドア故である)。小さい店舗なので入店制限をしていたが、ちょうど前の人が会計をしているところだったのですぐに入ることが出来た。私の入店と同時に入口にチェーンがかけられて貸切状態になったので「VIPみたいな扱いされたらどうしよう…」などと心配していたが杞憂で、店員はいい感じに私のことを放っておいてくれた。せっかく実店舗に来たので店内の靴を一通り見物し、店の雰囲気に慣れてきたところで店員にお目当ての厚底スニーカーの試着をしたい旨を申し出た。新品の厚底スニーカーと並んだconverseは雑巾にしか見えなかった。流石に店員も「うわこの人の靴ボロ…」と思ったはずだ。靴屋の店員なのだから、私が入店した時点でそう思っていたかもしれない。こんな私にも丁寧に対応していただいてありがたい話である。

 試着した厚底スニーカーはやはり大変可愛かった。歩く度に踵がちょっと浮くのが気になったがキツイよりはいいだろうし、店員に下のサイズの有無を聞けるコミュニケーション能力は持ち合わせていなかったのでそのままお買い上げした。学割で5%安くなって9000円台。やったあ。会計の時にアプリやポイントカードのことを聞かれるのではないかと思って身構えていたのだが、そんなことはなくあっさりと入口のチェーンが外された。もしかして、ボロボロのスニーカーを履いていたから会話が発生しなかったのだろうか。だとしたらconverseの果たした役目は大きい。

 YOSUKEの紙袋(おしゃれ)を下げてボロ雑巾converseと共に自宅へ向かう。はじめて自分のお金で買った靴はこのconverseだった。バイト先で酷使しているconverse。大事な日はいつも留守番しているconverse。けど一番気兼ねなく履けて何処にでも行けるのがこのconverseなのだ。YOSUKEは勿体無くてしばらくは外に履いていけない気がする。だからその間、もう少し私に付き合ってね。明日晴れたら、洗ってあげるから。