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招集株主による上場会社の株主総会開催の実務 Vol.4:株主総会開催の事前準備

1. 委任状・議決権行使書面の事前集計

委任状勧誘により、招集株主に賛同した一般株主から招集株主へ議決権行使書面・委任状が届きます。これを有効、無効、一部無効等に分け、集計します(全国株懇連合会の定める「株主本人確認指針」などを参考に判断基準を作成して集計します)。
 
株主数が多い上場会社の集計作業は膨大であることから、有効・無効の判断基準を業者に共有して作業を委託することが多いと思われますが、適切な判断基準に従って処理されるよう管理し、また、判断に迷う際に弁護士に相談できる体制を作り、その状況を検査役にも共有し、適切な集計がなされていることを記録化してもらうことが必要です。

《実務のポイント》議決権行使書面、委任状は実際にどうやって集計するか。

多数の議決権行使書面・委任状をどうやって実際に集計するか、一例として、筆者らが採用した方法を紹介します。
 
● 招集株主側に返送された議決権行使書面・委任状の集計
まず、あらかじめ株主議決権行使用紙・委任状に株主情報が読み取れるバーコードを付しておき、返送があった議決権行使書面・委任状について当該バーコードを読み取るとバーコード内に記録されている株主情報(議決権数等、必要なデータを株主名簿から入力しておきます)が株主のリストが記載されている集計表に反映されるようにしておき、集計表に当該議決権行使書面・委任状の賛否、有効・無効等を入力していきます。
 
この場合、適宜、ダブルチェック体制で議決権行使書面・委任状集計表を作成し、有効票のみをカウントすることで集計結果を確認します。
 
以上が、株主総会前日までの招集株主に返送された議決権行使書面・委任状の集計方法となりますが、プロキシーファイトが行われた場合は、事前に反対株主(会社側株主)への委任状等も集計することが必要となります。
 
● 反対株主側へ提出された委任状、議決権行使書面の集計
反対株主(会社側株主)が取得した委任状、議決権行使書面の集計の流れですが、事前に反対株主と委任状持ち込み時期を確認し、総会検査役に立会いを依頼します。通常は、議決権行使書面の行使期限は株主総会前日の営業時間の終了時までとなるため(施行規則69条)、反対株主(会社側株主)への委任状も前日営業時間後以降に招集株主サイドに持ち込まれることが多く、そこから集計作業をすることとなります。
 
反対株主(会社側株主)に相当数の委任状が集まっている場合等は、株主総会直前まで集計を行うことになる可能性があり、集計作業のための人員を確保しておくことが重要となります。なお、招集株主に提出された委任状と反対株主(会社側株主)に提出された委任状の重複チェックも行う必要があり、重複があった場合におけるいずれの委任状を有効とするかの判断基準も事前に定めておく必要があります。
 
以上の作業により、総会での投票前の暫定的な集計結果が明らかとなります。なお、これらの作業については、総会検査役に適宜、チェック頂き、報告書に記載してもらう必要があり、また、集計結果も総会検査役に提出することとなります。

2. 招集株主自身の議決権行使、職務代行通知

株主開催総会においては、委任状勧誘の受任者は当該開催株主となることが多いため、当該開催株主の代表者は当該株主総会で議長を務めることが多いと思われます。そうすると、開催株主の代表者が株主総会の議長を務めながら勧誘した委任状を行使することとなりますが、議長が議決権を行使できるかについては議論がありうる上、招集株主の代表者は議長として議場進行に集中する必要があるため、開催株主において代表者以外の役員や社員に受任者として議決権行使を行わせるのが良いと考えられます。
 
この場合、代表者以外の役員や社員に受任者として議決権行使を行わせるために代表者は職務代行通知書を作成し、当該役員や社員に交付しておく必要があります。
 
また、当日、招集株主の代表者が体調不良等で議長を務められない場合に備え、議長権限についても職務代行通知を交付しておくことも考えられます。

3. 会場、警察の手配

会場の手配に関しては、会社開催総会の場合と留意点が大きく異なることはありません。ただし株主が開催する場合には、総会運営に慣れていない場合が大半と思われますので、予期せぬ事態が発生した場合に弁護士を交えるなどして対応方針を検討する必要性が高いことから、株主側でアクセスのしやすい控室を設けておく必要性がより高いと考えられます。
 
総会当日には、当日用意している資料の配布や警備、会場までの道案内、交通整理等の業務が発生しますが、招集株主には人員リソースが限られている場合が多いと思われますので、イベント業者等にこれらの業務を委託することが有益と考えられます。当該業者に委託をした場合には、前日のリハーサルにも参加していただいて、事前の打ち合わせを行っておくことが必要です。
 
さらに、会社側との間で委任状争奪戦に発展している場合や、集計結果に争いが生じている場合などには、総会当日に不測の事態が起きることに備え、警察官の臨場を要請することや、警備会社に警備を委託することも考慮します。

4. 会社役員への連絡および説明義務

取締役および監査役は株主総会に出席し、株主から一定の事項の説明を求められた場合には、必要な範囲で説明を行う義務を負い(会社法314条)、株主開催総会における株主提案に係る議案に関しても説明義務を負うと考えられています。したがって、招集株主としては、会社役員に対しても株主総会の場所および日時を案内し、出席した場合に参加した株主から説明を求められた場合には、発言を許すべきでしょう。
 
ただし株主開催総会では、開催株主と会社経営陣が対立することで、取締役および監査役が出席を拒む場合もあると考えられますし、開催株主としても会社側の役員に対しては出席の意向を確認する程度のことしかできない場合が多いと思われます。したがって、会社側の役員が総会当日に出席せずに説明義務を果たさなかったとしても、これをもって株主総会取消事由には当たらないものと考えられます(塚本英巨「少数株主による株主総会の招集」商事法務2189号40頁(2019))。

5. 出席票

出席票のイメージ(一部省略等しています。)

株主開催総会においては、委任状勧誘が実施され、総会の議事進行や投票が行われた場合の集計に時間がかかり、休憩などで株主が会場から一時退出することが考えられます。そのため株主の入退場を管理するため、出席番号を付した出席票を交付し、入退出の際に出席番号(手元のデータで株主名簿の株主情報と紐づけるようにします)を確認することで、どの株主が議場にいるかの確認をします。

6. 投票用紙

投票用紙のイメージ(一部省略等しています。)

株主開催総会の場合も、提出された議決権行使書面や委任状の事前集計により、開催前に既に決議の結果が出ていることが多いと考えられます。しかし、事前集計の結果が僅差な場合など、当日の議場における投票の結果と合算しなければ各議案の可否が判断できないという場合もあります。したがって、投票になる場合の対応も必要となります(Vol.1で紹介した関西スーパーの経営統合に関する株主総会は実際に投票が行われ、その有効性が問題となった事例です)。当日の投票が必要な場合、Vol.5でご説明しますが、出席番号と紐づいた投票用紙を交付します。


Authors

弁護士 鍵﨑 亮一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2002年弁護士登録(東京弁護士会所属)。02年~11年牛島総合法律事務所、12年~17年株式会社LIXIL法務部、17年~18年LINE株式会社法務室勤務を経て、19年1月から現職。

弁護士 今村 潤(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2011年弁護士登録(東京弁護士会所属)、2019年税理士登録(東京税理士所属)。12年~15年共栄法律事務所、15年~18年関東財務局において統括法務監査官として勤務。19年1月から現職。

弁護士 小倉 徹(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2016年弁護士登録(東京弁護士会所属)。16年~18年ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)を経て、19年1月から現職。

弁護士 小林 智洋(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2017年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。17年~19年渥美坂井法律事務所・外国法共同事業を経て、19年10月から現職。

三浦法律事務所 商事紛争プラクティスグループについて
三浦法律事務所の商事紛争プラクティスグループでは、会社の支配権を巡る訴訟・仮処分、組織再編の効力を巡る訴訟・仮処分、株主名簿・取締役会議事録・会計帳簿等の閲覧謄写請求事件、株主代表訴訟など、商事訴訟・非訟事件全般に関する多くの案件を手掛けています。

また、上場会社における敵対的な公開買付け・委任状勧誘や非公開会社の役員解任及び責任追及、少数株主としての株式買取請求などについても豊富な知識、経験を有しています。

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