招集株主による上場会社の株主総会開催の実務 Vol.1:総会招集請求から総会検査役選任の申立てまで
1. はじめに
会社法上、一定の要件を満たした場合に株主は、裁判所の許可を得て株主総会を招集できます(会社法297条4項)。
しかしながら、株主が上場会社の株主総会を招集し開催するには、開催の経験がない、多数の株主がいる等の事情で独特の難しさがあります。また、株主総会を開催することとなった株主側で必要な手続きを説明した文献等も多くはありません。
そこで、本記事では、筆者らが経験した実例をもとに株主側から見た株主総会開催の留意点を中心に必要な手続きを紹介します(総会招集請求・決定を受けた場合の会社の担当者の方の参考となることも期待しています)。
なお、以下では、取締役会・監査役設置会社を前提として、株主総会招集請求において頻繁に議題となる取締役の解任・新任取締役の選任を念頭に記載します。また、便宜的に、会社が開催する株主総会を「会社開催総会」、株主が招集許可を得て開催する株主総会を「株主開催総会」と呼びます。その他、法令等の略語は以下のとおりです。
2. 総会招集請求から総会検査役選任の申立てまで
ここでは、株主提案権と株主総会招集請求権との関係、株主総会招集請求の申立て、総会検査役の選任申立てについて説明します。
株主による議題提案と招集請求
(1)株主提案だけでは、なぜ足りないか?
株主が特定の事項を株主総会の議題とし、自己の提案する議案について株主総会の決議を得たい場合、株主として株主提案を行います。具体的には、会社に対して議題提案権(会社法303条)および議案提案権(会社法304条)を行使し、株主総会における議題(例:取締役2名選任の件)および議案(例:取締役A氏及びB氏選任の件)の追加を求めるとともに、議案要領通知請求権(会社法305条)を行使し、自己が提案しようとする議案の要領を他の株主に通知するよう請求することが考えられます。
しかし、議題提案権および議案要領通知請求権は、株主総会の会日の8週間前までに行使する必要があることから(会社法303条2項、305条1項)、事実上、定時株主総会での行使に限られます(※)。したがって、定時株主総会を待たずに早期に決議を得たい場合には、株主提案権を行使することだけでは目的を達成できません。
(2)会社に対する株主総会招集請求
そこで、株主は株主総会の招集の請求(会社法297条)を行うことが考えられます。この場合、招集請求を行う株主は、請求の日から遡って6か月間総株主の議決権の100分の3以上の議決権分の株式を継続して保有しておく必要がありますが、定時株主総会の開催のタイミングと合わせる必要はなくなります。
株主総会招集請求を行う場合、まず株主は代表取締役に対し、①議題、および②招集の理由を示し、株主総会の招集を請求する必要があります(会社法297条1項)。この際、上場会社においては会社が株主総会の招集手続を行うに際し、議案を知る必要があるため(会社法298条1項3号・同条2項、同法301条、施行規則63号3号イ、同73号1項1号)、③議案も併せて通知する必要があります。
また、株主総会の招集請求は、「少数株主権等」(基準日において株主名簿に記載された株主をその権利者とする権利を除いた権利をいいます)の行使に該当するため(振替法154条、147条4項)、株主は自身が口座を有する証券会社等に対し、個別株主通知(※)の申出を行い、会社に個別株主通知が行われてから4週間が経過するまでに株主総会の招集請求を行う必要があります(振替法154条2項、振替法施行令40条)。
なお、上場会社は一般的に、定款およびその委任を受けた株式取扱規則で株主権の行使の仕方を定めているため、総会招集請求はそれらの定めに沿った形で行われる必要があります。
(3)裁判所への株主総会招集許可申立て
会社側は、株主による株主総会の招集請求が適法なものであると判断した場合、会社主導で自主的に株主総会を招集するとの判断に至るケースが通常です。しかし、株主が会社に対して適法に株主総会の招集請求を行ったにもかかわらず、株主総会の招集を行わない場合(具体的には、以下の①または② に該当する場合)、当該株主は裁判所に対し、株主総会招集許可申立てを行い、株主総会の招集許可決定を求めることができます(会社法297条4項本文)。
(4)株主総会招集請求申立てを受けて、会社が株主総会を招集する場合
株主による裁判所への株主総会招集請求申立てを受けて会社が株主総会を開催したとしても、会社法297条4項2号の「総会招集請求があった日から8週間以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集の通知が発せられない場合」に該当することが多いと思われます。会社が自主的に株主総会を招集する判断に至った場合でも、基準日の設定・公告、招集通知の作成・発送といった作業が必要となり、これらを8週間以内に行うのは難しい場合が多いと考えられます。
しかしながら、東京地裁民事第8部(商事部)の実務では、「裁判所が株主による株主総会の招集を許可したとしても、会社の招集した株主総会より前に株主総会を開催できる見込みがない等の特別の事情が認められる場合」には、招集許可申立ては却下されるのが一般的です。株主としては、このような特別の事情が認められる場合であっても会社が実際に株主総会を開催する保障はないため、会社が株主総会を開催して決議がなされるまで、株主総会招集許可申立ての手続きを留保することを求めるべきであるといえます(筆者らの経験では、東京地裁民事8部ではこのような取り扱いを認めるのが通常です)。
(5)招集許可決定の取得
裁判所が株主による株主総会の招集を許可する場合、通常、許可決定において決定の日から6週間程度の招集期限が定められます。
(6)株主としての招集決定
裁判所から株主総会の招集を許可する決定を得た株主は、株主総会の招集決定をしなければなりません(会社法298条1項本文括弧書き)。招集決定については、株主総会検査役が選任された場合、株主総会検査役より決定があったことを証する文書を求められますので、文書化しておく必要があります。
なお、株主開催総会においては、定款所定の議長が当該株主総会の議長になるのではなく、招集株主が仮議長となり、あらためて議場において当該株主総会の議長を選任することとなります(※)。なお、株主総会当日までのトラブルに備え、株主による招集決定の際に仮議長となる者および仮議長に事故がある場合に仮議長となる次順位の者を決めておくことも考えられます。
(7)株主総会検査役選任の申立て、株主総会検査役との打ち合わせ
総会検査役とは、裁判所から選任され、株主総会の招集手続や決議方法を調査しその結果を裁判所に報告する者で、通常、弁護士が選任されます。株主開催総会の場合は、会社側は株主が提出する議案に反対していることが多く、後々、会社(取締役、監査役など)や会社側の株主から決議に関して取消訴訟が提起されるなど、招集手続や決議方法の是非を巡る紛争となることが考えられます。
したがって、株主総会の招集手続や決議方法を調査し記録してもらうため、裁判所に対し、株主総会招集許可の申立てとは別に総会検査役の選任の申立て(会社法306条1項・2項)をしておくことが必須となります。株主総会の決議の有効性などが問題となった場合には、総会検査役の報告書が後の裁判手続において証拠として大きな意味を持ちます。最近では、株式会社関西スーパーマーケットの経営統合(株式交換)の承認に関する同社の株主総会の決議に取消事由があるとして、株主であるオーケー株式会社が株式交換の差止を求めた事件でも、総会検査役の報告内容が大きな注目を集めました。
なお、総会検査役の選任請求権も少数株主権等(振替法147条)に該当するため、個別株主通知が必要となります。総会検査役が選任された後の手続きについては、Vol.2およびVol.4で解説します。
Authors
弁護士 鍵﨑 亮一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2002年弁護士登録(東京弁護士会所属)。02年~11年牛島総合法律事務所、12年~17年株式会社LIXIL法務部、17年~18年LINE株式会社法務室勤務を経て、19年1月から現職。
弁護士 今村 潤(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2011年弁護士登録(東京弁護士会所属)、2019年税理士登録(東京税理士所属)。12年~15年共栄法律事務所、15年~18年関東財務局において統括法務監査官として勤務。19年1月から現職。
弁護士 小倉 徹(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2016年弁護士登録(東京弁護士会所属)。16年~18年ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)を経て、19年1月から現職。
弁護士 小林 智洋(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2017年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。17年~19年渥美坂井法律事務所・外国法共同事業を経て、19年10月から現職。
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