IP UPDATE Vol.3「ざっくりさくっとファッションロー~ルブタン”レッドソール”事件~」
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IP UPDATE Vol.3「ざっくりさくっとファッションロー~ルブタン”レッドソール”事件~」

三浦法律事務所/Miura & Partners

突然ですが、「ファッションロー(Fashion law)」という言葉をご存じでしょうか?ファッションローとは、特定の法分野ではなく、ファッション業界というセクター(業種・業界)に関連するさまざまな法的問題・関連法分野を総称する言葉です。ファッションロー以外では、「スポーツロー」や「エンターテイメントロー」などが有名です。

三浦法律事務所がお届けするIP UPDATEのファッションロー回は、当事務所きってのファッションフリークたちがファッション好きの目線で、(時にファッショントークに花を咲かせながら)知財関連のファッションロー事例についてざっくりさくっと解説します。

1. はじめに

平川:さて、ついにファッションローをテーマにしたnoteがはじまりましたね!初回のテーマは、クリスチャン ルブタン(CHRISTIAN LOUBOUTIN)と日本の婦人靴メーカーのエイゾーコレクションがハイヒールの靴底の色を巡って争った事例をピックアップしたいと思います。せっかくなので私は今日、ルブタンのレッドソールを履いてきました。池村弁護士は?

クリスチャン ルブタンのレッドソールパンプス。素材はスエード、スタッズも控えめ(?)で平川お気に入りの一足。

池村:いつもはクラシックな靴が多いのですが、今日はせっかくなのでモードっぽい靴をと思い、昨年亡くなってしまったアルベール・エルバス(Alber Elbaz)とトッズ(TOD’S)のコラボシューズを履いてきました。

この日の池村弁護士はアルベール・エルバスとトッズのコラボシューズを着用。ちなみにジャケットはジュンヤ ワタナベ マン(JUNYA WATANABE MAN)の今季物だそう。

平川:エルバスと言えば、有名デザイナーたちがエルバスのデザインを着想源にして制作したルックを昨年のパリコレで発表したトリビュートショーが素敵でした。コンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMON)と生前のエルバスが共同で立ち上げたAZファクトリー(AZ FACTORY)の服も欲しいなと思ってチェックしています。

さて、気を抜くとすぐ脱線してファッション談義になってしまうので(笑)、本題に戻しましょう。

2. クリスチャン ルブタン“レッドソール”事件(東京地裁R4.3.11判決)

平川:さて、さっそくですが池村弁護士、今回の事案の解説をお願いします。

池村:事案はとてもシンプルです。ざっくりいうと、クリスチャン・ルブタン社(以下「ルブタン」)およびデザイナーであるクリスチャン・ルブタン氏が、シューズブランド「EIZO(エイゾー)」などを運営する日本の靴メーカー・エイゾーコレクション社(以下「エイゾー」)に対し、エイゾーが製造販売するハイヒール(以下「被告商品」)はルブタンのハイヒール(以下「原告商品」)に類似するとして、不正競争防止法に基づき商品の販売中止や廃棄、合計約4200万円の損害賠償を求めて東京地方裁判所に提訴したというものです。

平川:ルブタンが類似すると主張するエイゾーの靴は、いずれも靴底が赤いパンプスでしたね。

池村:公開されている判決文に、別紙1としてルブタン商品が、別紙2として被告商品が掲載されていますね。

左:原告商品 右:被告商品(いずれも判決文別紙から)

池村:ルブタンは、「女性用ハイヒールの靴底に赤い着色(パントン社の18-1663TPG)を施したもの(以下「原告表示」)は、需要者の間でルブタンの商品であることを示す商品等表示として周知著名であり、被告商品は、原告表示と類似した商品等表示を使用しており、被告商品を製造販売等する行為によって、需要者において原告商品との混同を生じさせるなどとし、エイゾーの上記行為は不正競争防止法2条1項1号、同2号の不正競争行為に該当すると主張しました。

原告表示(いずれも判決文別紙から)

これに対し、エイゾーは、

① 原告表示は不正競争防止法上の商品等表示には当たらない
② 周知著名とは言えない
③ 被告商品の靴底等は原告表示とは似ていない
④ 需要者において混同を生じされることはない

などと反論し、真っ向からルブタンの主張を争いました

3. 判決のポイント

平川:判決のポイントを教えてください。

池村:まず、結論としては、ルブタンの完全敗訴という形となりました。以下、論点ごとにざっくりポイントを紹介します。

(1)原告表示の商品等表示該当性

 靴底のような商品の形態が不正競争防止法上の商品等表示に該当するためには、①客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(特別顕著性)を有しており、かつ②特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知であると認められる特段の事情が必要である

 商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、この表示は、全体として不正競争防止法上の商品等表示には該当しない

 イを本件に当てはめると、原告表示は、ハイヒールの形状その他の要素によって広範な商品形態を含むものであり、被告商品の靴底も含まれるところ、被告商品の靴底は塗装がされていない赤いゴム底で光沢がなく、革製の靴底にマニキュアのような光沢ある赤色塗装を施したルブタン商品の靴底とは明らかに印象が異なることから、被告商品の靴底や赤色ゴム底のハイヒール一般はルブタンの出所を表示するものとして周知とはいえない。従って、原告表示は全体として不正競争防止法上の商品等表示には該当しない

 アについても、①靴底を赤色にすることはルブタン商品が日本で販売される前から一般的に行われており、特別顕著性はなく②ルブタン商品の日本での販売期間は約20年と長期間ではなく、また、自ら宣伝広告費用を支払う形での広告宣伝を行ってもいないので、周知であるとはいえない

(2)誤認混同の有無

 ルブタン商品のような高級ブランド品を買う需要者は、商品形態だけでなく商標等を確認するのが通常であって、中敷きや靴底に付されたブランドロゴによってルブタン商品と原告商品の違いは十分に確認できる

 高級ブランド品は、通常は現物を試着して履き心地等を確認した上で購入されるものであり、この場合に誤認混同は生じない

 ア、イに加え、両商品の靴底の光沢や質感の顕著な違いによれば、ルブタン商品と被告商品とは、需要者において出所の混同を生じさせるものとは認められない

裁判所は以上のように判断し、ルブタンの請求を認めませんでした。

平川:なかなかルブタンに厳しい判断ですね。

池村:そうですね。個人的には、高級ブランドも最近はインターネット販売に力を入れてますし、私もグッチ(GUCCI)などの靴をインターネットで買うこともありますので、高級ブランド品は現物見てから買うのが普通でしょという裁判所の感覚にはちょっと違和感がありますし、時代遅れ感を覚えます。

平川:私もその点は非常に気になりました。私は靴だけは店頭で買いたい派ですが、海外で売られているデザインの方が好みなので、どうしても国内で手に入らない場合はECで買います。

ラグジュアリーECサイトの代表格であるファーフェッチ(FARFETCH)は、2021年度の売上高が前期比34.8%増、流通取引総額も42億ドルに達し、19年の倍の規模に成長しています。高額商品をECで購入する人は確実に増えていますし、高級靴をECで買うという行為も一般的になってきていますよね。

池村:ルブタンの宣伝広告手法がサンプルトラフィッキング(雑誌編集者、スタイリスト、著名人等からの要望や依頼に応じて、これらの者が雑誌の記事、メディアでの撮影等で使用するために商品を貸し出す広告宣伝手法)に留まり、積極的に広告宣伝を打つものではないという点が不利な要因になっている点も気になりましたし、ブランド保護という観点からは積極的な広告宣伝を行う必要があるという意味で教訓になると思います。

また、靴底が赤いハイヒール商品が少なくとも70程度のブランド等から販売されているということも認定されており、これもルブタンに不利に働いています。裁判所としては、赤い靴底の商品をルブタンに独占させるのは望ましくないと考えたのでしょう。

いずれにせよ、ルブタンがこれで引き下がるとは思えませんので、知財高裁の判断が注目されます。

平川:ルブタンは、海外でも当時の「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」やオランダの靴メーカーと同様の訴訟を繰り広げ、有利な判断を勝ち取っているようですが、日本ではなぜ異なる結果となっているのでしょうか。海外では、ハイヒールのアッパーと靴底の色が違えば商標が有効と認められたケースもあったようですが。

池村:まず、海外の訴訟は商標権に基づくものであるという点が大きく異なります日本ではレッドソールについて商標登録は認められずにおり、そのため商標権侵害に基づき訴えることはできず、今回も不正競争防止法違反という構成での訴訟提起となっています。商標登録に関しては、日本におけるルブタンのレッドソールに関する商標出願は、19年に拒絶されています。これに対し、諸外国では50カ国において登録が認められているようです。

平川:日本での商標出願に関しては、現在不服審判中で、この判決が公表された翌日に一般社団法人日本皮革産業連合会が上申書を提出しています。内容としては判決の抜粋で、要は「ルブタンの主張を否定した判決が出たんだから不服審判の判断にも当然影響してきますよね」というものでした。実際、今回の件は審判に影響をおよぼすでしょうか?

池村:少なくともルブタンに有利に働くことはないはずですし、登録のハードルはより高くなったのではないでしょうか。ルブタンの商標出願は、15年の商標法改正で新たに認められた「色彩のみからなる商標」に関するものですが、これに対して特許庁は全般的に極めて厳しい審査をしており、現時点で登録が認められたものは僅か9件に留まっています。

つい先日、チキンラーメンのパッケージに付された縞々の色彩が新たに登録の仲間入りを果たしましたが、現状登録されている9件はいずれも複数の色で構成されるものであり、ルブタンのレッドソールのような単色の商標は未だ登録例がありません


おまけ:ファッションフリークによるファッション四方山話

(1)ルブタンについて

池村:14年にメンズのクラシックコレクションが登場したとき、スーツにレッドソールの靴を合わせてチラ見せするのは面白いかなと思い、すぐに銀座のブティックに見に行ったのですが、実物見たらちょっとしっくりこなくて、その時は買いませんでした。スタッズのものも、この年になるとアレですし、残念ながらこれまでご縁がないブランドです。平川さんはわんさかお持ちですか笑?

平川:私は靴マニアなので靴はたくさん所有していますが(笑)、ルブタンは1足しか持ってないんです。初めてのパリコレ取材で現地に行ったときに、ルブタンの展示会にも招待されて取材に行きました。パリコレ期間中は分刻みのスケジュールでまともに食事もとる暇がないんですが、ルブタンのイベントにルブタン履いていかないでどうすんだということで、過密スケジュールの合間を縫って15分で今日履いてきたルブタンのパンプスを購入したのはいい思い出です。SNSや広告に出てくる靴はハデなものが多いので日本人は敬遠しがちかもしれませんが、実際はシンプルなレッドソールパンプスもありますし、細いヒールの割には長時間歩ける靴なので足に合う人にはオススメしたいです。

初めてのパリコレで初めてのルブタンの展示会。こうしたシューズブランドはディスプレイにも趣向を凝らしているので毎回参加するのがとても楽しみでした(平川)

(2)最近買った靴は?

平川:私は靴に限らず、ハマると飽きるまで同じブランドばかり買いがちなので、最近はもっぱらマノロ ブラニク(MANOLO BLAHNIK)ばかり買っていますね。一番最近買ったのはこちらのブーティーです。アッパーがメッシュ素材なので真夏と雨の日以外は履けるなと。あと、ヒールもアワーグラス型なので細くても歩きやすいのがポイントです。

池村:マノロは欲しいのが日本で展開してなくて、一応入荷したら連絡してくれるようお願いはしたのですが、音沙汰なく2年位経過してますね…。あと、ラフィアの涼し気なやつは一足くらい持っててもいいかなと思ってます。で、私が一番最近買ったのはビームスプラス別注のオールデン(ALDEN )のローファーです。こちらなんと、レッドソールです。前から気になっていたのですが、この判決に接して、いい機会かなと思い、先日ゲットしました。8足目くらいのオールデンです。

ビームスプラス別注のオールデン。ルブタンのレッドソールより茶色寄り。そして靴底の素材はラバー。

(3)欲しい靴は?

平川:私はそろそろ今年の夏に履くサンダルを調達しないとなと思っています。ピッピシック(Pippichic)のブラックスエードの9㎝ブロックヒールサンダルは、見た目と価格と使い勝手のバランスが非常に良くて、ここ5年程毎シーズン買っては履きつぶしていたんですが、今年は作っていないみたいでショックを受けています…。これに代わるサンダルを探さないといけないので、伊勢丹まで靴探しの旅に行きたいと思います。(私もヒトのこと言えないですが、)池村弁護士は自席のデスクの下も靴だらけですよね(笑)。次に狙っている靴は?

池村弁護士はデスク下に靴をたくさん置けるよう改造している

池村:健康志向やコロナ対策の意味もあって、ここ最近ずっと徒歩通勤をしていて、また三浦法律事務所に来てから、あまりカチッとした服装をしなくなったこともあって、レザーソールの本格靴はほとんど履かなくなり、歩きやすいゴム底の靴ばかり履いています。その観点から、ジョンロブ(JOHN LOBB)のロペスというローファーのライトウェイトウォーキングソールを搭載したやつが今一番欲しいです。かなりお高いのでまだ躊躇しておりますが。

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Authors

池村 聡(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2001年弁護士登録、第二東京弁護士会所属。2001~2018年マックス法律事務所(現 森・濱田松本法律事務所)、2009~2012年文化庁長官官房著作権課。2019年から現職。一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS) 理事(2019年~)、文化審議会著作権分科会 法制度小委員会 委員(2020年~)、著作権法学会 監事(2021年~)。

平川 裕(三浦法律事務所 PRマネージャー兼アドミニストレーション・グループ マネージャー)
PROFILE:大学卒業後に日本の大手法律事務所に7年半勤務。2017年からファッション業界紙「WWDジャパン」の編集記者として、同紙におけるファッションロー分野を開拓する。同時にバッグ&シューズ担当としてパリ・ファッション・ウイークや国内外のCEO・デザイナーへの取材も行う。19年6月から三浦法律事務所のPRマネージャー兼アドミニストレーション・グループマネージャーを務める傍ら、フリーランスのファッションジャーナリストとしても活動する

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三浦法律事務所の公式noteです。法律ネタから弁護士インタビューまで。 HP:https://www.miura-partners.com/ 公式Twitter:https://twitter.com/miura_partners (代表弁護士:三浦亮太/第二東京弁護士会所属)