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株主総会よもやま話(5・完)

最終回は動議や震災等の緊急事態対応を取り上げます。

まずは動議です。動議は滅多に遭遇しないと思いますが、毎月、どこかの会社で提出されています。そして「議長、動議!」と大声で叫ばれると、普通は一瞬思考が停止します。動議の処理のミスは説明義務違反や打ち切りのタイミングのミスと並んで当日の進行を理由とする決議取消事由につながるものですので、避難訓練のように毎年練習しておくことをお勧めします。

手続動議

株主総会よもやま話_比較表1

【手続動議とは】
動議は会議の手続や審議内容について会議体の構成員から会議体に対して行う提議と言われています。

株主総会に関する動議はその内容に従い①手続動議と②修正動議とに分類されています。

手続動議は会社法に条文のある資料等調査者の選任(会社法316条)、延期又は続行の決議(会社法317条)、会計監査人の出席(会社法398条2項)と、会社法に条文のない議長不信任、休憩、議案の審議順序の変更・審議方法の変更、質疑打ち切り・続行などが挙げられます(震災直後は黙祷の動議などというものもありました)。

【手続動議を取り上げるか否か】
会社法に条文のある動議は必ずとり上げます。会社法に条文のない動議であっても、議長不信任動議については上記の裁判例において「権利の濫用に当たるなどの合理性を欠いたものであることが一見して明白なものであるといった事情のない限り、これを議場に諮る必要があるというべき」と判示されています。この裁判例は議長が議長不信任動議を取り上げなかったため、裁判所がとても苦労しています。

事務局としては、「『議長不信任動議!』と言われた場合には取り上げる」ものとして準備しておきましょう。

【手続動議をいつ取り上げるか】

ただし、動議といえども必ずしも提議されたときに取り上げなければならないものではありません。

初回の株主総会よもやま話に記載しましたが、議長には議事整理権(会社法315条1項)があり、議長が「皆さまからのご意見・ご質問など一切のご発言につきましては、報告事項の報告および議案の内容説明が終わりました後に一括して承りたいと存じます。」と述べればそれがルールになります(札幌高判平成9年1月28日資料版商事法務155号107頁)。

そのため、株主総会の冒頭で「議長不信任動議!」という発言があったとしても、「ただいま議長不信任動議という発言がありましたが、動議の提出を含め報告事項の報告および議案の内容説明が終わりましたあとにお願いいたします。議事を進めます」としてスルーしても問題なく、議長の指示に従わずに不規則発言を続けた場合には退場させても問題ありません。ただし、その場合も上記の裁判例を踏まえて、報告事項の報告と議案の内容説明が終わったあと、「株主様との質疑応答に先立ち、株主総会の冒頭において議長不信任動議とご発言された株主様がいらっしゃいましたのでこの場でお諮りいたします」として処理します。

東京ではこの数年、数多くの株主総会に出席しては冒頭で「議長不信任動議!」と述べて一悶着起こして退場する名物株主がいらっしゃいました。その際には議長不信任動議をその場で取り上げて否決することが実務対応として定着していましたが、事務局としてはあくまで「動議をいつ取り上げるかも議長が定めたルールに従わなければならない」という原則を押さえておく必要があります。

【手続動議のシナリオ】
後述する修正動議は会社として付議する原案がありますが、手続動議は特段会社として付議する原案はありませんので、その場で処理します。

どの手続動議であっても、赤字の「議長を交代せよとの動議」の部分を「休憩せよとの動議」、「会計監査人の出席を求める動議」などと修正すれば使えます。
処理のポイントは「私としては、その必要はないと考えておりますが」として議長の考えを述べ、「私の考えにご賛成いただける株主様は拍手をお願いいたします」として議長の考え方に賛同を求めることです。誤って「ただいま株主様より議長不信任動議が提出されましたが、ご賛成の株主様は拍手をお願いします」などと述べてしまうと手続動議が可決されてしまう可能性がありますのでご注意ください。

修正動議

株主総会よもやま話_比較表2

修正動議は、株主が株主総会の目的事項(議題)について議案を提出するものです。会社法304条に根拠条文があります。

会社法に基づく株主の権利行使ですので、議長は修正動議が提出された場合にはこれを取り上げなければなりませんが、動議を取り上げるタイミングについて議長が議事整理権に基づき定められることは手続動議と同様です。

ここで問題です。

「取締役3名選任の件(候補者A,B,C)」において、適法な修正動議はいずれでしょうか。
1)Dも選任すべき
2)Cに変えてDを選任すべき
3)Cの選任は反対である

参考になる裁判例があります。

株主総会よもやま話_比較表3

招集通知では「取締役5名選任の件」や「監査役3名選任の件」など選任する員数が記載されていますが、これは、員数も会議の目的事項(議題)に含まれるためです。

そして、会社法304条は「株主は、株主総会において、株主総会の目的である事項につき議案を提出することができる。」と定めていますので、会議の目的事項(議題)を超える提案はできません。そのため「1)Dも選任すべき」は、可決されると取締役4名になってしまう可能性がありますので不適法です。「3)Cの選任は反対である」は、単にCの選任に反対と述べているだけで具体的な提案がありませんので修正動議ではありません。適法な修正動議は「2)Cに変えてDを選任すべき」ということになります。

ただ、議場でこれらを瞬時に判断することは困難です。適法な動議を動議として取り上げなければ違法ですが、適法でない動議を動議として取り上げても特段問題はありませんので、実務上は細かい区別はせずに上記のようなシナリオで処理しています。

なお、上記のシナリオのポイントは、①(手続動議と異なり)その場で議場に諮るのではなく、後に行う採決の際に会社が提案する原案とともに諮る旨と、②採決の際は会社が提案する原案を先に諮る(原案先議)旨について、議場の過半数の了解を得ていることです。

2点目については次のような裁判例もあります。

株主総会よもやま話_比較表4

修正動議が提案された時ではなく採決の時に原案先議を議場に諮るシナリオも問題ありませんが、私は諮り忘れることが怖いので、上記のシナリオのように修正動議が提案された時点で原案先議についても議場に諮っています。

この場合、採決時は通常通り原案を可決したうえで、修正動議については議場に諮らずに否決したものとして取り扱う旨を宣言するだけになります。なお、事前に提出された議決権行使書については、原案に賛成とされているものは修正動議について反対とされ、原案に反対とされているものは修正動議について棄権として取り扱われます。採決時点において会社の原案について議決権行使書や会社の原案について賛成が見込まれる大株主等の存在により可決要件を満たしている場合には修正動議は必ず否決されます。

震災等の緊急事態

株主総会よもやま話_比較表5

震災等が発生した場合、延期や続行の決議をするという選択肢があります。議事に入る前に行うものが「延期」(改めて開催される株主総会は「延会」)、議事に入った後に行うものが「続行」(改めて開催される株主総会は「継続会」)で、いずれも会社法317条が根拠条文です。ただ、私は、延期や続行の決議ができるようであれば上記のシナリオを読み上げることはできるため、上記のシナリオで株主総会を終わらせることにしています。

震災は開会直後に起こるのか、報告事項の報告・決議事項の上程の途中で起こるのか、質疑応答の途中で起こるのか分かりません。どこで震災が発生しても上記のシナリオで対応します。

上記のシナリオはあくまで非常事態用で、平時に用いてはいけません。まず、報告事項の報告・決議事項の上程を「報告事項及び決議事項の内容についてお手元の招集ご通知記載のとおりご報告し」としか述べていないうえ、質疑応答を一切省略してしまっています。これは平時では説明義務違反の誹りを免れません。また、議案の採決を一つずつ行わず、まとめて採決しています(「一括上程」ではなく「一括採決」。そのため、「過半数のご賛成」や「3分の2以上のご賛成」という表現ではなく「法定多数のご賛成」という表現にしています)。現在は、全議案の承認可決が確定している場合も議場の株主に反対の意見を表明する機会を与えるべく、一つ一つ議場に諮っていることが多いと思いますが、震災という特殊事情であれば裁判所も許容してくれるのではないかと思い、簡素なシナリオとしています。

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株主総会よもやま話「株主総会のあり方」

コロナ禍は株主総会のあり方を見直す機会になったと思います。

会場に近いところに居住している株主しか来場することが難しいリアル開催よりも、全国(全世界)の株主がアクセスできるバーチャル株主総会のほうが理想なのかも知れません。リアル開催における議場での採決は通常拍手のみで済ませていますが、バーチャル株主総会(出席型)のように投票システムを整えれば、議場に来場した株主の票数もきちんと集計できるかも知れません。そうすれば、議案の数だけ可決の御礼のお辞儀をしている現在のシナリオを変更し、全議案の集計結果をスクリーンに表示したうえで、役員の可決の御礼のお辞儀も1回にまとめることもできます。

コロナ禍対応で株主総会の所要時間を短くするべくシナリオの短縮を検討する際も、法律の根拠、裁判例の裏付けがあっての文言と、慣行・慣例での文言等があることを確認しながら進めることが重要です。

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おわりに

これまで全5回にわたり拙い説明にお付き合いいただき誠にありがとうございました。

事務局の周到な準備と、議長をはじめとする役員の熱意、真摯さが株主に伝わり、会場の一体感を感じられるときがあります。この一体感を感じられることが事務局に立ち会わせていただく醍醐味です。

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今後も皆様のお役にたてるよう精進して参ります。


Author

弁護士 三浦 亮太(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2000年 弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2000~2018年 森・濱田松本法律事務所。2019年に三浦法律事務所を旗揚げ

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