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株主総会よもやま話(1)

今年の6月総会シーズンも終了いたしました。新型コロナウィルスの影響とはいえ、「招集」を「通知」する書面で「株主総会当日のご来場をお控えいただくよう強くお願い申し上げます。」などという文言を盛り込む日がくるとは予想しませんでした。

さて、今年の総会では新型コロナウィルスの感染拡大防止の観点から運営時間を短縮する試みもなされました。これまで当然のように盛り込まれていた定足数充足宣言、監査報告、一括上程方式の付議などを短縮・省略される例も多かったと思います。そもそもこれらはなぜシナリオに盛り込まれていたのか疑問に思われることはなかったでしょうか。株主総会のシナリオは長い間の慣行、裁判例等が反映されている箇所が多くあります。

そこで、この「株主総会よもやま話」では株主総会のシナリオを中心にして株主総会関連情報をご説明したいと思います。なお、「株主総会よもやま話」は最新情報を提供することを目的としておらず、株主総会事務局の経験が浅い方を念頭におきながら、時折脱線しながらゆるく進行いたしますのでご理解ください。

議長就任宣言

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株主総会にトラブルはつきものです。毎年、インフルエンザで登壇できなくなる議長もいらっしゃいます。会場には到着して登壇はできるものの、体調不良のため議長職を務めることは難しく、他の役員とともに回答のみ担当したいという社長もいらっしゃいました。直前まで腹痛に襲われてトイレから出てこられなかった社長もいらっしゃいました。そのようなとき、事務局としては予め取締役会で定めた代行順位に従い、代行順位第2位の役員に議長職を務めていただくことを考えることになります。ただ、上記のように会場に到着している場合まで「事故あるとき」としてよいのか疑問に思われるかも知れません。「事故あるとき」の射程範囲については、古いですが裁判例があります。よく読むと、社長に予めお伝えしておくのが憚られるほど「事故あるとき」は広く解されていることが分かります。

「病気、負傷」・・・まあそうでしょうね。「旅行!?」「自らの意思で株主総会に出席しなかった場合!?」・・・今回の株主総会は不祥事もあったし、集中砲火浴びるのもイヤだから専務よろしくね、となってもこの裁判例によれば「事故あるとき」としてよさそうです。

「事故あるとき」の射程範囲が広いことは覚えておきたいところです。

なお、最近、定時株主総会前に(たとえば3月決算会社の期初の4月1日をもって)社長が交代し、その社長が取締役にまだ選任されていないケースが散見されます。定款に次のような規定がある場合、「事故があるとき」として次順位の取締役が議長を務めることも考えられますが、新社長が議長を務めることはできないのでしょうか。

第〇条(議長)
1 株主総会の議長は、取締役社長がこれにあたる。
2 取締役社長に事故があるときは、取締役会においてあらかじめ定めた順序に従い、他の取締役が株主総会の議長となる。

会社法制定前の旧商法では「総会ノ議長ハ定款ニ定メザリシトキハ総会ニ於テ之ヲ選任ス」(旧商法237条ノ4)という規定があり、総会において都度議長を選任するのは面倒なので、一般的には定款で議長についての規定を設けてあります。他方、会社法では、そもそも法定の議長が存在することは前提としておらず、株主総会において議長を選解任することは自由であるという発想のもと、議長に関する規定は設けられていません(相澤哲編著「立法担当官による新・会社法の解説」別冊商事法務295号86頁)。

そのため、上記のようなケースの場合は、総会の冒頭において議長の就任について議場に諮り、議場にいる株主の議決権の過半数をもって決議することになります。
(注:議場にいる株主の議決権の過半数の確認方法については、後日、議案の採決の際にご説明します。)

開会宣言

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天災地変や事故等による電車の遅れなどにより、定刻に開会することを迷う局面もあります。今年は、招集通知発出後に会場のホテルから会場の提供が難しい旨の連絡を受けた株主総会もありました。その場合は代替会場を確保し、可能な限りの方法で株主に告知しますが、どうしても元の会場に来てしまう株主もいます。そのような株主を新会場にご案内する時間を確保するため、開会時間を招集通知記載の時間よりも後ろ倒しにした会社もありました。

これらのケースに関して、開会時間の変更の可否を判示した裁判例が水戸地下妻支判昭和35年9月30日下民集11巻9号2043頁になります。この裁判例は「総会の開会時刻が、社会通念上から見て、是認しうる程度に遅延することは、手続上の瑕疵にならない」としつつ、「3時間以上も遅延したような場合は、事由の如何はともあれ、開会時間を不確定とし定刻に参集した株主に対し、開会時における臨席を困難ならしめるもので、著しくその手続が不公正であるといわざるを得ない。」としています。この裁判例からすると、30分から1時間程度の後ろ倒しは問題ないように思いますが、それ以上後ろ倒しする場合には、慎重な検討が必要になります。

なお、会場の変更についても裁判例があります。招集通知の発送後に当初予定していた会場が使えなくなった場合、開催場所を変更するについて正当な理由があり、かつ変更について相当な周知方法を講じることができるときは、開催場所を変更することも許されると解されています(広島高松江支判昭和36年3月20日下民集12巻3号569頁、「新・株主総会ガイドライン」5・6頁、「会社法コンメンタール7」85頁〔青竹〕])。「相当な周知方法」については、書面による通知が原則的には最も適切であるものの、時間的余裕がない場合には、旧会場への掲示、人・バス・立て看板等による新会場への誘導(広島高松江支判昭和36年3月20日下民集12巻3号569頁)、インターネットによる周知(大阪株式懇談会編「会社法実務問答集Ⅲ」101頁〔前田雅弘〕)などの方法も採り得ると解されています。

招集通知発送後に正当な理由に基づいて開催場所会場又は開始時刻を変更する場合、取締役会の決議を経る必要はなく、代表取締役の判断で行い得ると解されています(「株主総会ハンドブック〔第4版〕」128頁)。ただ、書面決議(会社法370条)も可能となった現行法のもとでは、取締役会決議を得ておくのが穏当です。

株主の発言タイミングの指定

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このシナリオは一括上程方式を前提にしています。以前は一括上程方式の適法性自体に争いがあり、裁判例もありますので追ってご紹介します。ここでは、株主の発言のタイミングの指定です(個別上程方式の場合、最初の株主の発言タイミングは報告事項の報告の後になります)。このような指定は議長が有する議事整理権(会社法315条)で読み込めると思いますが、裁判例もあります。概ね、実務の取扱いを認めている裁判例ですが、よくみると「・・・と記載した『株主の皆様へのお願い』と題する書面の配布」と書いてあります。書面を配布している例は少ないと思いますが、これは、書面を配布した取扱いを適法としているだけであって、書面を配布しなくてはならないという趣旨ではないものと考えています。

また、この裁判例では「動議の提出を含めて株主の発言をどの段階で認めるかは原則として議長の右権限の範囲に含まれる」と判示されている点が重要と考えています。「議長不信任動議!!」という発言があった場合、その時点で議長不信任動議を取り上げなければならないようにも思いますが、私は、議長不信任動議であっても動議提出時点で取り上げなければならないものではなく、「後ほど株主様からご発言いただく機会を設けておりますので、その機会にご発言ください。議事を続けます」という取扱いは許容されると考えています。ただし、株主からの発言を受け付けるタイミングでは、仮に当該株主から発言がなかった(例:その後、不規則発言を続けて退場命令を下した場合)であっても、議長不信任動議という動議の重要性から議長不信任動議を付議すべきです(議長不信任動議については後日説明します)。なお、このような取扱いではなく、議長不信任動議が提出された時点で取り上げてしまうことも勿論可能です。

定足数充足宣言

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新型コロナウィルスの感染拡大防止の観点から運営時間を短縮するべく、定足数充足宣言を短縮する総会も多かったのではないかと思います(例:「議案の審議に必要な定足数を充たしていることを確認しております。」)。定足数充足宣言は、もともと法律上の要請ではありません。定足数の定めのある議案(定款変更議案、取締役選任議案など)について、「定足数を充足しているので安心してご審議ください」と伝える以上の意味合いはありません。

シナリオのこの部分は開会宣言直後ですので、この時点で議決権数等を報告するために10時開会の場合はたとえば9時55分時点の数値を集計しているのですが、定足数充足宣言を質疑応答前に行うことによって10時時点の数値を余裕をもって集計する場合もありますし、上記のとおり本年は短縮して数値は伝えていない例もあります。

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株主総会よもやま話「はじめての総会事務局」

6月の定時株主総会のピークの集中率は1995年の96%といわれています。96%ということは、ほぼ全ての会社が同じ日に株主総会を開催していたことになります。そうすると、どんなに株主総会指導で著名なレジェンド弁護士であっても、6月総会は1社しか出席できません。そのため、私が駆け出し弁護士のころは1年生であっても1人で株主総会の事務局に送り込まれました(当時は4月に弁護士登録をしていたので、右も左も分からないうちに6月の定時株主総会の事務局に送り込まれることになります)。

私が最初に担当させていただいた会社は、事務局が役員席の後ろではなく、役員席の前にありました(その後も役員席の前に事務局がある株主総会には出会っておりません。。)。

「君の役目は、議長席に突進してくる株主がいたら体を張って止めることだ」という先輩がいて、「冗談でしょう」と思っていたのですが、当日会場に行くと最前列に紋付き袴をきた威風堂々の株主がいるではありませんか・・・。

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完全に仕事を間違えたと思いました。中村直人先生の「役員のための株主総会運営法」(商事法務)を握りしめながら、「誰も発言しないで・・・」と祈っていたことを覚えています(後日、その株主はいわゆる「与党」であることを知らされましたが)。

議長席がアクリル板で囲われている会社もありました(飛沫感染防止ではありません。株主席から物が飛んでくるのを防ぐためです)。

この20年でも色々と様変わりしたものです。


Author

弁護士 三浦 亮太(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2000年 弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2000~2018年 森・濱田松本法律事務所。2019年に三浦法律事務所を旗揚げ

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