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株主総会よもやま話(4)

本題に入る前に-議事進行を止めるケース

‘’株主総会よもやま話’’は、株主総会のシナリオを軸に進めています。シナリオの作成にあたっては細かい言い回し、文字の大きさ、改行・改ページの位置などに注意し、リハーサルでも細かい指摘をします。他方、本番では多少の言い間違いはそのまま’’スルー’’し、議事進行を止めることは極めてまれです。私も次のケースでしか議事進行を止めたことはありません。

【Case 1:配当の金額の言い間違い】
議長が1桁多く読みました。法的には単なる言い間違いと評価されると思いますのでスルーしてもよかったと思いますし、1桁多い配当なら株主はハッピーですが、議事進行を一回止めて言い直して頂きました。

【Case 2:合併比率の言い間違い】
議長が1桁少なく読みました。「1対0.00002」という、読み上げにくい比率も問題ですが。。。こちらもケース1と同様スルーしても問題ないと思っていますが、議事進行を一回止めて言い直して頂きました。

【Case 3:採決飛ばし】
第1号議案の採決のあと、第3号議案の採決に進んでしまいました。シナリオを1枚多くめくってしまったのが原因です。こちらはスルーするわけにいきません。前日までにどれほど議決権行使書で賛成票が集まっていようとも、当日、採決というアクションをとらなければ可決になりません。そのため、議事進行を一回止めて言い直して頂きました。

【Case4:修正動議の採用】
シナリオではありませんが、議長が修正動議を採用してしまいそうになったこともありました。

(株主) 定款変更議案で事業目的を●●と変更する旨を提案されているが、▲▲の表現のほうがよいのではないでしょうか。

(議長) たしかにそうとも思いますね。私はそれでもいいと思いますが、事務局はそれで大丈夫でしょうか。

(事務局)議長、一回審議止めてください。・・・ここで議案を変更すると、昨日までに集まった議決権行使書の賛成票はすべて反対としてカウントしなければならず、結果、定款変更議案は否決されます。ですので、株主のご意見はご意見としつつ、今回は会社が提案した内容でご理解頂きたい旨をお伝えください。

当日はいろいろなことが起こります。事務局は気を抜かずに集中しましょう。

さて、本題に入ります。シナリオの続きです。

本題

質疑応答

株主総会よもやま話_比較表1

【マイクの種類】
このシナリオではワイヤレスマイク方式にしています。一般的にはスタンドマイク方式とワイヤレスマイク方式のいずれかの選択です。昔はスタンドマイク方式一択であったように思います。その後、①高齢であることも多い株主をマイクまで歩かせることの是非、②質問が終わった株主の座らせやすさ、③ワイヤレスマイクであっても株主が制止を聞かなければマイクをオフにすることはできることなどの理由から、ワイヤレスマイク方式が増えました。私もワイヤレスマイク方式が好みです。しかし、今般のコロナ禍の影響で、株主の発言が終わるごとにマイクを清拭する作業の観点から今年はスタンドマイク方式が増えたように思います。スタンドマイク方式の場合はシナリオを若干修正します(例:「お手数ですが議場中央のスタンドマイクまでお進みいただき・・・」)。

【発言株主の入場票番号、氏名】
株主総会では長らく発言する株主に「入場票番号と氏名」を申し出させていました。しかし、議場の様子を同時配信したり後日配信したりする場合には、個人情報保護の観点から氏名を名乗らせないシナリオに変更します(例:「お手元の入場票の番号のみをお知らせください。お名前は不要です。質疑応答の模様につきましては、本日、インターネット上で同時配信を行っており、また、後日配信も行います。株主様の個人情報保護の観点でも、入場票の番号のみをお知らせくださいますようお願い申し上げます。」)。もともと株主総会議事録には発言株主の氏名まで記載していない例も多く、また、入場票番号が分かれば発言株主は特定できることから、今後は氏名を名乗らせない例も相応に増えるかも知れません。

【質問数の制限】
このシナリオでは質問を1回1問としています。このような制限については、それを許容する裁判例があることを踏まえて行っています。「1人1問(2問/3問)」とするのか「1回1問(2問/3問)」とするのかなどは、出席株主数に応じて定めます。後者の場合は次のようなシナリオも考えられます。

「なるべく多くの方に質問の順番が回るようにするため、お一人の方のご質問はとりあえず二つまでとさせていただき、他の方からの質問が途切れたときに、同じ方からの追加の質問を頂くようにしたいと思います。」

【発言/質問】
シナリオにおいて「発言」という表現を用いるときは、質問に加えて動議も含まれていることが多いです。「審議を終了した後のご発言はお受けできません。」というシナリオは、審議を終了した後は動議も受け付けません、と宣言していることになります。

株主総会よもやま話_比較表2

【質疑打ち切り】
株主との質疑を繰り返す過程において、事務局としては質疑を打ち切って採決に移行する頃合いをみはからいます。この打ち切りも、それを許容する裁判例も踏まえて行っています。ここでは2つの裁判例を挙げていますが、2つ目の裁判例は電力会社が舞台となっており、相当の出席数がいる状態においても50分での質疑打ち切りを認めています。打ち切る要素は時間のみではなく、それまでに発言した株主の人数、発言数、質疑応答の時間、発言を希望している株主の数、発言内容(目的事項との関連のない質問が続けられていることを打ち切りを認める要素として挙げた札幌地判平成5年2月22日資料版商事法務109号56頁、質問が重複して行われていることを打ち切りを認める要素として挙げた名古屋地岡崎支判平成9年6月12日資料版161号182頁、東京地判平成10年4月28日資料版173号185頁など)を踏まえて判断します。

打ち切りは議長の議事整理権の範囲内と整理することもできますが、シナリオでは議場に諮って議場の株主の議決権の過半数が賛成したことを確認して採決に移行しています。

採決

株主総会よもやま話_比較表3

【採決の方法】
このシナリオでは「原案にご賛成いただける株主様は拍手をお願いいたします」として拍手を促しています。「原案にご異議ございませんでしょうか」という諮り方もあります。後者は、株主席からなにも反応がなくとも「異議がなかった」として賛成として扱うことができるという長所があることから総会屋時代から長らく用いられてきました(実際には社員株主が「異議なし!了解!議事進行!」と腹の底から大声で叫ぶ練習をしていましたが。。)。

ただ「ご異議ございませんでしょうか」という言葉は日常使わないため、最近は「ご賛成いただける株主様は拍手をお願いいたします」というシナリオをよく見かけます。

「ご賛成いただける株主様は拍手をお願いいたします」であっても、「ご異議ございませんでしょうか」であっても、当日出席の株主が賛成・反対いずれの議決権を行使したかは確認していません。「どうやって数えてるんだ!!」、「どこに大株主がいるんだ!!」と叫ぶのは総会屋時代の鉄板発言でしたが、議決権行使書や電磁的方法による事前行使分と当日の出席株主の一部(大株主や委任状出席の株主)の議決権行使によって決議事項の可決又は否決が明らかになっているため、株主総会当日に出席したその余の株主が賛成、反対、棄権のいずれであるかは通常確認しません。このような取扱いは、上記の裁判例でも認められています。

言い換えると、当日出席の株主の議決権行使結果を確認しなければ可決・否決が確定しない場合には、「投票」を行うことになります(後述の「株主総会よもやま話」をご参照ください)。

【役員の礼】
細かいですが、株主席の拍手の後の「ありがとうございます。」の箇所で役員一同が礼をするシナリオと、「原案どおり承認可決されました。」の箇所で役員一同が礼をするシナリオがあります。どちらでも問題ありませんが、このシナリオは後者を採用しています。後者は、「ありがとうございます」は議長が拍手を促したことに対して株主が応えてくれたことに対する議長の御礼であり、「原案どおり承認可決されました」の部分で議案を株主総会に上程した取締役会の構成員として役員一同が礼をするという発想でシナリオを作っています。

役員紹介等

シナリオは以上で完結していますが、実務上はそのほかに役員紹介(新任のみの場合と、重任役員を含める場合があります)を行うことが多くみられます。私としては不測の事態に備えて先に閉会宣言をしてしまい、その後に役員紹介をすることをお勧めしています(退任役員が挨拶する場合も同じです)。シナリオ例は次のとおりです。

「以上をもちまして、本日の会議の目的事項はすべて終了いたしましたので本総会は閉会といたします。閉会後で恐縮ですが、ここで新たに選任されました取締役をご紹介いたします。取締役の●●です。(本人)●●です。よろしくお願いいたします。(一礼) (中略) 以上をもちまして終了いたします。(「終了いたします」を合図に役員一同起立) 本日はご出席いただきありがとうございました。」

・・・

株主総会よもやま話「採決」

株主総会は株式会社の最高意思決定機関であり、会議体である以上「採決」というアクションが必ず必要になります。採決は構成員の賛否を確認するものですが、実際には拍手や発声(「異議なし!」など)で済ませ、出席株主の個別の意思を確認することはしていません。

これは上述のとおり議決権行使書や電磁的方法による事前行使分と当日の出席株主の一部(大株主や委任状出席の株主)の議決権行使によって決議事項の可決または否決が明らかになっているためです。株主総会の議場には株主全体の1%程度しか来場しません。そして、大株主など事前に賛否が分かっている株主を除く来場者の議決権の合計は通常僅かであるため、その議決権の行使内容によって結論が変わることはありません。

ところが、委任状勧誘合戦(プロキシーファイト)がなされた場合などにおいて、ごくまれに来場した株主の議決権の行使内容によって結論が変わることがあります。

この場合は投票箱を用意して投票してもらうことになります。

今でこそ投票用紙にバーコードやQRコードを付して迅速に集計できるようになりましたが、昔は手作業で集計してエクセルで入力したこともありました。途中で計算ミスが発覚したりして、来場株主は数十人しかいないのに集計に3時間かかったこともありました。

結論はドラマチックになります。取締役選任議案で敗れれば経営陣総交代の場面に立ち会うことになります。勝利したときはテンションMAXです。

よもやま4

次回(最終回)は動議などイレギュラーなケースをとりあげます。


Author

弁護士 三浦 亮太(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2000年 弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2000~2018年 森・濱田松本法律事務所。2019年に三浦法律事務所を旗揚げ

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